056
翌日からは大忙しだ、まず王城へ行き正式に貴族として登録してもらう。紋章は没落した貴族家の物から、斧の描かれている紋章を選んでもらうだけのらくらくコースでしてもらった。
登録が終わり、年金を受け取ったら。今度はドレスを作るために服飾店を呼び付ける。
イースリーネ様達の分も頼むので、他の店も紹介してもらって2度も計測をさせられた。
本来は家も買わなければいけないのだけど、維持するには人も雇わないといけない。ということで相談によって面倒だし結婚するから買わないことになった。
本当に婚約出来てよかった、やらなくてはいけない事の数が半分以下になるんだ。
きっと今回の戦争で騎士になった人達は、今頃財布から出ていく金の多さと、面倒事の多さに涙を浮かべている事だろう。
家と管理人だけではなく、資財を守るために従士が必要になり、馬や馬車を買えば世話をする者が必要になり、王都だけでは無く領地にも同じだけ必要になる。
紹介して貰えなければ、自分で集めて審査もしないといけないだろうし、そんな苦労をしなくていいのだから私は幸せ者だ。
王城から招待状が届く頃にはやらなければならない事も無くなって暇になり、下水道へ討伐にでも行こうかなどと考えたものの。当たり前に却下されて、勉強のための本が1段高くなるだけだった。
覚えなければいけない事は多いのだけど、そればかりするのは集中力が続かなくなって、抜け出して訓練をする時間ばかりが増えていった。
歴史やマナーを覚えるのはまだましだけど、貴族名鑑とかいう名前と紋章と領地の事などが書かれた本を丸暗記するのが本当に面倒臭い。しかも毎年変わるから毎年覚え直さないといけないらしい。
上位の貴族だけ覚えればいいらしいけど、私は今最下級の騎士爵だ。覚える数はさほど変わらない。いや、騎士爵だけで全体の5割くらいいるのでかなり変わるか。
招待状を握りしめ、口紅を塗っていなかったら真っ青になっているだろう唇の内側ではカタカタと歯を打ち鳴らし。キョロキョロと落ち着き無く視線を
今からでも鎧姿が許されないかと神に願うが叶いそうにも無い。
ゲルターク様がこちらに呆れた様な視線を送ってきているけど私は知っている。彼も貧乏ゆすりが一向に止まらず、何度か自分の膝を叩いている事を。
イースリーネ様が何度も大丈夫だと優しく声をかけてくれるけれど、気分は連行されてる囚人と変わらないかも知れない。
だがゲルターク様はまだましなのだ。今日
私は今日剣を
王城を守る内壁と内堀を越えて、兵士に招待状を見せて門を通り過ぎる。
美しい
どうやらベガルーニ様達とはここでお別れらしい。今回叙爵する人達だけが集まる部屋に通されるんだそうな。
コンコンと部屋の扉を侍女がノックして、返事を待たずに扉を開けて中へと入る。
「それではしばらくこちらの部屋でお待ち下さい。
食べ物は好きな物を取っていただいてかまいません。飲み物はあちらの者にお申し付けください。」
「ありがとう。」
部屋を見渡すといくつかのテーブルとソファが並べられ、20人程の者がすでに集まっていた。
私は紅茶を受け取ると、女性が数人固まっている場所へと歩き出す。
「こんにちわ、こちら座ってもよろしいですか?」
空いている場所に近付き声を掛けると、女性陣から困惑の表情を向けられはしたけど。どうぞ、と遠慮がちに席を進められた。
「あんた、いや
困惑の表情を浮かべたままの正面の女性が話しかけて来る。
「辺境伯様より騎士爵の位を戴いておりますのですでに貴族ではありますが。今回の戦争で貴族となったので皆様と変わりませんよ。
同期として仲良くしていただけると嬉しいです。」
「なるほど?先に爵位を貰うなんて事もあるんだね。
相談相手が増えるのは大歓迎だ、あたしの名はマーニルだよろしくね。」
「ユミルと言います、よろしく。」
挨拶をすませるとテーブルを囲んでいた女性達もそれぞれエディリア、アラーナ、セレスト、デルシーと名前を教えてくれた。
戦争で騎士になる様な女性陣なので皆、私と同じ様に筋肉に覆われたガチガチの体格をしている。
「ところで戦場じゃ見かけなかったけど、
「1戦目は右翼の端で2戦目は森の中にいましたし、最後は最前線にいましたけど、直ぐに戻って砦で治療をしていたので、会わなかったのはそのせいですかね?私も皆さんの事知りませんし。」
「ああ、あの爆発の中にいたのかい、そいつは災難だったね。最前線の中央にいた連中は皆耳をやられたり火傷で大変だったって聞いてるよ。
あたしは本隊と一緒に参加した口だけど、中央の中程にいて最前線がバタバタと倒れている隙に潜り込んだら、偶然そこそこの地位の奴らを討ち取れたおかげで今ここに居るってわけさ。」
つたない敬語を交えながらもマーニルが胸を張って自慢げに自分の事を話してくれた。
どうやらあの特大火球で味方もかなり被害が出たらしい。出来るだけ味方を巻き込まないように離れたつもりだったけど、以前の伯爵の物よりも1周り以上大きかったからね、それだけ威力もすごかったんだろう。
「ねぇ爆発に巻き込まれるくらい最前線で戦ってたって事はあんたは紫鎧を見たのかい?」
「紫鎧?最前線で暴れたのは銀鎧だろ?」
「あたしは右翼から帰ってきたのを遠くから見たけど紫の鎧を着ていたよ?」
次々と目撃情報が上がるが共通するのは色が銀か紫のどちらかということだ。
そして、彼女達に共通するのは全員前線に配置されていた事だ。左右等の違いはあるけど、この中には奇襲部隊や本部直衛部隊から新しく貴族になる者は居なかったようだ。
「あのう、私の鎧は炎で熱すると紫色とかに色が変化するので、多分どちらも同じ人の事だと思います…」
そう発言した瞬間部屋に居たほぼすべての視線がこちらを向いた。
「「「「「
声を合わせて私に突っ込んで来る5人の声が部屋に響き渡り、離れた場所にいた男性陣も興味を持ったのか近付いてくる。
「まさか
「
「おいおい、あんたの薄い財布で大丈夫なのかい?お貴族様が飲むような酒が買えるような金が入ってるようには見えないけどねぇ?」
「し、仕方ねぇだろ!このドレス作らせんのにいくらかかったと思ってんだい!あの商人共足元見やがって覚えてやがれってんだ!」
「第一あんた貴族を呼べるような料理人雇えたのかい?もう酒場を貸し切って人を呼ぶなんて出来る立場じゃ無くなるんだよ?」
次々と早口で
「ということは砦に出る、怪我の治療を頼むと馬車に乗せて前線送りにされる紫の
近付いてきた男性陣の中からも質問が飛んでくるけど内容に大きな誤解がある。と思う。
誤解を解くために詳しく説明をしてみたけれど、何故だか噂を補強している様な反応ばかり返されてしまった。
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