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投石機が石や火のついた木片から、岩を飛ばして城壁を攻撃するようになると、さすがに距離が足りなくなって外壁の上から大型兵器によって攻撃されるようになってきた。
投石機の中に一回り小さい物が混じっているのが原因なんだけど敵の攻撃が届く投石機って意味があるのだろうか?
大盾を持っている兵士が
さっき
私が守っている小型の投石機には岩ではなく石を投げさせて、外壁の上の
あれがなければ外壁を破壊した後も安心して近づくことが出来るはずだ。私だったから無事でいられたけど、精鋭とは言っても護衛達に当たっていたら死んでいたかも知れないじゃないか。
数回の投石で破壊出来たら投石機を一度解体して、移動した先でまた組み立て、また石を飛ばし始める。
徐々に外壁上の大型兵器が沈黙していき、距離を詰めることが出来た大型の投石機がより大きな岩を飛ばす事が出来て徐々に外壁が崩れ始めてきた。
「君は一体何をやっているのだ、危険なことは程々にと言っておいただろう?」
「大丈夫ですよ?あんな物ビルザーク様親子の槍に比べたら止まっている様なものです。ただ真っすぐ飛んで来る物を横から殴るだけなので簡単ですよ。」
キリの良いところで突撃の準備をするために戻ると、オーキンドラフ様が頭を抱えてため息をついてきた。
突いた槍の軌道が曲がるとかいう訳の分からない現象に比べれば、ただ重いだけの矢なんて大したことはない。
これくらい私の護衛でも出来ますよ。と言うと周囲からどよめきが起き、直後に外壁が大きく崩れる音が鳴り響いた。
半分ほど高さで壁が崩れ、まだ人が通れるような状態ではなかったが、一度崩れ始めれば崩壊は早い。
投石機の照準を崩れた外壁に向けられ、アミットに乗った私は今か今かと待ち構える。
外壁がさらに崩れ、頑張れば人でも登れそうな場所が出来上がると左翼部隊の指揮官による突撃の太鼓が鳴らされた。
石や民家の
スルスルと崩れた岩場を登り、外壁にたどり着くと飛んできた火球にミスリルの斧を突き刺して無力化する。
「味方が外壁に取り付き登って来るまでこの場を守る!弓は無視して蹴散らせ!大型兵器は私がヤる!」
「総員集合!!集合!集合!」
声の聞こえた方に急いで駆け寄り、周囲を急いで確認して出現した特大火球に向けてミスリルの斧を突き出す。
これは特大火球への対策として、魔力の感知に
集まった全員で水球の壁を作って籠り、ミスリルの吸収によって火球を弱体化して耐えるという布陣になっている。
斧に触れた特大火球が爆発し、炎で撫でられるような熱風が通り過ぎて火傷の痛みが全身に走る。
ちなみにオーキンドラフ様の魔法で試してみた結果。火球の威力は半分ほどになるものの熱による火傷を負い、土球は重量でふっ飛ばされ、水球は水流で流され、風球は風で吹き飛ばされた。
ミスリルと相性が良かったのは火と風だったけど、吸収する速度にも限界があって無力化する程の効果が無かったのは残念だ。
「方向斧正面!各自水球撃て!」
燃え盛る炎の嵐が止み、火球を撃ってきた敵の増援に向けて水球をお見舞いする。
「首を盗るよ!突撃!」
魔法が届く距離というのはそこまで遠くない、どんなに魔力を込めても100mも行かずに地面に落ち、それは斜め上に撃っても外壁の上から撃ってもほとんど変わらない。
なので魔法が撃たれたということは近くにいるということで、身体強化をしていれば数十歩でたどり着く距離ということだ。
乗っていたアミットから飛び降りて、突撃させて前衛を押し倒し、横を抜けて標的に向けて直進する。
水球によって崩れていた陣形ではろくに止める兵士もおらず、いても磁力魔法とミスリルによって魔力による防御も許さずに一撃で斬り倒せる。
魔力を吸ったミスリルはとても硬く、試し切りで馬の速度を乗せた一撃を入れたらインゴットすら半ばまで斬り裂いた。
問題は数秒で魔力が抜けてしまうことだけど、そのおかげで特大火球の弱体化ができるので一長一短ではある。
「やはり現れたか紫鎧の亡霊め!聖なる光を浴びて浄化されるが良い!!」
たどり着いた魔法の出現地点には、神官服の様なローブを着た豊満な女性が再び魔力を集めており。発動前に倒すため速度を上げて走り寄ると突然周囲に閃光が走り抜けた。
「なぜ…魔の者が…光の中で生きて……」
意味の分からない言葉を残し、血を流し倒れ伏した女性が息絶える。
何故だか体を暖かい光が包み込み、火傷の痛みが徐々に消えていくのを感じる。何が起こったのか分からないので戸惑いが隠せないけど、今は戦闘中なので考えるのは後にしようと思う。
敵兵達も動揺していたのだろう。こちらに攻撃してくることもなく武器を構えていた。
攻撃して来ないなら丁度いい、そろそろ魔力も心もとなくなるから戻らせてもらおう。
「アミット!撤退するよ!」
近くで暴れていたアミットに声を掛け、護衛を呼び集めて崩れた外壁へまで撤退する。
外壁の裂け目からはすでに味方が入り込み始めており、私達が出て行く隙間がない。
「おや?もしやユミル殿ですかな?その様な場所でいかが致しました。」
外壁沿いで護衛達の魔力量を確認しながら治療を行なっていると貴族から声を掛けられた。
「この様な格好で失礼いたします。この穴を塞がれないように戦っていたのですが、あいにく魔力が心許なくなってしまいまして。」
「おお!それはいけませんな、丁度私の部隊が入り終わるところですのでその後お戻りになられるとよいでしょう。何、ご安心下さい門は私の部隊が開けさせて頂きますのでな!」
嬉しそうに道を開けてくれた貴族に礼を言い、護衛を
オーキンドラフ様が守っていた投石機付近にはあいにく本人はいなかったので、裂け目を通る集団の中にいたのかもしれない。
アミット達に水を飲ませ、おやつ代わりに近くで死んでいた馬をバラして食べさせる。
基本骨ごと丸呑みにする種族なのでこういう時は楽でいいね。太い骨は砕く必要があるけどぶつ切りにするだけなので簡単に用意できる。
護衛達も大きな怪我は火傷だけで、それもあの謎の光で治ったので問題は残りの魔力がかなりギリギリだった事だけの様だ。
まだまだ魔力の訓練が足りないようだね。
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