072

 翌日、朝食の後に植林場まで来ると、その木の大きさに圧倒された。

 大人2人がかりでようやく抱えられるほどの太い幹が、以前の植林の間隔で生えているものだから、木の壁を作ったのではないかと思う様な光景になっていた。

 この光景を見ているだけでは何も分からないので、とりあえず原因と思われる使い魔に話を聞いてみるか。


「スライムーどこー?聞こえたら顔見せてー」


 大声で植林場の中に声をかけながら、かろうじてある木々の隙間から奥へと入っていく。

 どこで生活しているのか分からないけど、それほど広い植林場ではないし大声で呼べば聞こえるはずだ。まぁ地下にいたらお手上げだろうけど。

 植林場の中心と思われる場所には、さらに一回り大きな大木が鎮座ちんざしており、根元にはウサギの巣の様な穴が空いていた。

 何となくここが巣かな、と思ったので穴に向かってまた呼び掛けてみることにした。


「スライムー出てきてー!聞きたいことがあるんだけどー!」


 呼び掛けて直ぐに何かが移動してくる気配がして、巣から離れて警戒をする。

 明らかにスライムが移動する音とは思えない音が巣の中から聞こえて来て、私達が武器を構えて囲んでいる中央に、巣から現れた物体が立ち止まった。

 普通のスライムより小さく、茶色く丸い体は見覚えがあるので、おそらく私の使い魔だと思われる。


「スライムがあの様な速度で動くところなど初めて見たが、それがユミルの使い魔ということであっておるか?」


「あ、はい。見覚えがありますし使い魔のパスも繋がっていますから間違いありません。

 肯定なら縦に一回ジャンプして、否定なら横に一回往復して。お前の名前は今日からチャスラって呼ぶね。」


 そう言うとスカベンジャースライムは縦に何度もジャンプして嬉しそうに返事をした。

 宙返りを入れたりしていて普通のスライムではなさそうだけど、使い魔なのは間違いなさそうだ。


「少し変わったスライムの様だが、確かに魔力を持っていて操作することが出来るようだな。

 スライムでも身体強化をすればここまで動けるようになる事は驚きだが、今は先に植林場の事を聞いてみて欲しい。」


「はい、えーと植林場の木がすごく育つのが早いけどこれはチャスラの力?」


 私がそう聞くとチャスラは縦にジャンプした後、横に一回飛んだ。

 いきなりさっきした指示と違う行動をされたけど、これはどちらとも言えるという事だろうか。


「育つのが早い理由はチャスラの力だけじゃないってこと?」


 新しい質問をすると今度は大丈夫だった様で、縦に飛んだだけで止まってくれた。


「他にも木を育てているものがいるということか?」


 これはオーキンドラフ様の質問だったけどチャスラはピクリとも動かなかった。


「チャスラ、オーキンドラフ様の質問にも答えて。」


 そう命令するとようやく小さく横に飛び、他に木々の成長に影響を与えている者がいないことが分かった。と同時に植林場の人達の努力が影響していないことも…


「なら、こんなに大きくなるのはこの土地の問題ってこと?」


 この質問にも横に飛ばれてしまい、もう急成長の原因が私には思いつかなくなる。


「まさか急成長の原因はこの木自身のせいなのか?成長が早くどんな場所でも育つと聞いて取り寄せたのだが…この木の成長は周囲に影響は無いのか?」


 オーキンドラフ様の最初の質問には縦に飛び、次の質問に横に飛んだことで問題が発生していることが分かった。


「木が原因で起こる問題?育ちすぎるのは困るが早く育つ分には問題なかろう?」


 疑問を口に出しただけで質問ではなかった様だけど、この発言に横に飛んだことで急成長に問題があることが発覚した。


「成長には食事は欠かせませんからな、早く育つということはその分何かを食っているのでは?」


 従士長のグゼルタがさらに疑問を口にし、オーキンドラフ様の質問には反応すらしなかったチャスラが数回縦に飛んだ。


「チャスラ、この木は早く切り倒した方が良いの?」


 そう聞くとチャスラに名前をつけた時のように何度も縦に跳ね必死さを伝えてくる。これは早めに対応したほうが良さそうだ。


「オーキンドラフ様、植林場の木を一度すべて伐採して今度は普通の木を育てるのはどうでしょう?チャスラに木の実がる木を育てさせれば沢山取れるかもしれませんし。」


「スライムの言うことを鵜呑うのみにするのも問題ではあるが、確かにこの木の周囲では雑草も成長せん様だ。早急に伐採を始めるように指示を出そう。」


 オーキンドラフ様が植林場の人員に伐採用の道具を集めるように指示を出している間、暇だったので巣のあった木に触れてみると、魔力を吸われる感覚があり木からミシミシと音が鳴り出した。

 慌てて手を引っ込めて様子を見ると、周囲の雑草がしおれていき、色も黄色く変色していく。

 チャスラが慌てた様子で周囲に液体を飛ばして駆け回り、枯れかけた草達が元気を取り戻す。


「オーキンドラフ様!この木は魔力を吸収します!身体強化などで魔力を体外に出した状態で触れないようにして下さい!」


 大声で周囲に注意を飛ばして、オーキンドラフ様の下へと戻る。

 ここまで歩いて来る時に根っこを踏んづけても何もなかったというのに、一体どうしたっていうんだ。


「成長のきっかけは魔力か、伐採の時は魔力持ちを近づけない方が良さそうだな。」


「ふむ、根っこを踏んでも何もありませんが幹や枝に触れると確かに吸われる感覚がありますな。

 荒れ地に生える木との事でしたが、先程の様子を見るにこの木が原因で荒れ地になっているのでは?」


 グゼルタが木の幹を指でつつくけど先程の様な音も鳴らず、周囲の草にも変化は見られない。


「魔力持ちがここに居ても良いことは無さそうです、安全のためにも我々は戻りましょう。」


「そうだな、指示も出し終えたしここで出来ることは無い、戻るとしよう。」


「チャスラ、木を育ててくれてありがとう、また新しい木を植えたらよろしくね。

 あ、伐採が終わったら切り株とか根っことか出来る範囲で溶かしてくれると嬉しいかも。」


 チャスラにお礼を言って軽く撫でるとプルプルと身体を揺らして動かなくなったので、買ってきた肉を置いて別れを告げる。

 来た時とは違い、狭い場所を通る時に戦々恐々せんせんきょうきょうとしながら植林場から脱出して街へと帰った。


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ハンギングマジックトレント


 木の姿をした魔物であるトレントの一種。

 触れたものから極少量の魔力を貰うことで、葉や実として返すという共生を行う魔物。

 しかし生き物を自身の元へ集めるために周囲に他の植物の存在を許さず、一帯を荒れ地と化す。

 また、気に入った者の魔力を急激に奪い気絶させ、枝からツタを伸ばし樹液を飲ませて生かし続ける事がある。その姿はまるで首を吊った死体のようだった。

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