第3話 いざ大陸へ!!
「あ…、ああ……」
頭が酷く痛い。……あれ?俺は何を?
「お、トーリンおはよう!」
すると視界に入ってきたのは赤い髭を生やした大男。俺の親父、トールギスだった。
ああ、そうか…、アイスグリズリーと戦った後、血の流しすぎで倒れたんだ。周りを見たら、俺の家、そして俺の部屋のベッドに寝かされており、どうやら親父とお母さんが交代で看病してくれているらしい。
その時、あの恐ろしい生首の化け物を思い出す。ぞくりと背筋が凍るのを感じる。しかし、あれを殺したのは俺だ……、恐怖は破壊した。
俺はまだ痛む体を起こし、だるさを頭を振って払う。
「親父、俺はどれくらい寝ていた?」
「うーん、2日くらいだな、結構寝てたぞ」
親父はそう言った…、正直もうちょい寝てると思ってたのだが…。
「それにしても、やったじゃないか!!一人でアイスグリズリーを倒したんだろ?流石パパの息子だ」
親父は俺の姿を誇らしそうに見ている。その様子に、何処かむず痒い物を感じた。
「ん、ま、まあな…。」
そんな俺の様子を「トーリンは、恥ずかしがり屋だなぁ」とガハハと笑うのであった。
何はともあれ、俺はこの地でどうしてもやっておかなければならないことは終わった。
勿論、ここアーガルズの全ての魔物を倒した訳では無い。ドレイク、アイスワーム、フェンリルなどのとんでもない怪物どもとはまだ一度も交戦していない。これらの魔物はヴァルハ族の選りすぐりの戦士のみが戦えて、その選りすぐりの戦士でも戦死することのあるとんでもない魔物達だ。
いずれ挑みたい、そう思うが、おそらくまだまだ先の話になるだろう。
そんな事を考えていたら、ギデールさんが部屋の中に入ってきた。
「やっ!トーリン君おはよう…。実は君に話があってね……、あのアイスグリズリーの件だ」
ギデールさんは真面目な雰囲気を出した。確かに、あのアイスグリズリーは明らかに普通じゃなかった。きっとその件だろう
✦✦✦
「単刀直入に言うと、あのアイスグリズリーは変異個体だったことが分かった」
やっぱりか…、それが俺の感想だった。何故ならばあそこまでの異常な生命力と執念は普通のアイスグリズリー…、いや、魔物ではない。
「脳に何かしら異常がある事が分かったんだ……、そして、このアイスグリズリーのように、異常な変異個体が大陸でも複数体発見されてね」
俺はその言葉に驚いた…。いや、その言葉を聞いた親父も驚いていた。大陸にもあんなのが?
「勿論、アイスグリズリーのようなそもそもが強大な魔物じゃないけど…、どれも君と戦ったアイスグリズリーと同じように、異常な殺意、異常な執念、異常な生命力を持ち、信じられない凶暴性を持っていたらしい。そして、その異常な化け物は近年数を増やしていると」
「つまり、それらが魔物の南下や活発化の要因であると?」
「ああ、おそらく、そう言った恐ろしい魔物におそれをなした魔物が人類の生活圏まで逃げてきているのだろう」
「これは、厄介な事だな」
その話を聞いた親父は自慢の赤ひげを撫でながら神妙に頷いた。その時、ギデールさんが口を開く。
「まあ、それはそれとしてだ」
暗くなった雰囲気をパチンと手を叩いて散布させたギデールさんはいつもの陽気な声に戻り
「トーリン君のアイスグリズリー討伐祝として、パーティーをしよう!!」
「お、いいねそれ」
親父とギデールさんはノリノリでパーティーの準備をし始めた……。
あのー、まだ俺ズタボロなんだけどなぁ…。まあ、いっか
その日の夜は村総出でパーティーが開かれた、キャンプファイヤーに様々な美味しい食べ物、その日の夜は戦闘狂の戦士の村とは思えない、平和的で楽しい思い出となったのだ。
そんな中、二人の戦士はキャンプファイヤーの灯りから遠ざかった所でチビチビと酒を飲みながら話していた
「そうか…、トーリンは血濡れを殺ったのか…」
「ええ、族長」
「グッフッフッフ…期待を裏切らぬ奴よ…。して、その血濡れの死体は?」
「こちらに…」
そのまま、ギデールは族長を件のアイスグリズリーの死体の解体場まで連れて行った。
それを見た族長は渋い顔を作り、蓄えられた雄々しい髭を撫でる。
真っ赤な体毛。血走った目、長い事戦いに身を投じてきた族長ですら、見たこともない個体だった。これは…、自然に現れるものなのか?これが増えてきていると?
