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平原でお互いに向かい合い、陣形はこちらが人数差を有利に使うために横に長く敷いたためか、相手もそれに対応して横長に陣を敷いている。
人数が少ない分厚さが薄くなってしまうので、このままぶつかりあって消耗戦ということは無いと思うんだけど。
また使者同士で言い争いが行われ、条約破りの蛮族呼ばわりされた後、戦争開始の
今回はこちらが攻める側なので行進をするように前へと歩き出す。ある程度近付いてから合図で走り出すんだけど横一列って結構難しいんだよね。
自分だけ早いと集中攻撃されるし、遅いと突撃の威力が無くなるので自然と同じ速度で走れるように訓練するのが大変だった。主に私が速すぎたのが原因だったけど。
最前列の部隊が大声を上げて走り出し、敵とぶつかって血しぶきが上がる。前回とは違い敵側からは矢の他に魔法が飛んできて兵士達にかなりの被害が出ている。
魔法1発で倒せるのは普通の兵士を精々数人程度。そして撃てるのは大体5発前後なので決して効率がいいとは言えないんだけど、それでも序盤で陣形を崩されると立て直しが難しい事は前の戦争で私が証明している。
まあアレは色々な事が重なった結果でもあるけど、今前線が崩れ始めているのは事実だ。
味方の指揮官も気がついたのだろう、魔法攻撃開始の合図が鳴り響きオーキンドラフ様の土球が敵陣へと飛んでいく。
全力の物では無いものの胴体ほどもある大きさの土の塊が矢のような速度で飛んでいき、ぶつかった敵兵を次々に
火球と違い周囲に炎をばらまいて火傷を負わせることはできないけど、投石機の岩を食らうようなものなので人間程度の重さでは盾で受けようと、吹き飛ばされて大怪を負うのは身をもって体験したから間違いない。
ミスリルの刃をぶつけても速度の乗った重量物はどうにもできず、私も10m以上ふっ飛ばされたから分かるけどアレはやばい。
火球を耐えることができたから油断していたけど土球はあまりの衝撃に死んだかと思ったからね。
正面に見えている敵陣にもオーキンドラフ様が土球を撃つたびに道が作られる。それと同時に魔力が切れたのか敵陣から撃たれる魔法が減ってきた。
怪我をした味方が後ろへと運ばれて行き、列がどんどん少なくなり私達が戦う番がそろそろやって来そうだ。
ユミル領、オーキンドラフ領の兵士の前に11人と11匹が並んで、他の領とは少し違った並びになる。
最前列の兵士が倒されて空いた隙間に飛び込んで敵陣へと斬りかかる。前列が交代する時間がバラバラだから途中で護衛のほうが先に進んでしまったので、何人か交代してもらったおかげで11人がほぼ同時に突撃でき、アミット達のお陰で楽に敵前列を押し倒すことができた。
敵陣に入り込んだ後は奥へ行くか、横へ行くか悩んでいたけど思っていたより敵陣が薄く、抵抗が少ないのでこのまま押し通ることにした。
魔力持ちが魔法を撃って魔力切れになっているんだから当たり前だけど、馬に乗っている貴族の周囲にも、ろくに戦える者が残っていなかった。
「このまま押し通って
「前方やや右手に貴族がいます!方向を変えますか!?」
「当然!」
感知が得意な護衛に言われて少しだけ方向を変える。多分護衛達でも倒せると思うけど念の為向かっておくことにする。
飛んできた火球をミスリルで斬り裂き、驚いた顔をしている貴族達に磁力魔法でさらに驚かせてその首を頂く。
ようやく敵陣を突破して
「敵本陣に向かいエランコードの奴らを驚かせてから帰るぞ!」
敵本陣には当然、護衛部隊がいるので近くを通るだけで戦う気はない。
「正面!でかい魔法が来ます!」
「左へ旋回!食らっても落ちるな!後は帰るだけだよ!」
間一髪、回避が間に合って背中に暖かい風を感じる。飛んできていた矢を気にしなかったせいでさすがに近づき過ぎたみたいだ。
これ以上危険な目に合わないように大きく回って味方の陣地へと頭を向け、尻尾を巻いて逃げだすことにした。
護衛部隊からの攻撃はなくなったものの、奥から数十騎の騎馬兵が現れ、こちらを追ってくる。速度差を考えると逃げ切ることは無理そうだ。
「停止して迎え撃つ!降りてリザードの後ろで構えろ!」
騎馬隊と向き合い、リザード達を並べて武器を構える。
「魔法用意!合図で起きてる馬を狙え!
