045

 代金を支払って木箱に入ったドレスを父に持たせて、店を出ると二人同時にため息をついて次の店へと向かう。


「お父さん服って高いね。」


「いやあのドレスがおかしいだけだ、ベガルーニ様が買う服でもあんなにしないぞ。それにあの細いドレスなら金貨1枚もしなかったはずだ。」


「一から作ってもらった方が良かったかなぁ?」


「そうすると今度は時間がかかりすぎる。すぐに作業に手を付けさせるなら割増料金が必要になるし、装飾品はどのみち必要になるんだ、鎖でも買って行ってゴードンに加工させれば無駄にはならんだろ。」


 父が言う様に半貴石と銀のブローチだからペンダントには丁度いいかも知れない。

 鎖を買わないといけないのでさらに出費がさかむけど、他のドレスにも使えるのなら悪くは無い選択だと思う。

 ドレスの胸元に付いていたブローチは、小さな半貴石を沢山使って鈴蘭の様な花をかたどった銀細工だ。花の色も薄い黄色で、とても使いやすくていいと思う。

 布と糸を買い、銀のチェーンを装飾品店へ買いに行った後、次は剣を買いに行くと言えば父の機嫌が一瞬で良くなった。

 私としても同じ銀のチェーンだけで10本も種類があり安い物を買おうとすると、細すぎて私に合わないとかペンダントを付けるならこちらの方が良いとセールストークが始まり、結局中間より少し良い物を買わされてしまった。

 やっと終わったと思ったら長さの調整が、と言われた時は思わず顔が引きつったけど、手際てぎわが良く案外直ぐに終わったので拍子抜ひょうしぬけしてしまった。

 そんな事もあり、値段交渉を任せた父はかなりお疲れな様子であったのだが、自分の興味のあるものならば別腹なのだろう。私もそうだ、未だにこの鎖に本当に銀貨40枚出す必要があったのか疑ってしまう。


 しばらく歩いて辿り着いた武具店は、うちの村の鍛冶屋とは似ても似つかない綺麗な店構えをしており、店に入ると武器や防具が所狭ところせましと並べられて私達を出迎えてくれた。

 まぁここは剣と鎧が看板の武具店で、あちらはハンマーと金床かなどこが看板の鍛冶屋なので全く違う店舗ではあるけれど、ほぼ受注生産だから村にはこんな風に並べられていないんだよね。

 思わず斧や鎧を見に行きたくなるけど、今日の目的はショートソードを買うことだ。たくさん並んでいる武器の中でも広いコーナーを持つ。ナイフに刺突剣レイピア短剣ショートソード長剣ロングソード片手半剣バスタードソード両手剣ツーハンデッドソード大剣グレートソード。片刃に両刃、曲刀まで文字通り天井まで壁一面に飾られている。

 出来れば斧のように力一杯殴りつけても折れない、分厚くて丈夫な剣が欲しいのだけれど、今日買わないといけないのは装飾の付いた儀式剣のたぐいだ。

 金や銀が使われているお高い物ではなく、青銅や真鍮しんちゅうなどの銅合金を使った少し値段の優しい物が欲しい。


「これなんかどうだ?式典に持っていっても違和感はないと思うが。」


「流石に細すぎない?王都で普段持ち歩くから実用性も欲しいんだよね。短くてもいいから幅広いのか分厚いのが欲しい。」


「確かにユミルなら懐に飛び込めるんだから、こっちのプギオかグラディウスぐらいのやつか、斧に使い心地が近そうなのはファルシオンとかかなぁ。」


 父がよく分からない名前を言っているが、要するに太くて短い両刃の短剣ショートソードか、太くて丸い刃を持つ片刃の短剣ショートソードだ。


「ならファルシオンがいい、プギオは短くて邪魔にはならないから良さそうだけど、刺すよりは斬る方が慣れてると思う。」


「ならこれしか無いな値段は金貨2枚か。高いんだが安く感じるな、来る店の順番を間違えたか?」


「ドレスにいくら掛かるか分からなかったんだから仕方ないよ。値段はどうなんだろう?剣の質は悪く無さそうだけど。」


 きちんと鍛造たんぞうで作られた刀身に、柄に巻かれた皮の握り心地も悪くない。重心は剣先に寄っているけれど、斧もそうななので問題もなさそうだ。


「お決まりになられましたか?そちらの商品は辺境伯様御用達ごようたしの工房が作った品ですので品質も保証いたしますよ。

 身を飾るのはもちろん、実用も問題無いと自信を持ってお勧めさせて頂きます。」


 ニコニコした顔で商人が売り込みにやって来る。

 持ってみた感触も悪くないし、御用達ごようたしなら大丈夫だろう。下手な物を売って紋章を外されたら悪い噂が一気に広まって潰れる事になるからね。

 貴族の紋章をかかげて、普通は下手な事をしないはずだ。貴族と一緒に悪い事をしている場合もあるけど、あの辺境伯様なら大丈夫だろう。きっと。

 父もさっきより値下げ交渉にやる気が見える、目利きに自信があるのだろうか。

 結果的に銀貨5枚を負けてもらい、金貨1枚と銀貨45枚で買う事になった。

 今日だけで金貨6枚以上が溶けている、平民ならば5年から10年は楽に暮らせる額だ。本当に恐ろしい。


 真っ赤に塗られた鞘に金属の細工が施され、つば柄頭つかがしらに施された彫刻が目を楽しませてくれる。早速腰に付けてみたけど中々似合っているのではないだろうか。

 洋服や装飾品を買った帰りにため息をつき、剣を買って上機嫌になるのはどうなのかと自分でも思うけれど、慣れない事は疲れるのだ仕方無いだろう。

 私の用事は終わったので後はお土産を買って帰るとしよう、父も家族に布や食べ物何かを買って帰るらしいので私もリボンなんかの髪飾りをいくつか買って帰る。

 そうそう父の代わりにベガルーニ様の護衛をしてくれている、祖父の分も忘れずに買っていかないと。

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