047

  久しぶりに村の門をくぐり、計算してみたら2ヶ月経っていない事にあれ?そんなもんか。と首をかしげ、何も変わらない景色と出迎えてくれた見知った顔を見て、帰って来たのだと胸が熱くなる。


「ただいまみんな!」


 家族を見つけ感動の再会と抱擁ほうようを交わすと、屋敷まで一緒に馬車を置きに行く。

 乗せていた荷物を下ろして倉庫に運び込み、自分達の荷物を持って家へ帰る。父はまだ仕事があるみたいだけど、祖父とタムルは一緒だ。


「これお土産ね、母さん達も好きなの選んで。」


 私が買ってきたのは、シンプルなリボンと小さな飾りの付いた髪飾りだ、お金はあったけどあまり派手な物を買うと、せっかくのタムルからコーリア姉へのプレゼントが台無しになってしまうからね。

 リボンは色だけはたくさん買って来たから、好きなだけ持って行ってもらう、何本あっても困らないからね。

 ミーニャが青系、ホリーが緑系、ゾーラが赤系を選んで姉はまだイチャイチャしているのに忙しくて選んでいないが、タムルはリボンも買ったらしいので問題は無いだろう。


「ユミル?このドレスは何?」


 リボンよりも先に、買ってきた布を確認していた母が、木箱からドレスを取り出して私に聞いてくる。


「それ仕立て直して欲しいんだ、社交界で着ないといけなくってさ。」


「え、あなたが着るの?大分大きい様だけど、絹も使って宝石まで付いてるじゃない。」


「ああ、ユミルは辺境伯様に騎士に叙され、さらに準男爵位の内定まで貰ったのだ。

 1月程したら王都へ出発しなければいかんからそれまでに頼む。」


 そう祖父が母に伝えると、母と祖母の顔色が青褪あおざめる。さもありなん、期間が短い上に恐らくはやった事も無い仕事をしなければいけないのだ。私なら卒倒そっとうする。


「イースリーネ様に言って、ソニアを借りれる様にお願いしましょう。絹なんてあつかった事が無いし、このドレスも体格が違い過ぎるわ。」


「そうですね、ソニアならイースリーネ様やノルニーナ様のドレスを直した事があるはずです。急いで話を通してもらって来ます。」


 そう言って母が駆け足で玄関から出て行った。ちなみにイースリーネ様はベガルーニ様の奥方で、ノルニーナ様がご長女、ソニアが騎士爵家の侍女頭じじょがしらをしている人だ。


「それでどうしてユミルが騎士様になんてなる事になったのです。従士家からあるじに無断で取り立てる様な事は無いでしょう?」


「あー戦に行く前から可能性は考えていたのだ。お前にもその事は話していただろう?

 ユミルにとっては平民の魔力持ちを倒すのも、騎士を倒すのも変わらん。だから何人も騎士を倒せばもしかしたら、という事も考えていたし、ビルザーク様やベガルーニ様とも話していたのだが…」


 そう言って言葉を詰まらせた祖父へ、視線が一段と強くなった祖母が先をうながす。


「誤算だったのは、ユミルにとって平民の魔力持ちどころか、一般兵を倒すのも騎士を倒すのも変わらんかった事だ。

 敵陣に単身で乗り込んでは二桁の騎士を討ち取って平然と帰ってくるのだ、これではベガルーニ様とてかばいきれん。

 最悪でもゲルターク様の妾か、正妻にでもしたら村に残れると思っていたのだが…敵国の第二王子をさらって来たのでは貴族にせん訳にはいかん、完全にベガルーニ様の手から離れてしまったのだ。

 ああそうだった、2つ離れた領地のオーキンドラフ準男爵様との婚約も決まったから、社交シーズンが終わって帰って来たら輿入こしいれをするぞ。」


 少し早口で祖父が言い切ると、祖母が卒倒そっとうした。祖父は分かっていたかの様に素早く体を支え、抱きかかえて祖父達の部屋へと運んで行った。


「ユミル、良く分からないけれど婚約おめでとう。もうすぐ成人なのに全くそういう話を聞かないから心配してたのだけれど…心配が増えた気がするわ。」


 先程まで幸せそうな顔をしていたコーリア姉が、困った顔をしてこちらを見ている。


「ユミル姉はいつかはやる子だと思ってた。」


「ユミル姉は勉強も出来るし、昔から勘が良かったから貴族でもやって行けると思うよ。」


 ミーニャがまるで犯罪者について質問されたかの様な発言をして、ホリーの厚い信頼がとてもまぶしい。


「やっぱりユミルは普通じゃ無かったのね。一兵士が王子様を拐って来るとかどうやったら出来るのよ。」


 ゾーラの視線が冷たい。そして王子を捕まえたのは私のせいじゃない。と思う。


「いや、王子が意味も無く敵陣地近くまで散歩に来てたんだよ、本当に。

 偶然見つけて捕まえてみたら王子だったんだ、私のせいじゃないよ。」


「そんなわけないでしょ、戦争中に護衛も無しにその辺を歩いているわけ無いじゃない、きっとなんか変な魔法を使ったんだわ。」


「いや、護衛はいたし、その辺にいるわけ無いのはその通りなんだけど…」


 ゾーラの疑いを晴らそうと思ったのだが、ますます疑いが深くなってしまった。

 これに関しては私も、未だに信じられないので説得のしようがない。

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