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「そういえば、最後の光の魔法がなんだったか知ってる人いる?火傷が回復した気がしたんだけど。」


 治療を終えて血塗れの鎧をキレイにしたところで思い出した、あの不思議な行動の事を護衛達に聞いてみる。


「傷が治りましたし神官の使う治療魔法の感じに似ていたと思いますけど、あんなに光りませんよね。」


「格好が神官だったので神官が使う魔法なんじゃないですか?」


「たしかアンデッドに使う浄化魔法がああいう暖かい光の魔法だったと思いますけど傷は治らなかった様な?」


 結局、傭兵経験者も神官の魔法は詳しくなくて特定はできなかったけど、ミスリルのせいで魔法が中途半端に発動してしまったのではないか?という結論になった。

 あの神官の女性を中心にして魔法が発動していたから光の壁を作るか自爆系の物だったのかも知れない。

 それにしても砦の中は兵士の数が少なかった気がする。混乱している中に飛び込んだとはいえたった11人で押し返せる程度の数しか兵士がやって来ないなんてことがあるのだろうか?

 崩れた外壁を守らないのならば砦にもっている意味など無いはずなのだけど。

 休憩しながらしばらく砦を見ていると中央の陣地に動きがあった。どうやら門が開いて中に入れるようになったみたいだ。歩兵達が盾を構えて前進していく姿が見える。

 砦の敵兵が少ないならこれで勝負はついただろう。さすがにここから負けるのは考えにくい。


 日が傾く頃には敵側の抵抗もなくなり砦内の制圧が完了した。

 会議に呼ばれ、敵兵の尋問結果を聞いたところ、この砦は放棄されて次の目標である辺境伯領の領都に部隊が集結しているらしい。

 私達を無視して他の場所へ兵を向けているのかと心配していたけど取り越し苦労だったみたいだ。

 左翼部隊が最初に外壁を崩したことで部隊の指揮をした貴族と、門を開けた貴族が一番手柄として紹介されていた。あの時の笑顔で道を譲ってくれた貴族は無事に門を開けられたらしい。

 明日からは2日の休息を取った後、後続の部隊に砦を任せて辺境伯領まで進むそうだ。

 砦には入り切らないから寝るのは外、外壁周辺の民家は暗殺に注意とのことだ。欲を言えば家で寝たいところだけど何処に隠し部屋や隠し通路があるか分からないしテントで寝るのが安全だろうね。

 そして私は今回始めて知ったのだけど、食料の配給で貴族用の物は結構良いものがもらえた。

 砂糖が使われ木の実が混ぜられた歯が負けない乾燥パンや柔らかい燻製肉、薄めた酒ではなくワインが配られ。希望者には野菜の酢漬けや塩漬けもあるらしい。

 普段家で食べている物に比べれば質は劣るけど、食べ足りなくて商人から買っていたボッタクリの硬くてしょっぱい干し肉に比べれば天地の差だった。

 夜中に何度か襲撃があったようで騒がしさに起きてしまったけど大きな被害も無く。むしろ夜が明けてから町へ金目の物が残っていないか探しに行った傭兵達が何人も被害にあっていた。

 投石で崩れた地下室からは何か見つかったようだけど、ほとんどは収穫も無くただ被害に遭いに行っただけに終わった様だ。


 砦を離れ街道を進んで行くと、どうやら先行した部隊にお行儀の良くない奴らがいたようで途中の村が襲われて略奪されていた。

 中までは見ていないけど、門が開きっぱなしになっており兵士の死体が打ち捨てられていれば何があったかは明白だろう。

 もっとも、敵兵が潜んでいないか探す必要があるうえ、食糧の接収せっしゅうがあるので傭兵にやられるか貴族にやられるかの違いしかないだろうけど。

 前回は見ることがなかった戦争の結果に目をそむけ、城塞都市のあるヘムヤット辺境伯領にたどり着いた。

 陣形を組み直し、会議を聞きに行けば味方13万、敵7万ほどの平原での会戦となる様だ。

 前回とは逆の兵力差があり、有利に戦うなら城壁を使うものだと思っていたけど外で戦う理由があるんだろうか?狭い砦とは違って10万人の兵士がいても全員中に入れるはずだ。

 戦術の勉強はしたけど余り得意じゃないからどちらが良いのかは分からない。ボードゲームで対戦してもその場思いつきで進めてしまうから弱いんだよね。

 前回は森があって狭かったから斥候に森を探らせたり、奇襲部隊に森を通らせたりと私でも分かりやすかった。

 今回は遮蔽物しゃへいぶつは街しかなく、奇襲がしにくいから部隊指揮とか戦術がより大事になるはずだ。たぶん。

 そして新たに配置されたのは左翼の中央辺り、勝手に騎兵として動くこともできないから歩兵として戦うことになるかな。

 もちろん部隊長として騎乗はするけど片手で扱わないと武器のリーチが短いから小回りがきかないんだよね。敵と直接戦うなら降りて両手で使うほうがやっぱり速度も威力も高いんだ。

 私の護衛達もなぜか斧や鎚を使っている、片手剣だと丈夫さが足りなくて、槍だと騎乗して攻撃した時に深く刺さり過ぎて抜けなくなるとは聞いた。両手剣だと片手で振り回すには重いし、地上と騎乗両方で使うなら短くした長柄武器ポールウェポンが使いやすかったらしい。

 槍が上手い人なら騎乗戦も集団戦も相手を寄せ付けずにりきるんだろうけどね、あいにく私の護衛にはそこまで槍が上手い人はいなかった。

 最初は長い槍を使っていた人も数人いたんだけどね、私と訓練を続けていたらだんだん短くなって最後には槍の横に斧がついたポールアックスって武器になってた。

 剣と盾を持っていた人もいたけど未だにその組み合わせを使っているのはリフテットだけだ、綺麗な剣術を使っていた人も今では体当たりや蹴りを使う荒っぽい戦い方になっている。一体何の影響を受けたんだか。

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