075
テースドラフに戻ると、外壁を拡張する村がヒェロナに決まっていて。道の先にあるロックドップ子爵様に挨拶に行くことになった。
ロックドップ家は王都の外壁を作った石を採取した領地で、爵位はそれほど高くはないもののこの国の誕生前からある古い貴族なんだそうだ。
今回ヒェロナ村の外壁用の石もここから購入する予定で、契約できなければ購入費が倍以上になる可能性があるので、機嫌を損ねないようにと注意されている。
ご機嫌取りの献上品もグラウンドタートルのべっ甲や大木の丸太などが用意されていて、試作品の絹布も候補に上がったけど
かなり出来が良くなったのでもう販売しても良さそうなんだけど、販売するなら生産量を
途中で通るヒェロナ村は一見普通の村と見た目は変わらないけど、一つ言えることは森がとても遠いことだろうか。この村だけでなくオーキンドラフ領すべての村で言えることだけどやはり木を植えても育たないらしい。
あの遠くに見える木は領地の境目であり、そこで植林をしてなんとか木材を確保し、煮炊きは草を取ってきて共同で食事を作ることで暮らしているらしい。
そのせいでテースドラフよりも古い村だというのに発展性が無く、人口を増やすことが出来ずに若者の流出を許してしまっている。
そのため、今回はチャスラを連れてきてテースドラフと同じ様に植物を育てることが出来るようにならないか試すつもりだ。成功すれば領内のすべての村を回って同じ様に改善していくのでとても期待されている。
どうもチャスラの肥料を掛けるだけでは駄目だったようで、聞き込みをしたところチャスラも行かないといけないと分かったので、今後は移動する時は連れ歩くことにした。
チャスラを連れてアミットと顔合わせをする時に、仲良くするようにと命令するまでアミットが震えているように見えたのは何だったのだろう?間違えて食べないようにと注意した時も結構な勢いで首を横に振っていたし、チャスラの方が魔力が多いからだろうか?
「しかし、肥料による効果だとばかり思っていたのだが、チャスラが行かなければならないというのは何なのだろうな?」
「あの大木のように育つのに魔力が必要だとか?でも普通のスカベンジャースライムは魔力がありませんけど他の領ではよく育ちますよね。」
他の領地では育つけど、この領地では育たない。土地に原因があるんじゃないかと思うんだけど。チャスラの肥料には微量の魔力が含まれているし、あの木とは理由が違う様な気がする。
「チャスラよ、チャスラが何かしなければいけない対象は、もしや植物に対してではないのか?」
そうオーキンドラフ様が質問をすると、馬車の床でぴょんっと縦に飛んで肯定を表した。
「その対象は持ってくることは可能か?危険が無ければ一度見ておきたいのだが。」
チャスラが床に少し広がった後、元に戻って縦に飛んだ。何を伝えたかったのかは分からないけど、危険はあるけど問題になるほどじゃないとかだろうか?
「その持って来れる物って2日でなんとかなる?」
その質問に横跳びで答えたため、チャスラにはヒェロナで作業をしてもらい、私達はその間に子爵への挨拶を済ませることになった。
「しかし不思議なものだ、ユミルに出会ってから長年の悩みが次々に解決していっている。最初はグラウンドタートルを怖がらなそうで身分の合う女性がやっと見つかったと名乗り出ただけだったのだがな。」
「あの場で名乗り出てくださったおかげで、私は今領地の運営はオーキンドラフ様とヤースマンに任せて自由にさせていただいています。
あの場で結婚話が始まらなかったら今頃どうなっていたか。本当に感謝しています。」
「戦争で準男爵も死んでおったからそこを貰っていた可能性もあるが。貴族派の連中的には戦場に近い場所に送りたかっただろうからな。最悪、近場の貴族領を2、3個もらって誤魔化されていたかも知れんぞ。
ベガルーニ卿も昇爵で隣の騎士領をもらう話が出ていたらしいからな。」
聞けば聞くほど報奨の話は嫌になる。1つでも大変なのに、経験のない人間が2つも3つも運営できるわけがないじゃないか。
いや、準男爵というのはそういう爵位なんだけど、せめて経営ノウハウのあるスペンサーの様な信用のできる執事をセットで付けて欲しい。
私が戴いた執事のデガートは屋敷の運営と王都での貴族の付き合い方は知っているけど、領地運営の知識はあまり無くてあくまで領地を持たない法衣貴族用の執事だった。
結局領地を任せる執事か代官を探さなくてはいけなくて、ヤースマンという文官仕事もできる兵士をオーキンドラフ様からもらうことになったんだ。今頃兵士団はヤースマンがしていた書類仕事で泣いているだろうね。
ヒェロナを経ってしばらくすると右手に大きく削られた山が見え、その麓に立派な外壁を持った街、ロックドップ子爵の領都がある。
近くから見ると大きさはそこまででもないのだけど、彫刻や彫金によって飾られ王都の城壁のように派手になっていた。
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