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 辺境伯領の領都であるエノマーヌの街は、分厚い石の外壁を持った重々しい見た目で。今回の戦争で砦を奪われていれば、次の戦場になる事を想定している防衛拠点だ。

 そのため中に入って建物を見なければ、一見いっけん軍の施設にしか見えない。

 中央にも内壁のある砦があり、そこが辺境伯様の城として使われている。

 内壁の周りに商人達の店が建ち並び、その外側に民家が、さらに外側に工房が配置された造りになっているそうだ。

 宿を取った後に私が向かうのは内壁のすぐ近くにある中古服飾店だ、平民の服も取り扱っているが、どちらかと言うと貴族や商人用の物が多いらしい。

 宿で兜を脱ぎ、斧は置いてきたが鎧は着たまま街を歩く。

 着替えが無いのだ。正確には貴族に相応しい服がない。もっと言えば貴族用の服を売っている店に入れる服がない!私が持っているのは田舎の騎士見習いの子供が着る服だけなのだ!

 と言うことで土産に服を買う父と、一緒に見た目の金額だけは高い鎧のまま店を訪れて私が着れそうなドレスと騎士服、それから商人の娘服を見せてもらう。


「平民服に関しては元々長めに布を取り、調整出来るように作りますから大丈夫でございますが、お客様の体格に合うドレスとなるとかなり数が少なくなります。」


 そう言って商人が持ってきたのは、長さはいいけどかなり細いシンプルな緑のドレス、太さはいいがかなり短い黄色の子供っぽいドレス、最後に私は無理だが妹なら2人は入れるんじゃ無いかというウエスト周りをした、フリルだらけでド派手な濃いピンクのドレスだ。

 まず細いドレスは無理だ、布を足すために似た色の布を探さないといけないし、シンプルすぎる。これは社交界用ではなく、身内のパーティや晩餐ばんさんなどで着る用途の物だろう。

 次のはウエストは入りそうだし、スカートは布を足せば良いだろうが。筋肉で盛り上がっている私の腕は入らないし、腰から首回りまでの長さが足りない。これでは上半身部分は丸々作り直しだろう、なぜ持って来た?

 最後のはウエストは広いが胸囲はそこまででは無い、どちらも詰めることは可能だし、フリルがなんか誤魔化してくれそうな気がする。

 スカートもフリルで延長した分を誤魔化ごまかせばいいし、騎士爵の妻には派手すぎるかも知れないけど当主だし大丈夫なはず!


「他にもドレスはあるにはあるのですがこちらの緑のドレスの様な物がほとんどで、後は子供用ばかりなのです。

 社交界で着られます様なドレスは王都で借りるか、先に作ってから持って行くのが主流で余り需要が無いのです。

 こちらの豊満な御婦人用の物でしたらまだ何着かあるのですが、こちらが一番細い物になります。」


「このフリルのドレスはおいくらでしょうか?」


 もう諦めてこれを買うしか無い、私に似合うかは別にしてデザイン自体はっているし見た目は悪くないと思う。太いけど。


「こちらメインは綿ですが、フリルには絹が使われておりまして。さらに刺繍はありませんが小さいながらも宝石や銀細工も使われておりますので、金貨5枚となっております。」


 私は頭を抱えて、父は開いた口が塞がらない様子だ。それもそのはず従士の戦争へ参加した報酬が金貨1枚なのだ、父は従士長なのでもう少し多いかも知れないけど5枚は高すぎる。


「5枚は高すぎます、他の太いドレスで装飾品の付いていない物は無いのですか?もしくは装飾品を外していただくとか…」


「こちらの御婦人用ドレスはすべて同じ方から購入させていただいたものでして、どれも豪華な造りとなっております。

 それにドレスの価値を下げるなど、とんでも御座ございません!ですがそこまで仰られるのであれば金貨4枚、いえ3枚でお売りいたしましょう!

 戦争で勝利したという話は私共の下へも聞こえて来ております。ご活躍かつやくされた方とお近付きになれたと思えば、身を切る価値はございますでしょう。」


 顔色を見ればまだ下げる事は出来そうだが、父に交渉を代わって貰ってもこれ以上下げる事は出来なかった。

 相場は聞いたけどこのドレスに適用していいものか分からないし、諦めた私はドレスと騎士服を一着づつ、平民服数着を金貨3枚と銀貨15枚で購入する事にした。

 ここから更に丈を伸ばす布と糸も買わないといけないのだから本当に服は高い。

 自分で買い物なんて砦での買い食いと、村での物々交換ぐらいの私には少し難易度が高かったようだ。

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