096

 いつの間にか眠っていた様で、突然鳴り響いた轟音ごうおんに飛び起きる。

 窓を小さく開いて確認しても、通りとは反対側なのでよく分からず、仕方なく階下へと急いで降りる。


「大きな音がしたけど何があったの?」


「おはようございますユミル様、先程までオーキンドラフ様がいらっしゃったのですが、扉が開かないので魔法を撃ってくるとおっしゃり出て行かれました。」


 多分、魔法が扉にぶつかった音じゃないか?と、護衛の一人が教えてくれた。

 外に出て確認してみると空が明るくなり始めていて、内壁の門前の広場には兵士達が座り込んでおり、オーキンドラフ様と思われる人達が門の前で魔法を用意していた。

 座り込んだ兵士ほどの大きさはあろうかという大きな土球が、扉の上部にぶつかって轟音を立てて砕け散る。

 当然魔法や矢が飛んでくるけど、護衛達が持つ大盾によって防げる程度のもので、向こうも本当に魔力切れの様だ。

 この音で寝られるわけがないので、私の護衛達にも準備をさせてオーキンドラフ様の元へと向かう。

 4度目に撃ち込まれた土球によって遂に扉が倒れ道が開く。


「丁度いいので一番乗りを頂いて来ます。」


 オーキンドラフ様が命じたのか、破城槌はじょうついを使っていた連中もおらず、自分達よりも前には誰もいない。

 あんなあおり方をした手前、心苦しくはあるけど扉が開くとは思っていなかったのか、周囲はようやく立ち上がって準備を始めたところだ。

 倒れて斜めになった鉄の門扉を登り先に進むと、そこには急ごしらえの堀と土の山があり、この大量の土が扉を開かないように抑えていたのかも知れない。

 手で掘ったにしては大きな穴なのでまさか魔力を敵の撃退ではなく土を掘ることに使ったのだろうか。これだけ大きい穴を掘るなら上位の貴族の手によるものだと思うけど、上位貴族が穴掘りなどするのだろうか?

 効果的には有効だったし、私も大怪我をすることは無かったので助かったけど、変な貴族もいるものだね。

 鉄扉の上から飛び降り堀を越え、周辺の兵士を倒しながら城の玄関へと向かう。

 扉を破壊して中を見ると高そうな家具が山と積まれていて一瞬躊躇ちゅうちょする。

 中に入るのは危ない予感がするので後回しにして、他の門を開けに行くことにしよう。

 私は下級貴族でここは侯爵領だ、どんな魔法が何発飛んでくるか分からないし調子に乗るのは止めておこう。

 敵も疲れ果て、魔力が残っている兵士は外には殆ど居ないようで、私達を止められるものおらずに美しい花壇の間を抜けて反対側の門まで辿り着く。

 こちら側も堀が作られ、土が山になって扉を塞いでいる。

 そのおかげでジャンプすれば私でも蝶番ちょうつがいに手が届くので上から順に壊していく。

 土の下にある分はどうしようもないけど、一晩殴っていたんだし直に壊れるだろう。

 新たに破城槌はじょうついが打ち付けられる度に扉がゆらゆらと揺れ始め、私も戦いに戻る。

 大きな音を立てて門扉が倒れ、味方の兵士が勢いよく入って来るが、結構な数が堀に落ちて上がれなくなった。

 私は飛び越えられたから注意するのを忘れてたけど、アミットに頼んでちょっと壁を削っておいてもらえばよかったかな。

 かわいそうではあるけど、そこまで対応していられないので自分たちで何とかしてもらいたい。

 置いてあった長梯子ながばしごを見て思いつき、大きなバルコニーのある3階の部屋から城に入り込んでみると、誰かの寝室だと思われる部屋には数個の鍵のかかった箱が床に無造作に置かれていて、鍵を壊して中を見てみると金貨や銀貨がぎっしりと詰められていた。


「誰か袋多めに持って来てる人いない?移して影の中に入れていこう!」


「急いで下の連中に聞いてきます!」


「他の兵士にバレないようにね。」


「もちろんです!」


 アミット達は登れないので数人の護衛と一緒に下で待ってもらっている。

 この箱は影に入れるには大きすぎるし重すぎるので、自分で持って来た袋に金貨を詰めて入れていく。

 一箱に何枚入っているか知らないけどサイズ的には3千とか5千枚だろうか、以前城で貰った報奨金がこの大きさだった気がする。

 機嫌よく金貨を影に入れていると突然が開き、中から兵士が出てくる。


「な、何者だ貴様ら!汚い手でそれに触るんじゃない!」


 腰から剣を抜き放って襲いかかってくる兵士達を護衛が蹴り飛ばし、縛り上げて尋問を開始した。


「この隠し扉は何処に繋がっている、兵士は何人いる?」


「知らん!私はたまたま隠し通路を見つけたから逃げ込んだだけだ!」


 魔力も持たないのに少数で私達に襲いかかってきたのも凄いが、隠し通路を魔力持ちが歩いているとバレるため、魔力の無い兵士でも信用できる者を重用している貴族は多い。この兵士達も忠義ちゅうぎに厚い者達なのだろう。


「部屋ではなく通路か、繋がっているのは街中か?それとも街の外か。」


「し、知らんと言っている!この先に行けば大量の兵士に囲まれる事になるぞ!」


「こう言っていますがどうしますか?」


 えーと通路の先に行くと兵士に囲まれるのは本当だけど、そこまでの数はいないってことかな?

