048

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47話のゾーラのユミルは「人じゃなかった」発言を「普通じゃなかった」に変更しました。

警戒心が強い割にあけすけに話すぎているのでもうちょっと直したいところ。

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 翌日の昼前、イースリーネ様に招待されて騎士爵家のお屋敷へ、ドレスを持って母と向かう。

 昨日母が約束を取り付けてくれて、ついでだから私にマナーなどを教えていただけるそうだ。


「本日は招待頂しょうたいいただき、ありがとうございます。」


「ようこそおで下さいました。本日はよろしくお願い致しますわ、ユミル様。」


 突然イースリーネに様付けで呼ばれ、私は慌てて訂正する。


「イースリーネ様、私に様など必要ありません!どうぞ今まで通りお呼び下さい!」


「まぁ、何を言っていらっしゃいますの。ユミル様はすでに騎士爵家の当主、わたくしは騎士爵婦人です。呼び捨てになど出来ませんわ。

 こちらは私の娘でノルニーナです。未成年ですが今日のお茶会に参加させてもよろしいでしょうか?」


「ノルニーナと申します、よろしくお願い致します。」


 一緒の魔法の授業を受け、すでに知り合いであるノルニーナ様はそう言うとニッコリと笑いかけられ、頷いた私は応接室へと案内される。お二人共、普段はもっと砕けた口調で話されているのだが、どうやらすでにマナーの授業が始まっているらしい。


 机を挟んでソファに座り、母はドレスの入った木箱を持ったまま、私の後ろへ立った。

 机の上にお茶菓子が出され、ソニアさんが良い香りのする紅茶を入れてくれる。


「ユミル様のお陰で私の夫も辺境伯様の覚え目出度めでたく、準男爵へ昇爵の内定をいただいているそうですわ。本当にありがとうございます。」


 そう言ってイースリーネ様が頭を下げられ、私の緊張度が上がっていく。


「い、いえ。敵の千人長を倒したのはベガルーニ様の功績ですから、私の力など無くても手柄は上げていたと思います。」


「まぁ!ユミル様にそう言っていただけるなんて嬉しいですわ。夫も喜ぶでしょう。

 そういえば、今日はドレスの仕立て直しに付いて聞きたい事があると聞いておりますわ、早速ですけれど見せて頂いてもよろしいでしょうか?」


「はい、お願いします。」


 イースリーネ様の攻勢に耐え、母に頼んで木箱の中身を広げてもらう。


「まぁ!意匠は素敵ですけれど、確かにこれではユミル様に着ていただくのは難しいですわね。」


「素敵!フリルから透けて見える薄いピンクがとても綺麗ですわ!」


 サイズはともかくデザインは良いからね、このドレス。ちなみに装飾品はすでに外して、ゴードンさんに武具の修理と一緒に加工を頼んで来た。


「ええ、ですがこのサイズが問題で。どこに手を入れたら良いのかお聞きしたかったのです。」


「そうですわね、横ではなく前後を切るしか無いと思いますけど、フリルはどうしようかしら。すべて外すのは大変ですものね?」


「お母様、縫い目から横に広がる様にフリルを縦に付けるのはいかがです?

 首元にはユミルの斧に使っている金属でボタンを作ってはどうかしら?装飾に使えそうだと前から思っていたの。あの紫色はとても綺麗だもの、ピンクの生地によく合うと思います!」


 イースリーネ様から視線を向けられたノルニーナ様は、鼻息もあら矢継やつばやに意見を出して来る。

 こんなに服が好きだとは知らなかった。そういえばミーニャにたまに刺繍ししゅうを頼んでいた覚えがある。


「そうね、悪くないと思うわ。紫の鎧騎士という二つ名があるそうですし、鎧にまつわる物を身に付けるのは良い案ね。」


 少し頭を抱えたイースリーネ様からも賛同の声が上がり、その方向で仕立て直す事が決まった。

 二つ名が付いている事も初めて知ったのだけれど、私の鎧は黄色だ。紫で染める気は無いんだけどどうしよう…


 服の上からドレスを着て、まち針を刺した後にそのまま仮縫いをし。一度脱いだらバッサリと布を切っていく。

 どうやらこのまま作業を進めるらしい。まぁ時間無いからね、祖父は一月後出発と言っていたけれど何が起こるか分からない。

 オーキンドラフ様に早めに会うために先に出発する可能性もあるのだ。

 バッサリと切られてしまった切れ端をハラハラとした気持ちで見ながら、母とソニアさんの仕事を見守るが、一番緊張しているのは作業をしている二人だろう。

 買った値段は知らないだろうけど、貴族の服飾に関わっていたのだ、大体の相場は予想が付くだろう。


「ユミル様、そんなに見つめていたら二人もやり難いでしょう。こちらに来て一緒に菓子でも食べませんか?」


 そう声をかけられてハッとする。確かにずっと見られていては仕事もしにくいだろう。

 問題はその席に戻るとマナー講習が再開する事だ。まぁ断る事も出来ないんだけどね。


「そうですね、ノルニーナ様のおかげで素敵なドレスに仕上がりそうです、ありがとうございます。」


「ドレスのデザインを考えるのは、とても楽しいのですものかまいませんわ。ですが、お礼を催促する様ではしたないのですが。

 私もあの金属で、ブローチか髪飾りが欲しいと思っておりましたの。出来れば融通ゆうずうしていただけると助かりますわ。」


 はしたないと言いつつも全く悪びれた様子も無く、いつもの授業中の様なノリで頼み事をしてくるノルニーナ様だが、横でイースリーナ様の片眉が上がり、私の背筋が寒くなる。口調だけ礼儀正しくても駄目な様だ。


「ええ、今日のお礼になるのであればイースリーナ様の分の金属もお集め致しましょう。

 ただ、狙った色一色にはし難いため、複雑な形には向かない事をご了承下さい。

 色を変えた後に削って絵を描くくらいなら出来るかも知れませんが、部位毎に色を変えるのは小さくなるほど難しくなります。

 そもそも、鉄より加工しづらい様ですので、金や銀細工の様に細かい細工には向かないかも知れません。」


「まぁありがとうございます。それではボアの牙の様に板にして、色を変えて彫りを入れて、それから鎖で繋ぐ方が良いのかしら?」


「そうですね、ブローチの真ん中を鏡の様に平らにするとか、太めのブレスレットなどの方が作りやすいかも知れません。

 後は無地の指輪を作って一色に染めたり。グラスを作って黄色から紫、青と色が変わって行くのを楽しむのも良いかと。」


「ブレスレット!良いですわね、紫に色を変えた後にお花の絵を描いて貰うのも素敵そうです!」


 前傾になり、今にも立ち上がりそうなほどノルニーナ様のテンションは上がりっぱなしだ、隣の極寒には気がついていない。

 チタンでどういう装飾品が作れるか考えていたら、私も欲しくなって来た。指輪なら楽に色を染められるだろうか?


「一応チタンの色は黃、赤、紫、青、灰、黒へと変わる様ですから。紫にこだわらなくても…」


「いいえ、紫は高貴なお色ですもの。それに私は紫やピンクが好きなのですわ。」


 黄色ならば変色しないか黄色くなるかなので、面倒ではあるが比較的楽だったのだが。

 紫は赤紫と青紫があり、色の調整が非常に難しい。温め過ぎるとすぐ青っぽくなったりと、面倒さは黄色の比じゃない。

 まぁ難しいとは伝えたので、ある程度の所で我慢してもらおう。

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