091
味方のところへ戻って来る時にも思ったんだけど、なんだか陣形が少し斜めになっている気がする。左翼側が前に出て、右翼側が下がっているんだ。
正面に向き合っていたのに、今は左翼側の端では横からも敵を攻撃しているし、敵が横に移動している?単に敵が崩れているだけだろうか。
治療が終わり再び陣の後ろへと並ぶ、出番があるかは分からないけど陣に厚みを見せるのは大事だし、丁度オーキンドラフ様の姿を見つけたんだ。
「オーキンドラフ様、ご無事で何よりです。」
「ユミルもな、お前達が通った後に飛び込むか兵士達が
最後に言った「無理せず無事に帰ってきたのなら良い」という言葉に護衛達が何か言いたそうな様子で首を動かしているけど、あれはちょっと間違えただけだ無理をしたわけではないので対象外だと思う。
「ところで敵が横に移動してる気がするのですが、何があったかご存知ですか?」
「合図で敵が右に移動を始めたが、盾を持たぬ方へ移動しながら攻撃するというのはたまにあることだ。
こちらも攻撃しやすくなるからあまり意味のある行為では無いのだが、ここまで大きく動くのなら右翼側で何か動きがあるかもしれんな。」
魔力を回復するためにそのまま左翼の陣内で休憩し、昼を過ぎる頃には左翼が完全に敵を横から襲う形になった。
本来ならそのまま抜けて敵本陣を攻撃しに行くのだけど、敵本陣が移動していて左翼からは遠くなっており指揮官はそのまま抑え込むことを選んだようだ。
左翼はすでに敵を折りたたむように押し込み、三日月の様に敵を包み込み始めていたけど、どうやら敵は右翼側から本隊同士で戦うつもりらしい。
こちらの本陣も対応するために動いており、戦争の決着は左翼とは関係のない場所で決まることになりそうだ。
敵を包むために更に大きく陣を広げたため陣に厚みが無くなり、再び私の列まで出番がやって来た。
例によってオーキンドラフ様の部隊の前に出たせいなんだけど。今回は魔力も減っているので半数は2列目、3列目に回ってもらう、途中で交代してもらえば魔力の心配はないだろう。
私の交代相手はいないけど、いざとなったら護衛達が全員で守ってくれるので大丈夫だ。
さっきオーキンドラフ様の話を聞いた限りだと、ただ通り過ぎるだけではあまり効果はないようなので今回は横へ移動して敵陣を荒らそうと思う。
再び飛び込んだ敵陣をゆっくりと荒らしながら進む。前回は先を急ぎすぎて穴が埋まってしまったらしいから味方が対応できる時間を作らないとね。
敵の右手側に移動するのが戦いやすいそうだけど、敵を横から襲う場合左に盾、右に背中の方が襲いやすいし左側に行ってみようか。振り向いてこっちを向いたら結局同じだしね。
馬に乗っている騎士を目指して進んでいくけど魔力を節約しているせいなのか、午前中に見られているせいなのか、貴族の前に兵士が並びこちらを進ませないように盾を並べてくる。
「アミット、先に進んで盾を並べてる奴らに体当たり!」
隙間もなく並べられた盾を崩すのは面倒なのでアミットに強引に道を作ってもらう。助走距離が少ないとはいえ何百キロもある重量を止めるのは大変だろう。
私は盾にぶつかって止まったアミットの背中を踏みつけて飛び上がり、2m近い大盾を飛び越えて貴族の元へとたどり着く。
足の下からカエルが潰れるような声がしたから後で謝らないと。
「何をしている!抱きついてでも止めるんだ!動けなければ怖くなど無い!」
一応正解だ、だから私は近い奴から順に倒すようにして近づかせない。でも訓練で何回もやられているし掴まれても逃げる方法はちゃんと考えてあるんだよ。
自分も怪我をするし魔力も結構使うのであまりやりたいとは思わないけど。
しかし大槍の人を真似して飛び込んでしまったせいで、周囲の敵兵を倒すのが間に合いそうにない。
武器まで捨てて抱き着いてくる兵士達に対応が間に合わずに抱き着かれて、その場から動けなくなってしまった。
斧はまだ振り回せるし、そのうち護衛達がやってくるだろうけど、呆れられるのも
身体強化に使っている全身を覆う魔力を火の魔力に変換し、胸から下を炎で覆う。
訓練でやった時は首から上まで炎で包んでしまったせいで呼吸ができなくなるわ、髪が全部燃えるわで、皆に二度とこの魔法は使うなと厳重注意を受けた。
他の兵士の下にいた兵士は逃げられなかった様だけど、炎に巻かれた兵士達が離れ、私は再び身体強化に切り替えて前へと進む。
「じ、自分事燃やすなど正気か貴様!?私は本陣へこの事を伝えに行く!お前達は足止めをしろ!」
馬首を返し逃げようとする貴族の馬に向かって土球を放ち、馬を転ばせて貴族に止めを刺しに行く。
本陣に報告するって一体何を話すつもりだ?私が自爆して炎上したとでも話すのだろうか?
変な話を広められても困るので確実に首を落とし、護衛と合流するために少し道を戻る。
護衛達が攻めあぐねていた大盾の防壁を後ろから破壊し、護衛達の残り魔力量を確認する。
元々全快では無かったので私もすでに残り半分は切っていて、そこに炎上と土球を使ったので結構心許ない。
来た道を帰ることも可能だろうけど、見た感じもう少しで敵陣を抜けられそうなので直進する事にした。
ざっと見て騎兵のいない場所を選んで、速度優先で先を進む。
最後列と思われる敵を倒し開けた場所に出た時、目の前に兵士の背中が並んでいたのを見た時は驚いたものの。
敵を包み込んでいた事を思い出し、気付かれる前に
後ろから魔法を撃ち込んでやろうとも考えたけど、怒らせてまた馬で追われるとさすがにきつい。
陣地から離れたところで一度休憩と治療を行い、味方の様子を確認すると、左翼はさらに包囲が進み完全に前後からこちらに挟まれる形になっていた。
右翼側はよく分からないけど本陣を囲んでいた部隊はいなくなり、怪我人と思われる座り込んだ兵士達しかいないように見える。
日は傾き始め空が赤くなって来ているので、通常ならそろそろ双方が撤退を始める頃なんだけど、本陣の戦いがいい勝負だと長引きそうだよね。
お腹が減って来たので燻製をかじったあと左翼へと戻り列に並び直す。
さすがに今日はもう戦う事は無さそうだけど、遠くにいて指示が聞こえないのも困るから一応陣には居ないとね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます