097

 城側の木々の間を抜ける事が出来なかったので、森を大きく回って味方の元へ戻る。

 魔力持ち用の拘束具を嵌めて、持ち物を検査するとやはりというか、この領地の侯爵様だったようだ。

 城で魔力を使い果たしていなかったら、もっと長引いていたか、まずい事になっていたかもしれない。

 鎧を着ていない上にミスリルが磁力魔法にどう作用するか分からないから下手なことが出来なかったからね。今度試しておく必要がありそうだ。

 陣地に到着して本陣へと先触れを出してもらい、しばらくした後天幕へと呼ばれた。


「直答を許す、知っての通り今は忙しい。簡潔に話せ。」


「はっ、隠し通路の先を探索したところ、大量の金貨を持ち出そうとしていた敵侯爵と思われる人物と交戦しこれを捕縛致しました。

 金貨も回収し近くまで持ってきております。」


「ほう、先触れの話は間違っていなかったか。どれ証拠を見せてみよ。」


 そう言われ侯爵が持っていた品と倒した貴族達の持ち物をそれぞれ従者に手渡す。


「一緒にいた貴族達は倒した分だけになってしまいますが、ご確認いただけると幸いです。」


「どうだ?この者が嘘を付くなど考えてはおらんが、前回も信じられん事をやってくれたからな。」


「はい、侯爵を筆頭に伯爵や子爵、男爵など主に周辺の大領地の紋章ですね。細工も素晴らしく印も偽物はあり得ないかと。」


 そう紋章官が保証してくれ、私も安心する。


「文官達からも領地の運営も順調で、直に自力で男爵になるのではと聞いている。

 今回の戦争で昇級したとしても努力を無駄にはさせん様にしよう。絹の事もあるしな、おかげで大分値を下げることが出来るようになった。

 あの業突ごうつく張り共の青ざめた顔をみせてやりたかったわ。」


「殿下、先に金貨についても聞いておきませんと。」


「おお、そうであった。それでいかほどあったのだ?侯爵が抱えて逃げるほどだ、それなりの額があったのだろう?」


 隣りにいた文官が声をかけ、こころなしか回りが前のめりになって耳を傾けた気がする。

 念のため正確な数は分かりませんが。と、前置きをしてから話をする。


「箱一杯の金貨や銀貨が10箱ほどあったので3万枚から4万枚ほどになるのではないかと。」


 城の中で手に入れた分は入っていない、あれを合わせると最低でも5万枚近くになるだろう。懐に入れたのがバレたとしても怒られることはない、基本自分で倒して手に入れた物は自分の戦果だからね。ただ儲け過ぎると文字通り死ぬほどの嫌がらせと嫌味を受けることになるだけだ。

 だからこそ国へ献上して戦功へと変えてもらう制度があり、今回もそのつもりで持って来た。


「ほう!それはまた随分と溜め込んだものだ!戦の前に移さなかったのか、移せなかったのかは分からぬが余程後ろ暗いことをしていた様だな。

 しかし、あれだけ王子の身代金を出し渋っていたというのにそれ以上の額を懐に溜め込んでいるとは、やつら身代金にも上乗せして王に伝えていたのではあるまいな?」


「殿下、そこまででございます。」


「分かっておる、当事者とはいえ金額までは言ったりせんよ。私とて他人事ではないのだ、醜聞しゅうぶんを広める気はない。」


 前回の戦争で捕らえたエランコード国の第二王子の身代金は何故だか金額が噂として一部に広まっており、3万と1万で始まり最終的には賠償金を含めて2万枚で決まったのではないか?と事情通な方がわざわざ教えに来てくれた。

 エランコード国は王子を買い叩いたと第二王子にまで知られ、担当した貴族達は大いに信用を落としたそうだ。


「それだけの額を献上するならば領地の1つもやらねばならんが、あの辺りには渡せそうな領地がない。

 転封などそうそう使えんし、あの面倒な領地からオーキンドラフが居なくなるのも困る。

 いっそ弟達の子を1人もらうか?そなたの子と歳の合うのがいただろうか?」


「で、殿下!王族との婚姻など魔力が釣り合いません。子供達に爵位を継がせることが出来れば十分でございます。」


 王族と親戚になるなんてごめんなので、慌てて否定する。親戚になるということは王位継承争いに参加するということだ。しかも弟君の子ということは第一王子とは敵対することになる。