「これは…、まだ序章に過ぎない……、大陸にも同じような物が出たのじゃろう?」
「ええ…」
「トーリンを大陸に行かせるのは正解じゃな…、大陸も、アーガルズも…、これから厳しい時代となるだろう」
それを聞いたギデールも、口にした族長も、未来を憂い…、そして、訪れるだろう闘争に心を躍らせるのであった。
✦✦✦
さて、あれから数ヶ月の月日がたった。そしてついに明日までに迫ったのだ、あの日が!!
ん?なんの日だって?……、そりゃあオメェ…、アーガルズを出て大陸に、行く日だよ!!
ああー、超楽しみだ。
「トーリン」
俺がワクワクして眠れずにいると、部屋に親父が入ってきた。そして何やら手招きをして
「ちょっとこっちに来なさい」
?なんだろうか……、
呼ばれた俺が、家のリビングに入ると、そこにはギデールさんに、村の鍛冶師のおっちゃん、お母さんが居た。
そして、その真中には
「これは、俺達からのプレゼントだ、トーリン、受け取ってくれるか?」
「遠慮なんてしなくていいからね」
親父とお母さんがそう言う。
それは、新しい戦斧と鎧だった。
戦斧は全体が銀色で頑健な作りになっている、ヴァルハ族の戦斧だ。今までの親父のお下がりとは違い、ピカピカに輝いている。
そして鎧だ、ヴァルハ族が好き好んで被る角つきの兜に、毛皮を使われている鎧だ。
その毛皮は何処か赤く染まっている毛皮…、これはあのアイスグリズリーのものか!?
討伐した魔物の素材を使った鎧は、ある種のヴァルハ族のステータス、トロフィーだ。まさか、俺にもそんな鎧ができるとは…、
「親父…、お母さん……、」
俺は視界が涙でぼやけてきた。そんな俺を親父は、「泣き虫だなぁ」と、お母さんは「一人前になっても可愛い坊やだねぇ」と抱きしめてくれた。
ありがとう、二人共、俺はこの武具を大事に使うよ
そう心に誓い、温かな気持ちのまま、眠りについたのだった。
翌日
とうとう来たなこの時が!!
俺はギデールさんの船に乗り、大陸を目指す!!
持つ道具は新品の鎧と戦斧、あとは着替えだ。俺は意気揚々と船に乗り込む。
船は実は帆船なのだ。しかも大きな。アーガルズがヴァイキング的な時代背景だったものだから小さな船しかないかと思っていたが、そんな事は無かった。この世界、造船技術は大航海時代と遜色ないくらいはあるっぽい。
見送りに親父やお母さん、友人たち、親戚、が来てくれた。
「皆ー!!行ってくる!!」
俺は動き出した船の上から皆にそう叫ぶ
「元気でなーー!!」
「たまには帰ってこいよー!!」
「土産話楽しみにしてるからなー!!」
「頑張れよー!!」
などと温かな声援をくれた。ちなみに親父は大泣きしていた。再び温かな気持ちになりながら、俺はこれから訪れる未知の地へのワクワクとした気持ちに胸がいっぱいになったのだった。
✦✦✦
さて、海の旅といえば、潮風に吹かれ、カモメなどの海鳥やイルカ達が出迎えてくれる平和なものだと思うだろう?