 問題は何処に繋がっているかだけど、金貨を運び出して逃げるなら外しか無いよね。


「半数はアミット達を連れて内壁の外に箱を持ち出して。

 残りの半数は私と一緒に遠くの森まで走るよ。」


「まぁそうなりますよね、ですがせめてもう2人連れて行って下さい。鞍に縛り付ければ人間がいなくても運べるでしょう。」


「分かった、後はあの宿で待機するかオーキンドラフ様に指示を仰いで。」


「了解致しました。」


 護衛を2つに分けた後、隠し通路の階段を降りてギリギリ人がすれ違える程度の通路をひた走る。

 金貨の輸送中ということはまだ主が通っていないはずなので、突然通路が崩されるという事は無いだろう。

 通路の先に大群や大槍の人みたいなのが待っていたら困るけど、私は城に残っている方が危険な気がするんだよね。一階の玄関もそうだったけどきっと大槍の人みたいな強い貴族がいるんだと思う。

 通路の行き止まりには見張りはおらず、軽く息を整えてから扉を開いて飛び込む。

 木で出来た小部屋の中で驚いた顔をしている兵士を倒し、小屋の外に出て馬車の周辺にいる兵士を倒す。

 逃げる事もせず兵士達が必死に守っていた2台の馬車の中身を確認すると、城で見た箱と同じ物が10個以上並べられ、よく見る食料と一緒に置かれていた。


「すごいねこれ、城が建つよ。」


「分前は出ますよね?全部独り占めは酷いですよ。」


「この額を景気よく使ってると危ない気がするなぁ。城にあったのを山分けしてこれは本陣に持って行こうか。」


「そんな勿体無い、これだけあれば遊んで暮らせるのに!」


「袋はあげるから好きなだけ詰めると良いよ。影に入る分なら持ち帰ってもバレないでしょ。」


 そう言った瞬間、護衛達が馬車に群がって箱を壊し始める。


「それは困るな、その金貨はお前達の様な下賤げせんな者達が触って良い物ではないのだ。

 全く、部屋が荒らされていたから急いで来てみれば、何処から嗅ぎつけたのかネズミに荒らされているとはな。」


 小屋から現れたのは豪華な衣装をすすほこりで汚し、銀色に光る剣を持った男と、華美かびな鎧を身に着けた貴族達だった。


「敵だ!魔法を撃たれると終わるぞ!敵から離れるな!」


 声を上げると同時にミスリルに魔力を流し込み、剣を持つ男に斬りかかる。

 同じ色に光る剣と斧がぶつかり、火花が飛び散った。


「盗人の分際でミスリルを持つなど一体何処から盗んで来たのだ?みすぼらしい斧になど使おって、それの価値すら分からんようだな。」


「価値はよく知ってるよ、当然便利さもね。」


「ミスリルを便利だと?木こりにでも使ったとでもいうのか!」


「いや、それもやったけど、ちゃんと戦闘での話だよ?」


「神の金属を木こりに使うなど冒涜ぼうとくにも程があるわ!」


 この人かなり上位の貴族のはずなんだけど、魔力が少ないので一戦交えた後なんだろうか。

 他の貴族達もボロボロで護衛達でも相手ができており、身体強化で精一杯といった感じだ。

 ミスリルの武器を相手に攻撃を無視して突撃するわけにはいかないけど、疲れ切った相手なら休む暇もなく防御させれば良い。

 ミスリルを使うためと、斧を受け止めるための身体強化に魔力を使わせて魔力切れを狙う。

 剣技としてはそれほど上手くもなく、私と同じくらいだと思うけど、何故だか鎧を着ていないので急所を狙い放題でこちらに分がある。

 相手が振りかぶっても、こちらは斧を首に押し当てるだけで勝てるのだ。

 それでも相手の魔力が底をついたところでようやく剣を弾き飛ばし、斧の腹で殴って気絶させることが出来た。

 この人偉そうだし生かして持って帰ればそれなりの価値がありそうだ。

 護衛達は貴族達を小屋に押し込み、少ない人数でもよくやっていた。


「交代するよ、誰かあいつの剣使って、流す魔力量に注意してね。」


「了解です、ここお願いします。」


 護衛達の魔力だと何度も殴らないと上位貴族は倒せないのだけど、それだけに斧で殴られるのは恐怖だったのだろう。

 及び腰で綺麗な装飾がされた剣を向けてくる貴族達の剣をミスリルで折り、一人の首を飛ばすと悲鳴が上がった。

 半数以上が地下通路を逃げていき、逃げ遅れた連中に止めを刺していく。


「そこの男を縛って馬車を本陣に向けて移動するよ!お小遣いは諦めな!」


「「「はい!」」」


 お金のために命を捨てられる連中とはいえ、無駄に上位貴族と戦わされる様な場所にいるのは嫌らしい。

 元気な返事の後はテキパキと馬車を操作し、散らばった金目の物を集めて馬車を出発させた。

 装飾品や財布なんかは拾って来たけど、探せばまだまだありそうなので、名残惜なごりおしそうに後ろを見ながら護衛達も馬車に乗っていた。

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