「で、あろうな。ああ、そういえば其方まだ準男爵位を持っているのだったか。

 であれば簡単だ。そなたとオーキンドラフの爵位をそれぞれ上げ、今回の戦で手に入る領地を渡せばよいではないか。

 うむ、名案だ。そなた等の子供なら強くなるであろうし、良いところを探しておいてやろう。」


 落とし所としては良いかもしれない。運営は大変だと思うけど2人に領地を渡せる様になるのはいいと思う。

 何より爵位が上がりすぎないのがいい。今でも爵位に見合った領地にするのが大変なのに、いきなりじゃあ子爵でと言われていたら卒倒そっとうしていたかも知れない。


「有り難き幸せに御座います。」


「うむ、だが戦争に勝てばの話だ。そなたらの更なる奮闘に期待しておるぞ。」


 殿下に勝利を捧げることを誓い、天幕を出た後殿下の従者に馬車ごと金貨を預け、私達は一度昨日までいた自陣に戻る。


「良く無事に帰った。だがなぜそちらから帰ってくるのだ?間違えて他の門から街を出たのか?」


「ただいま戻りました。城の隠し通路を見つけたのでそちらから街を出たのです。本陣で色々報告した帰りですよ。」


 簡単に報告して従士から酒と椅子を出してもらう。


「城の隠し通路?そう言えば護衛の数が少ないようだが、まさかあの火炎の中には居なかっただろうな。」


「火炎の中?いえ、反対側の門を開けた後は直ぐに隠し通路に入りましたから、そんな魔法は食らっていませんよ。」


 少し青ざめた顔で深刻そうに聞いてきたけど、あいにくそんな大きな魔法を撃たれた覚えが無い。

 そして思い出した残りの護衛達を呼びに行ってくれるように指示を出し、詳しい話を聞いてみる。


「ならばよかった。ユミルが一番乗りなどと言い出して飛び出した後の事だ。

 他の兵士達もあとに続き、私も魔力は減っていたものの一応城の中へと入ったのだ。」


 真剣な顔でつらつらと語り始め、酒を一口飲んだ後で先を話し始める。


「城の玄関が破壊され兵士達がなだれ込んでいるのが見え、私もそれに続いて近寄ったのだが。

 外から見える城の中では炎が荒れ狂い、中にいた兵士達が燃やし尽くされたのを見ることになった。

 ユミルが中にいたのではないかと慌てて中で笑っていた貴族共に土球を撃ってやったのだが、中に入るのはさすがに危険だと止められてな。

 外から貴族達との撃ち合いになったのだが、結局魔力が切れてしまって撤退する事になった。」


 それに見える範囲にはユミルの鎧は転がっていなかったからな、心配はしていなかったが。と、付け加えられ話を締めくくった。


「ああ、あいつらの魔力を減らしてくださったのはオーキンドラフ様だったのですね。

 隠し通路の先で出くわしましたよ。一人胴体に土球を当てませんでした?」


「良い音が響いた気もするが周りが騒がしかったからな、さすがに分からんよ。

 だが無事で本当に何よりだ、あの数の貴族とやり合って怪我はなかったか?」


「通路の出口でやりあったのでほとんどは通路の中でしたから。場所が悪く魔法も使えなかったので怪我もなく何とかなりましたよ。

 そういえばミスリルの剣を拾ったのですがオーキンドラフ様使いますか?」


「ユミル様、それなのですが。ミスリルの剣は根本にヒビが入っておりました。」


 話に割って入ってきた護衛が、鞘に入った剣を差し出してくる。

 抜き放って明るい場所で良く見れば、根元にはぐるりと一周するようにヒビが入り、触れば手で折れてしまいそうな見た目になっていた。


「ユミル様が力任せに何度も叩いておりましたからね、折れてしまうのも仕方がないかと。」


「いや、相手の魔力操作が下手だっただけだから!ほら!私の斧は欠けてもいないし!」


 ミスリルを折って当然の様な事を言われ、弁明をしてみるけど首を横に振って下がっていった。

 よく見るとミスリルの剣はあちこちが欠けており、このままではどの道打ち直ししないと使えそうになかった。

 また金貨100枚を請求されるのは怖いが、幸いな事に現金はあるので問題はないだろう。


「前も言ったけど私には相性が悪い。売るか子供達の武器に使うのがいいのではないかな。」


「良いですね、割合を減らせば3人分作れるかもしれません、帰ったら聞いてみましょう。」


 オーキンドラフ様から良い提案を頂き、剣を鞘に納めて護衛に保管を頼む。

 そういえば本陣での良い提案もオーキンドラフ様に伝えておかないといけないんだった。

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