ところがどっこい、ここは北方、魔境アーガルズ近海である。凍てつく海は甲板にいるだけで体の芯まで冷え、海はまるで侵入者を拒むように激しく荒れる。
まるで遊園地の船のアトラクションのように上へ下へと激しく揺れる。
その御蔭で今俺は……、
「オロロロロロロロロロロロロ…、」
絶賛船酔い中だ。口からありとあらゆる物が流れ出す…、
「大丈夫?トーリン君?」
具合が悪そうな俺をギデールさんの奥さんの一人、エルフのリエルさんが、背中を擦ってくれる。
「とりあえず、これを飲んで寝とくにゃ」
そう言って船酔い用の薬を渡してくれるのもまた、ギデールさんの奥さんの一人、獣人のプルナさん。猫耳の女性だ。
「回復魔法、かけてあげようか?」
そう言って、くれるのも勿論ギデールさんの奥さんの一人で人間の魔法使い、ハンナさんだ。
御三方は俺が5歳の時から変わらず美人さんである。というか、俺が5歳の時、この人たちまだ10代後半くらいだったと思う。つまり、今でもピチピチの二十代……。
よくこんな海を毎回渡って来れるなぁ…。そう思うのであった。
「はっはっはっは!流石のトーリン君もこの荒れた海には負けてしまうか」
ギデールさんはグロッキーになった俺を見て爆笑していた。……仕方ないだろ、船旅なんて初めてなんだし。
それでもヴァルハ族ではない船員の人たちが、甲板の上で作業をし、ギデールさんの奥方達もなんともない様子を見せる……………。
なんとも言えない敗北感を感じながら、俺の船旅は始まったのだ。
出港から3日が立った。ようやく荒れた海から抜け、2日前と比べると凪のような静けさのある海上に出る。
その頃には俺も吐き気が治まり、ようやく食事を口にする事が出来たのだ。
船酔いで痩せるかと思った……。
そう思いながら、甲板に腰掛けて干し肉を齧っていると、遠くに船が見えた。
……ここいらにも他の船が来るんだなぁ…、でもあんな船アーガルズに来たことないよなぁ
「なあ、ギデールさん…、ここいらってアーガルズ以外になんか集落でもあるの?」
俺が船員に指示を出していたギデールさんに聞いてみたところ
「え?そんなの聞かないけど…、どうしたの?いきなりそんな質問して」
「いや、あそこに船が見えたから、不思議だなー、って思って」
そう言って、俺は先程見つけた船を指差す。船員達はそっちの方を見て、「あれ?本当だ」「何故に?」などと口を開くが、それを見たギデールさんの表情が一変する
「総員!!全速力であの船から離れろ!!!」
ギデールさんが指示を飛ばす。どうしたんだ?
「ギデールさん?」
「………、クラーケンだ、奴らは船の残骸を使って擬態する」
ギデールさんは渋い顔でそう言った。クラーケン…、海に生息する巨大な軟体動物の化け物。知能が高く、海にはあまり出ないヴァルハ族にとっては馴染のない魔物だ。
「クラーケンって、船に擬態するんですね」
「ああ、何度か騙されて船を壊されかけたよ……。海は陸とは勝手が違う……。戦おうなんて思わないほうがいいよ」
俺が考えている事を見透かしていたギデールさんはそう忠告した。まあ、それもそうだな。陸とは違い、船を壊されたらそれだけで俺達の負け、その上あのデカさ、そして軟体動物というそもそもが、生命力の高い存在だ。
それにこの船にいるのはヴァルハ族だけではない。船員やギデールさんの奥さん達は大陸の人間。よほどのことがなければ戦わない方が良いだろう。
だけどなぁ、強いのが分かってて戦えないってのは戦士として不完全燃焼だな。
ギデールさんもそう思っているのか、クラーケンから目を離さない。
俺達の二人だけなら確実にクラーケンに突撃してたな……、そう思うのだった。
「まあ、どうしても戦いたいなら、クラーケン狩りをしている船団に協力して貰うことだね」
「クラーケン狩りをしている船団?」
「ああ、クラーケンは人間を好んで襲う魔物だから、街の近海なんかに出てきた時は討伐しないといけない。漁師や貨物船が襲われるからね」
「なるほど…」
俺は新しくファンタジーなこの世界の知識を手に入れる事が出来て大変満足である。いつか船団の人たちに頼んでクラーケン狩りをさせてもらおう。
