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 治療のために村を回ったと言っても、戦争が終わってすでに2ヶ月以上経っている。未だに完治していない人達は骨折や火傷、体の一部を失ってしまった人達だ。

 私は骨折や火傷は治せるけど四肢を失っている場合私では直せない。他にも目を斬られた失明なら直せるけど、眼球を失っていたら直せない。

 もしかしたら数年かければ生えてくるのかも知れないけど、そこまでかける時間も無いし、申し訳ないけど化膿止めや痛み止めくらいで許してもらった。


 治療の途中で捕まえたニーミットに事情を説明し、スクマリーナの訓練用の服を借りて領主の館へと向かう。

 何せ騎乗服すら持っていないと言うのだ。流石にスカートで剣を振り回せとは言えないだろう。

 着替えをさせて訓練場へと行き、訓練をつけるために見習い達にまずは木剣で素振りからやらせてみる事にした。

 問題の無さそうなものから身体強化をさせて私と打ち合いをして実力を確かめ、見習い達は腕が上がらなくなれば治療を行い。素振りに飽きた様子を見せたら打ち合いに参加させた。

 治療は私が行うため打ち身や筋肉痛などを気にする必要も無いので、呼吸さえ整えば次の訓練をさせていく。今日は時間がないので行軍訓練やランニングはなしだけど、大体の実力は把握できたと思う。

 訓練場が夕焼けに染まると見習い達を解散させ、今後の事を相談するためにヤースマンとデスマリード達を執務室へと集めた。


「見習い達に稽古をつけてみたけど素振りはともかく、成人間近でも身体強化はお粗末で長時間維持することもできなかった。

 木剣で打ち合ってみたけど鎧を着ている私にすら、殴り慣れていないのかろくな攻撃をしてこなかったし、遠慮してるのかと思ってこちらから殴ってみれば受け流しも出来ず、剣で必死に受けるだけで亀のようにからもるばかりで打ち合いにならない。

 この様子だと大人達の訓練も早めに見直さないと、魔力の無い魔物ですらろくに倒せないかも知れないよ。」


「私の方でも色々と話しを聞いてみましたが、どうやらデマリスク様は農民の家に生まれた魔力持ちだったそうで、従士の訓練はろくに受けていないようです。

 傭兵になった後も恵まれた体格による力任せの戦い方だったそうで、他人に教えるのも苦手で、領地を戴いた時も傭兵団に残った者が多くて教導が出来るものがおらず。子に恵まれるのも遅かったためかなり大事に育てられていたそうですね。」


 次男とはいえデスマリードはもう12歳らしいけど、部隊指揮の勉強は今年から。木剣で遊ぶことはあれど、まともに訓練が始まったのは10歳になってからだったらしい。

 5歳で素振りを始め、立ち上がれなくなるまで走らされた私やゲルターク様とはえらい違いだ。まぁ他の子供は7、8歳から訓練に参加していたから私達が早すぎるだけだと思うけど。

 火球を作って撃つのは様になっていたけれど、身体強化が維持できなければ戦場で簡単に死んでしまう。その辺りを早急に改善しないと、木の伐採で魔物が出た時に危なっかしくて戦場に連れていけないだろう。


「とりあえず魔力持ちは身体強化の時間延長、一般兵は打ち合いの怪我を魔力で治療してでも、戦闘に慣れさせないと伐採なんて始められないね。」


「かしこまりました。すぐに訓練内容を見直して鍛え直します。」


「あと、神殿の神官も元から魔力量が少ないのもあるけど、もう歳であまり治療が出来ていないらしい。訓練の一部免除を餌にしてもいいから成り手を探して欲しい。」


「そちらはオーキンドラフ領から連れてきましょう。あそこの神殿には魔力持ちが何人もいますので。」


 どうやらグラウンドタートルで怪我をする人が多いので、多めに神官を確保しているらしい。神殿に居るものの信心深いわけではなく、兵士になるのが嫌で神官になった者達なので、自分の神殿と結婚相手を餌にすれば釣れるだろうとヤースマンが言っていた。


「デスマリード、兵士の再訓練が終わり次第外壁の拡張を始めます。2倍では外の畑を囲むだけになってしまうので3倍から4倍まで広げるつもりです。

 新しい外壁の予定地点の計測と住人との調整をしてください。午前の訓練は免除しますから兵士を5人ほど連れて予定地への杭打ちもお願いしますね。」


「は、はい!がんばります!」


「私は午前中は連れて来た兵士の半数を連れて周辺の魔物の確認を行い、様子を見て試しに伐採をしてみます。午後は見習いの訓練に参加するつもりなので何かあれば午後に聞いて下さい。」


 夕食までの短い時間でも次々と問題、というか他領との違いが報告され。ミッシェルさんとデスマリードからも改善したい事を聞き出して、山積みとなった課題を順番に解決していくことになった。

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