057

 いつの間にか私の武勇伝語り会場と化していた部屋にノックの音が響き、謁見えっけんの間へ移動するようにと、声がかかってぞろぞろと部屋の外に出る。

 何故か私の後ろに並ぼうとする同期達をジト目で流し見して、侍女の後ろを歩いて謁見の間へと向かう。

 長い廊下の先に10人ほどの騎士が守る大扉が見え、目の前まで進んだ侍女が騎士に何やら伝えると、室内と連絡を取り合った後そのまましばらく待たされる。

 室内では恐らく王の物と思われる声が響いていて、身体強化をしなくても聞き取れそうな程の声量が漏れ聞こえている。

 やがてさらなる盛り上がりを迎えた話によって、声量はどんどん大きくなり完全に聞き取れるようになった。


「では、そろそろ此度こたびの大いなる勝ち戦に貢献こうけんし、新たなる貴族となる者達を迎え入れる事にしよう!

 そなたも彼らを温かく歓迎し、先達として導いてやって欲しい。」


 王からの許可が出て扉が開かれ、扉を守る騎士に小声で「進め」と言われて、私は習ったマナーの通りに足元を見ながら前へと進み。王が立つ壇上の見える辺りで立ち止まると、片膝をついてこうべを垂れる。

 同期達は私の隣には何故か来ず。一歩下がった位置で並んだ気配がした。


おもてを上げ、もう一度よくその顔を見せよ。」


 そう言われて私達は立ち上がって顔を前へと向ける。

 目に入ったのは杖を持ち、床まである重そうな赤いマントを付け、王冠をかぶった40ほどの男性だった。


「うむ、皆歴戦の騎士にも負けぬ精悍せいかんな顔つきをしておる。

 そなたらの奮闘ふんとうのおかげで戦いの情勢が傾いたと言っても過言ではないだろう。」


 そう言って王様はゆっくりと私達を見回し、横にいた文官から皮紙を受け取ると内容を読み上げ始める。


「まずは本体到着前の戦で敵伯爵と千人隊長、及び騎士14名を打ち倒し、イストラッド辺境伯により騎士爵にじょせられた女傑じょけつ。ユミル前へ。」


 呼ばれた私は一歩前へ出て姿勢を正す。周囲からはざわめきが起き、感嘆かんたんの声が上がる。


「今言った分だけででも貴族となる事に不足は無い働きだ。だが知っている者もいるだろう、この者の手柄はこれだけでは無い。

 敵第二王子の捕縛、最前線にて敵陣地を割り開き大混乱におとしいれ、敵奇襲部隊の中核を叩きアイトコーゼン第一王子の危機を救った。

 どれも1つあれば昇爵に十分な働きだが、残念ながら1度に上げることの出来る階級は1つと決まっておる。

 そこでユミル騎士爵には準男爵への昇爵。オーキンドラフ準男爵との婚姻の許可。今回の戦で途絶とだえたデマリスク騎士爵の領地。王都の邸宅と従者。さらに金貨3000枚を報奨として与える事とする。

 ユミル、前へ出て剣を捧げよ。」


 報奨で貰えそうな物全部乗せの様な内容に、目を見開いて驚いていると、今日のメインイベントが遂にやってきてしまった。

 王の前まで進み膝をつき、剣帯から鞘を外すと、頭を下げたまま両手に乗せた剣を王様へと捧げる。

 剣を受け取った王が鞘から抜き、私の肩に剣の腹を乗せると質問を1つ投げかけてくる。


「新たに貴族となり準男爵となったユミルよ、お前の剣は何を守る。」


「故郷といただいた新たな領民を守ります。」


「良いだろう、その手で守りきれるよう精進せよ。」


 そう言うと鞘に納めた剣を私に返し、剣帯に付け直した私はゆっくりと立ち上がって敬礼を行った、歓迎の拍手が鳴り響く中元いた位置へと戻って姿勢を正す。

 まだ気を抜く訳にはいかないけど無難に出来たのではないだろうか?

 誓いを述べた時に少しざわついた気もするけど、自分の言葉で誓わないといけないとかで前例とか教えて貰えなかったんだから仕方無いよね。

 その後は同期達の手柄と報奨を聞き同じ様に誓いの儀式をする訳だけど…なるほど、普通は国を守る事を誓うらしい。

 2つ目、3つ目はそれぞれの違いがあるけど、何処で習ったのか皆1つ目は国を守る事を誓っている。私もそういうふうに教えてもらいたかったな…

 手柄も部隊で騎士を5人以上倒した者達ばかりで、十数人しかいない同期達だけで敵の騎士を100人近く倒しているんだから、そりゃ敵も逃げるわけだよ。まぁその内20人以上は私が倒したんだけど。

 報奨も領地と金貨数百枚が相場の様で、500枚を超えるのは今回の戦場跡地を領地に貰った4人の男性だけだった。

 指揮した人数も多いのか一際戦果が多かったのだが、誓いを述べて戻ってくる時には顔色は真っ青になっていた。

 10年以内に再び戦場になる可能性の高い貧乏くじを引いてしまった彼らには悪いが、助けには行くから何とか頑張って欲しい。


 全員の誓いの儀式が終わり、王族が全員部屋から退出すると一気に部屋の空気が弛緩しかんして、雑談が聞こえて来る。

 私達にも案内の侍女が話しかけて来て待ち合い室へと帰った。

 この後に舞踏会なんかが無くて本当に良かった。疲れ切った私達はだらしなくソファーに寄りかかり、馬車の準備が出来るまで殆ど会話も無く過ごしたのだった。

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