それはそれとして、あの擬態に使われている船の残骸はおそらく襲われた人々のものだろう。
せめて、安らかに眠ってくれ、と遠くに見える船の影に祈るのであった。
✦✦✦
クラーケンとはいつか戦おうと思っていたのだが、こんなに早くそれが叶うとは思わなかった。
「ギデール船長!!あれ!!」
それは、ミスガル帝国の港の近海に近づき、陸地が見えてきた頃に訪れた。
船員の一人が望遠鏡で周囲を見渡していた時に見つけたらしい。
クラーケンに襲われている船を。
「あれは!?」
そこの船は明らかに豪華な船だった。うーむ、あれはこの国の要人が乗っているのではないだろうか…
「ギデールさん…」
「……ああ、トーリン君、流石に見殺しにはできないね」
俺はその言葉を待っていた、急いで自分の船室まで戻り、鎧と戦斧を握ろうとするが…。
まてよ、海上で鎧とか着たら泳げなくなるよな
そう思い、兜だけ被り、戦斧を握りしめ、甲板に上がった。
「トーリン君、この船をあれに近づけたらこっちもやられてしまう。だから、」
「なるほど、泳いで向こうまで行くということですね」
「そういう事だ……、総員!!あれは私とトーリン君で対処する!!留守の間の守りは任せたぞ!!」
ギデールさんはそう叫び、上着を脱ぐ、
俺もそれに習い上着を脱ぎ、靴を脱ぎ、泳いでいる間に戦斧が海に沈まぬようにしっかりとロープで体に巻きつける。
………その間船員たちが俺を見ていた気がするが…、まあ、気の所為だろう
ヒソヒソ「見たかよ、あの胸板…」「腕ごっつ!?」「まじで15歳!?」「素敵♡」「たべちゃいたいわ♡」
トーリンはムキムキのマッチョマンだった。その鍛え上げられた雄々しい筋肉は海を生きる男達の目を引いたのだ。
そう、男たちである。ギデールの妻以外にこの船に女性はいないのだ。
そう!!男たちである!!
トーリンは何故か薄ら寒いものを感じたが、それは潮風のせいだと当たりをつけて、海に飛び込む。
さあ、待っていろよクラーケン!!
沸々と滾ってくる戦闘への高揚感を抑えながら俺は襲われている船の方角へ泳いでいくのであった。
✦✦✦
お…、ね。
何かが聞こえる。
おね…、さ、
この声は……、ああ、レナ、私の可愛い妹…。
「お姉様!!」
そこで私は目を覚ました。目の前には涙目で私の体を揺さぶる女の子…。私の、アリシア・ミスガルドの妹、レナ・ミスガルドが、いたのだ……
こ、ここは…、
「姫様!早くこちらへ!!」
私付きの騎士見習いで私たちの付き人、キースがレナと私を引っ張り、船室に入ろうとするが、
ギチョリ
とキースに巨大な何が巻き付く、それは、まるでタコの足のように吸盤があり、磯と小水を混ぜたような悪臭をただ寄らせていた。キースはその巻き付いた物を見て、恐怖と驚きに満ちた顔をした後に、
「うわあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
叫び声を上げて凄まじい速さで引きずられていった
「きゃあああ!!」
レナはその様子を見て恐怖に腰を抜かし、へたり込んでしまった。ああ、そうか、思い出した!!私達は今、海の魔物、クラーケンに襲われているのだと。
周りを見れば騎士や船員達が悲鳴や雄叫びを上げて巨大な触手と戦っているが、その多くが海に引きずり込まれている。
そこでレナの存在を思い出す。こんな所にいてはいけない、レナは私と違って戦闘訓練を受けていない…、体が弱く、病弱な彼女は剣を握ったことすらないのだ。
「レナ!早く逃げよう!!」
私は立ち上がり、レナに手を伸ばそうとしたその時
ザバンッ
嫌にその波立つ音が大きく聞こえた。そして次の瞬間、ゆっくりと巨大な触手が船の手すりから姿を現す。
「あ、…あ、あああ…、」
レナはその姿に怯えて動かなくなっている。カチカチと歯を鳴らし、恐怖に震えている。
私は、そのあまりの大きさに言葉を失い、一瞬唖然としてしまった。だから、ヤツが今から何をしようとしているのか、気づくのに遅れてしまったのだ。
その触手は勢いよく、レナに向って振り下ろされる。
「ッレナ!!!」
私は叫び、レナに駆け寄るが………、遅かった。
ドオオオオン!!!
