066

 午後に向かった植林場はひどいもので、ろくに葉も生えていない枝を地面に植えたような有り様だった。地面に生えた雑草ですら葉を黄色く染め、しおれている姿はとても植物が育つとは思えない光景だ。

 余りにもひどい光景に効果があるとは思えなかったけど、私の使い魔であるスカベンジャースライムになんとかしてみるように頼んでみた。

 スカベンジャースライムが魔物の死体から作る薬はいい肥料になるらしいからね。たまにグラウンドタートルのゴミとかを運んでくるように指示を出して、その日は街に戻った。


 翌日、旧デマリスク領に向かえば道はひどい状態で、途中からはわだちしか無いわ道に穴は空いてるわで、早急に街道の整備を始めなければ木材の輸送も出来そうにない状態であった。

 村に辿り着けば聞いていた人口に対して余りにも狭い外壁に囲われ、外壁の外に作られた畑には柵すら無い。

 恐らく入植時からろくに外壁の拡張などしていないのだろう。木材を販売する前にこれを何とかしなければ人口の増加などどうやっても無理そうだ。

 それでも領主が住んでいた屋敷はそれなりの大きさがあって兵舎もあり、私達が泊まっても問題は無さそうだった。


「ようこそお越しくださいました。デマリスクの妻ミッシェルと申します。」


「デマリスクの息子デスマリードと申します。以後お見知りおきを。」


「長女スクマリーナと申します。よろしくお願いします。」


「準男爵位を戴き、この領地を拝領したユミルといいます。領地の発展のため共に協力して頂ければ幸いです。」


 村の中央で出迎えてくれた旧領主家の方々と村の相談役や兵士に挨拶をして、村の現状を聞かせてもらう。


「戦争から帰ってきたのは30人ほどで、ご領主様やご子息はもちろん魔力持ちの兵士すら帰っては来ませんでした…

 今村にいる魔力持ちは村に残っていた私達3人と見習いが5名ほどで、兵士は怪我人を合わせても50人ほどと村の防衛にすら支障が出ております…」


 兵士を代表して発言してくれた者が今は仮に兵士長をしており、現在の惨状さんじょうを話してくれた。

 正直なところ、最悪の場合誰も帰ってきていない可能性を想定していたので30名も帰ってきたことは嬉しい誤算だ。

 今回連れて来た兵士は30名ほど、見習いを入れれば魔力持ちが10人を超えるので体裁ていさいは整えられるだろう。


「部隊の指揮経験者や訓練を受けている者はいますか?」


「いえ、私達も村の警備ならともかく部隊など率いたことはありませんし、デスマリード様も訓練を始めたばかりですので…」


「私も平民の出ですので兵士の訓練は受けたことがなく、指揮などできません。」


 そう代表の兵士とミッシェルさんに言われて私は空を見上げる。一応オーキンドラフ様は優秀な者を1人よこしてくださったけど、突然知らない者が指揮官の席に座っても反発があるのが普通だ。

 思ったよりもこの村での滞在が長引きそうな事を知り、私は小さくため息をついた。


「ではこのヤースマンを兵士長に任命します。私の夫であるオーキンドラフ準男爵様からの信頼も厚い優秀な人間ですので良く従うように。

 それからデスマリードを代官として育成しますからミッシェル達も手伝って下さい。

 魔力持ちで10歳以上の見習いの中に女性はいますか?私の従士として育てたいと思っているのですが。」


 決まっていた事を矢継ぎ早に伝えても反発はなく、少し拍子抜けしたけど気にせずに先へと進める。


「10歳以上ですとスクマリーナとニーミットが魔力持ちですが兵士の訓練はしていないので従士としてお役に立てるか…」


「え、貴族なのにまったく訓練をしていなかったんですか?」


 ベガルーニ領ではゲルターク様ほど厳しくないとはいえ、ノルニーナ様ですらウルフくらいは討伐出来るように訓練していたのにまったくしていないなどということがあるのだろうか?


「魔法の練習はしていますが剣術や馬の訓練はしていません、魔法も実践経験は無いはずですし。」


「分かりました、一から鍛えることにしましょう。まったく戦えない様では貴族に嫁ぐにしても、従者に嫁ぐにしても困るでしょう。」


 貴族ならばいざという時は戦わなければいけない、従者家ならば主家を守るために身を挺して盾になる事が求められる。と、教えられて育ってきたのだけどミッシェルさんも戦えるようには見えないし、デマリスク様は余り訓練に熱心では無かったのかも知れない。

 デスマリードとスクマリーナが驚いた様な顔をしているけど、こちらも人手不足なんだ、逃がすつもりはないから覚悟して欲しい。

 寝床の確保と兵士の運用をヤースマンに任せて、治療が必要な者のいる家を回ることにした。

 村の現状を直に見る必要もあったので散歩のついでだけど、治療の腕に関しては任せてほしい。たくさん練習したからね。

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