082
領内の村々を回ってミスリルを回収して植林を広めて回り、今日は集めたミスリルの加工ができないか相談するために領都の工房へ来ている。
本来ならば商人を呼びつけて頼むだけですむのだけど、物が物だけに関わる者を減らすために直接出向いたということになっている。
「ということでミスリルの加工をして欲しいのですが、ここの炉で可能ですか?」
「突然来て失礼な野郎だな。と言いてぇ所だがミスリルともなると怪しいところだな。炉をぶっ壊す勢いで燃やせばいけると思うが絶対とは言えねぇ。」
「知り合いに白金も溶かせる魔導溶鉱炉を持っている人がいるんですが、そっちに頼んだら加工できますかね?」
「いきなり他に持っていこうとするんじゃねぇよ!やらねぇとは言ってねぇだろうが!それにミスリルは魔力を受けると硬度が上がるんだ魔導炉で溶けるわけねぇだろうが。」
身分を名乗っていないとはいえ懐かしい対応だ。それなりの服装はしているんだけど気にしない人らしい。
「ではこの斧の刃をミスリルにしてください、量は足りると思うんですが。」
「片刃だけならちと余るくらいだな、だがそのまま貼り付けただけじゃバランスが悪くなる。一度ヘッドを溶かして打ち直すことになるがいいか?使ってる金属も鉄とはちと違うようだし元通りになるとは限らんが…
やるなら鉄と混ぜてヘッド全体にミスリルを混ぜたほうが丈夫になるぞ。」
「では打ち直して片方の刃にだけ付けて下さい。全部ミスリルにしてしまうと常に魔力を吸われてしまうので使いにくそうなので…」
「普通は斬りつける時にだけ魔力を流すもんだと思うが…まぁ出来る限りのことはさせてもらおう。
炉がぶっ壊れても代金なんざ請求しねぇから安心しろ。その代わり成功報酬はきっちり貰うぜ、金貨100枚と言いてぇところだがミスリルなんざ二度と触れねぇだろうから10枚でいい。
代わりに護衛をしてくれ、こんなもん盗まれたら弁償なんてできんからな。ついでに両手斧なんざ振り回してるなら力も有り余ってるだろう、
金貨100枚と言われて顔が引きつったけど10枚ならばまだ予算内と言っていいだろう。まさか私の剣よりも高いとは思わなかったけど、ミスリルの価値を考えるとありえない話じゃないだろう。
連れて来た従士に聞いても相場なんて知らないと言うし、リフテットも当然知らなかった。
「思ったよりも高いみたいなので明日出直してもいいですか?」
「なんでぇ、まぁ嬢ちゃんの財布には高すぎるか。分かった準備だけはしておいてやるから明日の朝連絡をよこすか、ミスリルと斧を持って来い。」
一度家に戻り、オーキンドラフ様に聞いてみたけど結局誰も相場を知らなかった。
最終的にはスペンサーの、領内の取引ならば税金として返ってくるのでその価格でやってもらいましょう。という言葉で決まり、翌朝もう一度工房へ行くことになった。
「おはようございます。話し合った結果10枚でやってもらうことになったのでよろしくお願いします。
警備の兵士も連れてきたので盗難は心配しないでください。」
「お、おう。ボロい鎧を着てるから傭兵かと思ってたがあいつら兵士だったんだな。
お前さんもしかして貴族だったりするのか?この領に残ってる子供は領主様だけだったと思うが。」
「一応その領主様の妻なんですが、結婚式の話とか聞いてないですか?結構な数の人が集まっていたと思ったんですけど。」
私がいつも連れ歩く兵士は当然訓練もよく一緒にしているので、鎧は結構傷だらけになっているんだけど、兵士なんだからそれなりに綺麗にしていないと駄目だよね、少なくとも兵士だと思ってもらえないのは問題だ。
とは言っても整備をするにもお金と時間がかかるので難しい。鎧を二組も作らせるのはさすがに無理だろう。
従者の服もそうだけど兵士の鎧って基本自費だからね。私の鎧もそうだし、訓練で壊されようと直すのは自分の給料からだ。
だからこそ整備や簡単な修理は自分でするんだけど、さすがに目に余る状態だったらしい。
大怪我に繋がるかも知れないし修理費を出した方が良いかも知れない。
「そういや結婚したんだったか?振舞い酒がタダで飲めるってんで行った気がするが記憶が残ってねぇんだよな。」
振舞い酒は一人一杯だったはずだけど、残った分は酒好き達の奪い合いになったはずだ。
振る舞われた少し良いワインを1杯飲むために、安酒であるエールで飲み比べをして酔い潰すという
「まぁ誰だろうと構わねぇ、さっさと仕事を済ませちまおうぜ。」
ミスリルを完全に溶かしてしまうためにすでに温めてある炉の上部に入れ。その間にやっとこで掴んだアックスヘッドを熱して打ち直す。
