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 屋敷で昼食をとって、午後からは早速水晶のクズ石を魔力操作で変形できるか試し始める。料理人も色々と試しているのだろうけど、塩で焼いた肉にカスタードを塗るのはちょっと違ったと伝えておこう。

 魔力を使って硬い粘土の様な感触の水晶をこねていく、金属よりはやっぱり楽に変形出来て、前にゴードンさんに教えてもらった金属の折り返し鍛錬の様なことも時間をかければ出来そうだ。

 丸めて糸を通す穴を開けるだけのつもりだったけど、思っていたよりも動かしやすいしもう少し遊んでみようかな。

 小さい水晶を平らに潰し、折り曲げてはまた平らにして繰り返していくと、中にあった曇りが無くなり代わりに何層もの層が薄く見えるようになった。良く見ないと分からないほど薄いので一見曇りのない水晶に見えるのだけど。宝石を鑑定する人ならすぐに気づくだろう。

 それでも曇りが無くせるのなら、他の宝石を買う時に安く済ませる事が出来るかも知れない。不純物も取り出せるようになれば大きいだけのクズ石が大金に化ける可能性もある。

 思わぬ収穫に興奮した私は、今度は大きさを変えてみようと思って平らにした2個の水晶を重ねて折り返してみた。

 最初はくっついているわけではないので折る時にズレる感触があったものの、5回も折り返せば1個の水晶をこねていた時と変わらない感触になり、10回折り返せば層も見分けがつかなくなった。


「これ、ダイヤでやったら国宝超えられるんじゃ…」


 思わず口から出てきたつぶやきを、誰かに聞かれていないか慌てて周囲を見回すけど、幸いなことに今は私しか部屋の中にいない。

 貴金属の鉱山に限らず、貴石の鉱山もほぼ国や上位貴族の持ち物だ。そこに土足で踏み込んだら本当に宿どころか自宅に強盗が押し寄せて来るようになるだろう。

 大きくして売るのは無し、と心に誓い。同じサイズに切り分けて曇りをとって丸めていく。最初は棒に巻き付けて棒を取ればいいと思っていたけど流石に層が分かりやすく、綺麗な丸にし難い事に気がついて結局工具を使って穴を開けることにした。

 大きさと丸さにこだわって作った水晶玉をカネの糸をって作った太めの糸に通して、買ってきた金具に結びつければ元がクズ石とは思えない綺麗な水晶のブレスレットが出来上がった。

 初めて作ったにしては良い出来の作品に満足すると、装飾品を入れている箱に仕舞って片付けを始める。

 外が夕日で赤く染まり始めたので、片付けたらリフテットに自慢してやろうと思っていると、ふと、水晶を割った時の欠片や穴を開けた時に出た粉が気になった。

 使い道など無いものの、そのまま捨てるのも気になって布の上に集めておいたのだ。これも折り返しができればゴミにならずに使えるんだけどな、流石に小さすぎて折るのは無理だけどくっついてくれればいいのに。

 そんな事を思いながら粉を触っていると、パラパラとした粉が徐々にだまになり始めた。

 くっつけーと思いながら触り続けると、ザラザラとした球体になり、そのまま練っていると曇りが無くなるように半透明な水晶が完成した。

 そういえば欠けた斧も金属の欠片を練りつけたらくっついていたっけ。あれもゴードンさんに言われたからやってたけど、よく考えれば伸ばしただけでくっつくわけが無いよね。

 これも魔法だったんだなぁと今更ながら実感して、くっつけとか固まれとか思いながら折り返していくと半透明だった水晶が透明になっていく。

 石の変形だけでなくくっつけることにも魔力を使うせいか、魔力消費が倍以上になってしまうけど、よく見ても折り返した層が見えなくなっているので、やるならばこちらの方が時間もかからず良いものが作れそうだ。

 減っていた魔力が一気に無くなり、眠気が出始めたので作業を止め。リフレットを呼んで夕食の準備を始めた。


 夕食後にオーキンドラフ様と二人っきりになれる寝室でその話をすると。


「ん?ユミルは金属の操作をして防具を直していなかったか?」


「はい、ですけど継ぎ目が分からなくなるほど綺麗にくっつくとは思っていなかったもので。」


「そういえば、国宝の大きなダイヤも初代国王が莫大ばくだいな魔力を使って作り出したという逸話いつわがあったな。

 権威けんい象徴しょうちょう的な作り話だと思っていたが、もしかしたら実話だったのかもしれんな。」


先駆者せんくしゃがいたかも知れないのですね。技術は秘匿ひとくされているのかも知れませんが、莫大なというほどの魔力は必要ない気がするのですが。」


 国宝のダイヤは一体いくらなんだろうとは思っていたけど、初代国王様も私のように貧乏性だったのかも知れない。

 確かに建国でお金がいくらあっても足りない時代に、そんなダイヤを買うような余裕はあまり無いだろう。国内で見つかったものを献上されたにしても報奨は爵位だけでは済まなかっただろうね。


「ふむ、試しに私もやってみるか。」


 オーキンドラフ様はそう言うと宝石箱から水晶を取り出して来て魔力を込めてこね始める。


「確かに消費量は多いが莫大というほどの量は使っていないな。2つを合わせるにしても私でも問題の無い範囲だ。」


 これはユミルが使うと良いと言ってくっつけた水晶を差し出され、何故か一緒に持って来たルビーを手に取ってこね始める。


「やはりな。貴石には魔力を蓄える性質があってな、これを利用して魔法を多く撃つ研究などがされているのだが。この蓄える性質が悪さをして必要な魔力が増えているようだ。」


 ルビーを私の方へ差し出し、魔力を込めすぎると割れるから常にくっつく様に願い、魔力を消費しながらこねるように言われた。


「ダイヤはルビーやサファイアよりも蓄える魔力量が多く、サイズによっては特大火球1発分は引き出せると言われている。小型のルビーでこれならば莫大な、というのも嘘では無いのだろう。」


 割れると言われて恐る恐るやってみると、指輪につける程度の大きさでも水晶から比べたら消費量が多くて、まだ回復しきっていない私の魔力量では、少しの間こねるだけで限界が来た。


「これでは宝石を大きくするのはかなり難しそうですね、大きくした水晶を売っていてはロックドップ子爵に喧嘩を売るようなものですし。」


「自分で使う分だけにするのが無難であろうな。見た目もまったく変わらんわけでは無いようだ。」


 手元のルビーを見ると折り曲げた層が残っていてひと目で加工した物だと分かってしまった。どうやら上手く魔力が使えずにくっついていない場所があるらしい。

 魔力も残り少ないし作業の続きは明日以降にすることにして、水晶とルビーを私の宝石箱へと仕舞う。

 図らずもルビーまで貰ってしまったので、金属も使ってこれで指輪でも作って返そうかな。

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