046

 宿に戻った私は、ベガルーニ様に父を貸してくれた事を感謝し、買ったドレスのデザインに問題が無いか見てもらった。


「これは…メルノークトープ子爵婦人の物か?其方そなたが着るには随分大きいと思うが。」


「良さそうな物がこれしか無かったのです。他は細すぎるか小さい物ばかりだったもので、これを手直しするしかありません。」


「ふむ、いつもならもっと種類があったはずだが。戦争に巻き込まれぬ様に移動させてしまったのかも知れんな。

 晩餐ばんさんに参加するにはデザインが少し派手過ぎるかも知れんが、粗末そまつな物よりは良いし、綿ならば多少は目こぼしはしてもらえるだろう。」


 それを聞いて胸をろす。派手過ぎるから返して来いなんて言われたらどうしようかと思ったよ。


「良かったぁ、この装飾品は外してペンダントにする予定なのですが問題無いでしょうか?」


「ああ、それならば丁度良いのではないか。そのままでは子爵家以上の方が着る様な華やかさだからな。

 メルノークトープ様は子爵婦人とはいえ派手好きな方だ、フリルも減らせるなら少し減らすくらいで良いだろう。」


「そのメルノークトープ様と断言だんげんしてしまっていますが、よろしいのでしょうか?」


「ユミルも会えば分かる。ドレスを見れば分かるだろうが、あの方はオーキンドラフ様よりもデカイのだ、社交界に参加する方であそこまで大きい方は他にいない。

 あそこまで大きくなっても周りの目から許されるのは魔法師団の方々だけだからな。」


「魔法師団?」


 見た目で他の貴族に揶揄やゆされるのは分かるけど、なんで魔法士団だと許されるんだろう?普通はもっと身体をきたえろと言われるんじゃないの?


「ん?ユミルは知らんかったのか。魔法を使ってくる魔物の肉を食うと、その属性を使った時に魔力効率が上がるだろう?

 だから魔法師団に入った方々は、国から金を貰って魔物の肉を食いまくるのだ。魔法師団に入って太らぬ者は仕事の出来ぬ無能か、おのれではなく財布を太らせる不届き者と呼ばれるのだよ。」


 私が疑問を口にすると祖父が詳しく教えてくれた。「エメラルドウルフを食った後に気が付かなかったのか?」と聞かれたけど、私は風の魔法はあまり使わないからなぁ。


「全然気が付かなかった、魔力があふれる感じはしたからうつわは大きくなるかもとは思ったけど。」


「ああ、器は大きくはならんらしいぞ。正確には訓練で大きくなってるのか、肉を食ったから大きくなったのか、分からん程度にしか変わらんらしい。」


 うん、私もエメラルドウルフを食べた後も、いつもと変わらない程度にしか上昇しなかったからね。効果があったとしても本当に少しなんだと思う。


「というか、普通は身体強化をしていれば早々太ることは無いからな。内臓を強化して相当な量を食わなければ貴族が太る事は無い。

 まぁ中には食道楽くいどうらくを極めて太る者はいるが、食うための金が国から出るのだから普通は魔法師団に入るものだ。

 爵位が低い者や魔力が低い者は魔法師団に入れぬが、そういう者達は元々食道楽をするほど金が無いしな。」


 普通は男爵以上でなければ魔法師団に入れないが、オーキンドラフ準男爵は元子爵令嬢の孫で魔力が爵位に比べて多いらしい。

 あの方、思っていたよりも優秀な人だったのかも知れない。太った見た目で減点してしまったけど、貴族ではあれはモテる要素だったのか。いや、平民も太れるくらい稼ぎのある男と子を沢山産めそうな体力のある女は人気があったな。

 今まで騎士の様な体格の人を相手として想像していたけれど、良く考えると優良物件だね少なくとも食事で困る事は無さそうだ。


「風の魔法であの方の、右に出るものは居ないと言われておるくらい有名な方なのだ、光栄に思い大事にするのだぞ。」


「はい、無駄にすることが無いよう慎重に仕立てさせて頂きます。」


 光栄に思うかは別にして駄目にしてしまった場合、王都に行くまでもう一着買える様な金は無いので、無駄にしてしまうと色々とまずい事になる。

 きっと母達なら何とかしてくれると信じている。妹のミーニャなんてすごく綺麗な刺繍ししゅうが出来るんだ、絹だってえるだろう多分。きっと。

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