053

 魔法が使えるというのに態々わざわざお湯まで用意して貰い。身体を拭いてさっぱりしてから柔らかいベッドで横になる。

 流石は貴族家が立ち寄る準男爵家の布団だ、わらやボロ布ではなく綿が沢山詰められていてとても寝心地が良い。

 これが貴族の暮らしか、とベガルーニ様に失礼な事を考えながら眠りについた。


 翌日も朝から細かくした亀肉の入ったスープを飲み、宿へ戻ってベガルーニ様の兵士と合流する。

 ドレスから町娘服に着替えて、イースリーネ様達と暇つぶしの買い物に出かける。男性陣に物資のことは任せて、私達は遊んで過ごすのだ。

 店舗もそれなりに数があり、べっ甲を買い付けに来る商人が持って来るのだろうか、結構品ぞろえが良い。

 べっ甲の細工もいくつもあり、私もシンプルなくしを1本購入した。

 侍女にドレスに比べて頭がさびしいと言われたんだ。決して馬鹿だと言う意味では無いと思いたい。


「良い布だけれど値段はどうなのかしら?王都まで行くのだし態々わざわざ高い物をここで買う必要はないわ。」


 イースリーネ様が真剣な顔付きになり、布を紹介していた商人に向かってするどい眼光を飛ばす。


「いえいえ、王都は今社交シーズンに向けて大忙しですからな。戦争で快勝されて新たな貴族家も増えて買い手が多いですから、これからどんどん値段が上がっていくでしょう。

 この布はこの辺りで作られた綿の良い物だけを選りすぐって作られた上級品でございますから、今王都で売れば2割は値段が上がるのは間違いございません!

 お客様がご購入されなければ数日後には馬車で王都へと送られる予定でございます、値段を下げる事は出来ませんがこの値段で買えるのは今だけでございますよ。」


 商人負けじと笑顔を深くして対抗してくる。確かに王都に持っていけば高く売れるだろう、輸送費などはあるがさほど大きい物ではないし、商人としては売れるなら売っても良いというくらいか。

 売れ残ったり、盗賊に奪われる可能性もあるから一概いちがいには言えないけど、商人も強気に見える。


「ユミル様、布というのはこんなに高いものですの?」


「そうですね、辺境伯領の店でも似たような価格でしたので、このくらいなのだとおもいます。」


 ノルニーナ様からの質問に答えたけど、布単体を買うのを見るのは初めてなのだろうか?もしかしたらドレスを仕立てる時の費用に含まれていたのかも知れない。


「絹は綿の20倍以上するそうですから、布だけでドレスが2着は買えますね。」


「え?ユミルのドレスに絹が使われていたわよね。一体いくらしたのよ。」


「ええ、あれは本当に高かったのです。本当にあそこまでの物を買わないといけなかったんでしょうかね?」


 ノルニーナ様と雑談をしていると、両者の決着が付いた様で支払いが終わったらしい。

 以前、村に来てイースリーネ様に会った商人は青い顔をして帰って行ったものだが、やはり商人側に分があったのだろう。笑顔を崩すことは出来なかった様だ。

 宿へ配達を頼み、外に出ると昼に近いせいか道行く人が増えていた。

 露店を冷やかした後、宿へと戻り昼食を食べる。露店で亀肉のスープが売っていたのには驚いたけど、値段を聞けば恐らくジャリジャリとする部位の肉なんだろう。

 魔力を持たない人達が噛まずに飲むのであれば食感なんて関係無いものね、安価で魔力持ちの肉が食べられるのだから、この街の活気にも納得がいくというものだ。

 うちの村にもウインドウルフがいるけどあいつは余り魔力が多くないから、あそこまでガツンとした効果は体験出来ないからね。あと、月に1度くらいしか狩られない。


 昼食を食べている時に思い出したので、土魔法を使ってどのくらいの変化があるのかを確認してみることにした。

 魔力球を作って土に変換してみると、確かに楽になったという感覚はあるんだけど効率で言うと1%も変わっていない気がする。0.1%とか下手するともっと少ないんじゃないだろうか?

 それでも何と言うかグチャグチャだった道が整理された様な、スッキリとした感覚があり、確かに効果があると言う事は分かる。

 変換が早くなるという事は、今までの魔力球を完成させてから変化するよりも、変化しながら大きくした方が早く完成する様にいずれはなるのかも知れない。

 次に試すのは、私のメインとも言える磁力魔法だ。知識で得た磁力というよく分からない力を使う魔法だけど、土系の操作魔法だと思って私は使っている。

 磁力魔法を使うとほんの少しだけ威力が上がっている様な気がする?ただの気のせいかも知れないけれど、10年近く毎日の様に使っていた魔法だ、違和感がある事は間違いない。

 それと同時に整理された様な感覚の正体も多分わかった。おそらく属性への理解が深まったのだろう。親和性が上がったと言うべきか、その属性を操る時に適切な魔力の感覚が理解できた感じだろうか?

 肉を食べ続けるか、魔力操作をみがくかして、感覚通りの魔力を使うことが出来れば、きっとより強い魔法が使えそうな気がする。

 晩餐ばんさんの準備を始めるまでの間、ひたすら魔力操作の練習をしてみたけどそう簡単には行かない様だ。やはり私も肉をもっと食べる必要があるのだろうか…?

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