並んだ
「
隙間を通って
続けて撃たれた魔法によって転ばなかった馬が撃たれ、半数以上の騎馬が倒され急停止した騎馬隊へさらに
「前進!転んでる連中にも止めを刺せ!」
「仲間をやらせるな!トカゲなど無視して良い!」
転んでもがいていた敵の首に斧を振り下ろし、敵に向かって駆け出すと敵の指揮官と思われる大槍を持った男の声が響き渡る。
歴戦の戦士という
まともにやり合うのは悪手なのでやり合うと見せかけて魔法で馬を殺し、この男に近づかないように護衛達に指示を出す。
「やってくれたな
大槍の男は頭に土球を受けて倒れる馬から飛び上がり、槍を突き出しながら襲いかかってくる。
弾いた大槍は見た目通りに重く、それでいて引くのは早い。間違いないビルザーク様並の達人だ。
威力の弱い
こちらを試しているのかビルザーク様のような変な技は無いけど、懐に入り込むのは難しそうだ。
「
教えた通りひたすら馬を転ばせることに専念してくれたのか、立っている馬は少なくなっていた。
前回騎馬隊とやり合った時のアミットを見て、やらせてみたけど効果は大きそうだ。
馬より小回りが効くのに体重は倍近くあるので体当たりをすると簡単に転ばせられ、少し踏んだだけで足折れ馬が相手なら圧倒することが出来るんだ。
問題はこういう時にすぐに逃げられないことかなぁ、騎手が乗ったまま回転するのはつらそうだったので仕方がないんだけど。
アミット達が離脱して、それぞれの乗り手が戦っている相手に後ろからのしかかる。戦闘中に後ろから馬2頭分の重量に乗られた兵士が潰され、鞍に付けられた手すりを掴んで護衛達が撤退していく。
私もアミットがのしかかる寸前に磁力魔法で大槍の男の体勢を崩してやり、アミットに乗るついでに腕を切り飛ばしてやった。本当は首を斬りたかったけどアミットの腹の下だったので見える所にあった腕にしておいた。
「アミゴー!撤退!撤退!振り返るな、全員乗ってるぞ!」
「おのれ馬鹿にしおってからに!首を盗らなかったことを後悔するが良い!」
背中から聞こえてきた様々な絶叫を背に逃げ出し、相手も馬は残っていたものの少数で追って来ることはなかったので、飛んで来る魔法を撃墜しながらなんとか無事に逃げることができた。
「自分達だけじゃなくてリザード達の治療を忘れないように、結構傷ついている子がいるみたいだよ。」
さすが本陣を守る騎士達だけあって護衛達も無事ではいられなかった様で、片腕や足をかばっている者が何人もいた。
私達は強いわけではなく相手が驚いている隙に倒しているだけなので、ああいうこちらの攻撃が届かない相手だととても弱い。
もっと早く撤退を見極めるべきだったかも知れない、あの大槍の男も馬と一緒に倒れたところを攻撃するつもりだったんだけど、まさかそのまま飛んで攻撃に繋げてくるとは思わなかった。
大きく迂回して味方左翼の後ろまでたどり着き、アミット達の治療を始める。護衛達の治療もしてあげたいけどみんな全身鎧だから傷が見えないんだよね。
そういえば、
周囲を見回すと頭から足まで黄色から紫色へとまだら模様になっている全身鎧を着て、護衛達が疲れ切った様子で地面に座っていた。
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