068
村に来てから一週間。ようやく変化が軌道に乗り始め、私の仕事の殆どをデスマリードに任せることが出来るようになってきた。
連れて来た兵士と戦争で夫を失った未亡人との結婚の許可や、集団見合い。持ち主のいなくなった畑の新しい管理者の決定など。村人との話し合いが必要なものはほぼデスマリードに任せて、私は魔物の間引きと木材の伐採、兵士の強化を請け負っていた。
オーキンドラフ様から追加の支援も届いて街道の整備も始まり。村の雰囲気も大分変わってきた。
不安がっていた村人の表情も明るくなり、訓練に参加したことのある村人は私を見るととても礼儀正しくなった。声を掛けると視線を外すまで姿勢を正し続けるのは困りものだけど、そのうち慣れるだろうと放っておいている。
追加支援の時にもらったオーキンドラフ様からの手紙には、向こう側からも街道の整備を始めている事と、魔力持ちが思ったよりも多く雇えたので追加で送る事、植林場の木が成長を始めたという事が興奮気味に書かれていて、使い魔を置いていったかいがあったと嬉しくなった。今度行く時にあのスライムに何かお礼を持っていかないといけないね。
「ユミル様、斥候から珍しい魔物を発見したとの報告が来ましたがどう致しますか?」
森での魔物の間引き中、少し考え事をしていたら兵士からそんな報告があった。
この村の周辺に出るのは大ネズミがほとんどで、木の密度が高いせいか大きな魔物はかなり奥まで森に入らないと見かけない。
まだそこまで奥には来ていないから、珍しい魔物というのも恐らくは小型のものだろう。
「一応見てみたいな、この辺で出るということはそんなに強い魔物じゃないんでしょ?」
「はい、大ネズミ達の好物なので地上に降りてくるとあっという間に食われてしまいますし、普段は木の上に居て襲って来ることもないので、見かける事があまり無い魔物ですね。
食べればクリーミーで美味しいらしいですけど、見た目があれなので私は食べたことがありません。」
そう言われて案内された場所には、木の上に緑色の大きな芋虫がいた。
「見た目通り
倒しますか?と聞かれてよく観察してみるとあの芋虫からかすかに魔力が感じられた。
近くで確認するために木を蹴り飛ばしてみたけど落ちてこない、登るにはかなり上の方なので水球を作って枝にぶつけてみると、落下してくる途中で糸を吐いて途中の枝にぶら下がってしまった。
糸を見た私はこいつを使い魔にすることを決め、火球で糸を燃やして地面に落下させる。
グニグニとする気持ち悪い感触を我慢して抑え込み、魔力を流し込むとスライムと比べればかなりの抵抗を見せた後に使い魔にすることに成功する。
「たしか絹の材料が虫の吐く糸を集めたものだったはずです。こいつの糸を集めれば絹布が作れるかもしれない、他にも
そう言うと魔力持ちの兵士達の目の色が変わり、頭上をキョロキョロと探し始める。
「絹の材料など秘匿されているはずですがよくご存知ですね。飼育に成功したら金貨何十枚、いや何百枚でも手に入りますよ!」
「ま、まぁ他国が独占のために秘匿しているとはいえ、何十年も経てばさすがに国も探り当てるからね。問題は虫の種類と飼育方法、それと糸をどうやって布にするかだよね、細すぎて普通にやったら切れちゃいそうだし。」
まさか頭に思い浮かんだとは説明するわけにもいかず、それっぽい説明でその場を逃げて兵士達に草を集めさせる。
芋虫のままでいろ、命令したら体調に問題のない範囲で粘着力の無い糸を吐け、はいなら縦にいいえなら横に首を振れと芋虫に命令をして、集めさせた草の中から好みの種類を聞き、栽培できそうな物は根っこごと持ち帰る事にした。
屋敷の近くの物置の1つを芋虫の家にして、兵士達には他言無用の命令を伝える。
最初はよく分からなそうな顔をしていたけど、成功したらお前達の給料が数倍になるぞと教えたら顔付きが変わったので多分大丈夫だろう。
名前なんて付けていなかったけど兵士達がお金様、金貨様と呼び始めたのでカネという名前をつけた。芋虫と呼ぶよりは秘密が守りやすくなるんじゃないかと思ったんだ。そういえば植林場のスライムも役に立っているようだし名前をつけてあげないといけないかも。
カネが吐き出す糸には魔力が微量に含まれているけど、なんの効果があるのかは分からない。肉のように魔力持ちでないと切ることが出来ないのかと思ったけどそういう事もなく、カネに聞いても効果を知らないらしいので、ただ魔力があるだけなのかもしれない。
細い糸でも切れないように調整した織り機を研究するように村の木工職人と
ユミル領の発展のために1つくらい秘密が欲しいところだけど、作るのは糸だけで加工は共同研究にした方がいいだろうか?
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