「ずいぶん溶けにくい金属を使ってんだな。まあミスリル溶かすために温度上げまくってるから問題はねぇが。おいもっと風を送れ!まだ温度が足りねぇらしい!炭も追加だ!」
相鎚は必要無いらしくて私は見てるだけなんだけど、弟子の人と兵士が何故か交代でふいごで風を必死に送っている。
真っ赤になったヘッドをガンガンと叩いているけど、あまり変形せずすぐに炉に戻すということを先程から繰り返している。
何度目かの調整でようやく成形出来るようになったのか徐々にインゴットに戻されていった。
数回の折り返しが終わりインゴットが3つに分割されて、まずは柄を通す輪が作られ、貼り付けるようにして刃が作られていく。
片側が大きな不格好な斧が出来上がり、全体を整え終わるとようやくミスリルの出番となった。
「おお、ちゃんと溶けてやがるな。おっしゃすぐに鍛錬をするぞ、相鎚の準備をしろ。間違っても魔力を流すんじゃねぇぞ!」
炉の排出口から取り出したミスリルを型に流し込み、水をかけたと思ったら金槌で叩いた後、型をひっくり返してやっとこで掴んで火の中に戻す。
お弟子さんが大鎚を持って構えると、火の中から取り出したミスリルを交代で打ち始める。
「駄目だ!冷やしすぎたな、炉の温度を上げろ全然足りねぇぞ!相鎚はあいつに変われ!」
お弟子さんがいなくなって兵士がふいごを動かしていたけど、炭を足したりなどの管理が出来るわけではないので温度が下がっていたのだろうか?大鎚が私に渡されて炉内に炭が足されていく。
「ほら、早くこっちに来い!人手が足りねぇんだ早くしないと無駄になるぞ!」
「あ、はい!」
慌てて
折り目をつけて叩いて曲げ、5回ほど折り返したら今度は細長く薄く伸ばして、斧の刃の先に重なる様にして貼り付けて叩いてなじませる。
私の仕事は終わったようだけど、バランスを見て余分な金属を切り取ったりと作業はむしろ重要な行程に差し掛かった様だ。職人の目付きがさらに鋭くなり、お弟子さんも真剣な顔で作業を盗み見ている。
「とりあえずは完成だな。冷まして
おい、兵士の連中にも水と塩をくれてやれ。日が暮れるまでは待ちだ。」
「はい!すぐに持ってきます!」
お弟子さんが井戸から汲んで来た水を兵士達に配り、私は一足先に魔法で出した水を自分で飲む。
「日が暮れる頃には持ち運び出来る程度には冷えるはずだ。今日は一度持って帰って明日の朝また持ってきな。」
顔を拭い、水を飲んでいた職人がこちらを見てそう言ってきた。
「弟子にもミスリルを触らしてやりたかったが流石に人手が足りなすぎたな。鉄なら一人で問題ねぇんだが嬢ちゃんの金属ですら後2人は必要だった。兵士を多めに連れて来てくれて助かったぜ。」
別に鍛冶の手伝いをさせるために連れて来たわけではないんだけど。私の護衛の中から希望者を募ったらミスリルの加工を見たい人がたくさん居たんだよね。
「これが終わったら彼らの鎧の修理をお願いします。費用は私が出すので。」
そう言うと休憩していた兵士達から歓声が上がり、見張りをしていただけの兵士が自分は入っているか確認してくる。
「ちゃんと人数に入っているから安心して、兵士に見えない様な格好をしてたら問題だからね。」
「ああ、今のままじゃ傭兵だか山賊だか分からねぇからな。一緒に大仕事を終わらせた仲だ、任せときな新品みてぇに綺麗にしてやるよ。」
日が暮れると、まだ熱を放つアックスヘッドを木箱に入れて持ち帰り、また翌朝持って来る。
後は研いで終わりなのかと思っていたけど、叩いて熱して削ってまた熱して水で冷やしたりと、結局終わる頃には夕方になっていた。
完成した斧に装飾を入れたがっていたけど、私はこのままが良いので丁重にお断りさせてもらった。
彫刻を掘るにしても、金銀を貼り付けるにしても装飾剣は掃除が大変なんだ。魔法で綺麗にすると油を塗り直さないといけなくなるし、おそらくミスリル周辺は魔法でキレイにする事が出来ないと思う。
そんな所に細かい装飾があって血で汚れたらと考えると、装飾を入れてもらう事は出来なかった。
後日試し切りの相手にされたグラウンドタートルは、初手で膝を砕かれ、尻尾を切り落とされ、いつもの半分ほどの時間で討伐する事が出来た。
ゴーレムの時にこれがあれば…とは思ったものの、もう一度戦いたいとは思わなかったので早々に忘れることにした。
余ったミスリルは後日オークションに出すことになりオーキンドラフ様に渡したけど、親指ほどの量が一体いくらになるのか知りたいような、知りたくないような不思議な気持ちで見送ることになった。
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