触手は木くずや埃を巻き上げながらレナのいた場所を潰した。
「あ……、ああ…」
私は起きた事を理解できなかった……、いや、したくなかった。レナが…、それだけじゃない、キースだって……、
キースは私達が小さい頃からの仲だった。キースの家は騎士の家で、私の家に仕える立場、しかし、私達は友人のように遊び、十年近くを共に過ごしてきたのだ。言うなれば、幼馴染みたいなものだ。
レナは私と同じ、綺麗な金色の髪を長く伸ばしており、絹のような綺麗な白い肌をした少女だった。彼女は私と違いお淑やかでとても可愛らしい子だった。
私の可愛い妹だったのだ。
そんな大切な2人が、こんな…、こんな一瞬で………、
「……あ、あれ?」
私が絶望にふけりそうになった時に、聞き覚えのある声が…、いや、さっきも聞いたような気がするが……、え?キース?
私は声のした方に顔を向ける。
するとそこにはキース、そしてレナを両腕に抱えている一人の大男がいたのだ。
その男は上半身が半裸だった。角のついた兜を被り、兜の下からは燃えるような赤い髪が見える。頭の後ろでは、長い髪を後ろで三つ編みに括っているようだ。
そしてその顔は整っており、瞳は琥珀色に輝いている。だが、何よりも目を瞠るのはその筋肉だ。
その大柄な体格に搭載されている筋肉は、見ただけで凄まじい力を持っていることを理解させられる。
彼の背中には巨大な戦斧が背負われており、それが太陽の光に反射してギラギラと輝いている。
大男がキースを私の近くに下ろし、話しかける
「おい、この子、気絶しているみたいだ、船室に連れて行ってやってくれ」
キースにそう言った後、大男はレナを優しく甲板に下ろし、海の方に顔を向ける。
背中に背負ってある戦斧を握り、引き抜く。
もしかして…、あの化け物に挑むのか…。む、無茶だ
「き、君!!あのクラーケンに挑む気か!!無茶だ!!君も船室に逃げるんだ!!」
私は恐らくキースとレナを助けてくれた大男にそう叫ぶ。恩人をみすみす殺されては家名に泥を塗ることになるだろう。何よりも、目の前で人が死ぬのは見たくないものだ。
だが、
この男は、それを良しとしなかった。
「逃げたとして……、誰があのタコを倒す?」
男の言葉は私の心に酷く響いた。誰が、あのタコを倒すのか……、そこで、私はなんのために帝都を離れ、騎士学校へ入学することにしたのかを思い出した。
民を、このミスガル帝国を護るため、騎士を志したのだ。ここで逃げれば…、きっとそれは嘘になる。
それに、私には力がある。神様から授かった力が
「キース、レナをお願い」
私はそうキースに言い残して大男の隣に立つ。後ろでキースが何か言っているが………、すまない。これは私が私の志す騎士になるためなんだ。
怖いから逃げるなんて……、情けない。
「………逃げなくて良いのか?」
大男は不思議そうに私を見つめる。威圧感のある姿なのに、首をかしげ、悪意を全く感じさせないその姿は、何処か愛嬌を感じた。
「ああ、私はアリシア…、騎士を志す者だ。ここで逃げては誓いが嘘になる」
その言葉を聞いた大男は、一瞬目を細め、私の答えに満足そうに、ふん、と笑った。
「俺はヴァルハ族の戦士、トーリン……、君と同じく、騎士に……、いや、聖騎士になるつもりの者だ」
そう言い放ったトーリンは、戦士は駆け出した。その顔は、まるで遊び仲間を見つけた子どものように無邪気に見えた。
━━ヴァルハ族?
❖❖❖あとがき❖❖❖
■トーリン
火のように真っ赤な髪を後ろで三つ編みに括っている。三つ編みをほどけばライオンみたいになる。
■アリシア・ミスガルド
ゲームなら本編での高レアプレイアブルキャラとか主人公枠とかみたいな立ち位置。金髪のショートカット美少女である。
■クラーケン
海の魔物、人間を好んで襲う恐ろしい魔物。タコやイカの仲間で頭部の大きさだけで20メートル程。触手なども含めたら50〜60メートルくらいの長さがあるだろう。
楽しんいただければ幸いです
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