第三章 帰郷~

043

「ベガルーニ様、相談に乗っていただけないでしょうか!」


 馬車列を走って追い越して、馬に乗ったベガルーニ様達の居る所まで辿り着くと大声で声を掛ける。


「ユミル、いきなり過ぎるぞ。いくらなんでもベガルーニ様に失礼だろう。」


 にがい顔をした父が私の無礼をたしなめる。


「いや、ユミルももう貴族だかまわんよ。共に戦った仲であるしな、それで一体急にどうしたのだ?」


 ベガルーニ様が取りなしてくれた事で父も引き下がり、私は感謝を伝えると質問を投げかける。


先程さきほど思いついたのですが、王都で報奨ほうしょういただいた後、社交界に出るとなればドレスが必要なのでは無いかと考えまして。これはオーキンドラフ様に泣きついても良いものなのでしょうか?

 伯爵領で買って直すにしても、王都で借りるにしても私の体格に合ったものが置いていない可能性があるのです。」


「女性の騎士もそれなりに居るから無い事は無いと思うが、其方そなた王の御前ごぜんにも鎧で出るつもりか?辺境伯領で買って、王都でも借りるのだ。オーキンドラフ殿に泣き付くにしても、会うにはそれなりの格好をする必要もあるだろう。

 まさか報奨ほうしょういただくまで、ずっと鎧姿でいるつもりだったのでは無いだろうな?戦時ならばともかく他貴族の領地を通れば挨拶もせねばならんのだぞ。」


 早口でまくし立てる様に甘い考えに釘を刺される。まさに王都でも鎧のままで過ごす気満々まんまんで、何ならその格好でドレスを借りに行くつもりだった。


「で、ですが頂いた一時金では全てまかなうのは無理でございます。準男爵でも見劣りしないドレスなどいくら掛かる事か分かりません!」


「ああ、そうであった準男爵に内定していたな。金を借りようにも年金を受け取るにも紋章を先に王都で登録せねばならんし、面倒な…」


 どうやら王都に行けばお金を都合する方法はいくつかあるらしい。頭を抱えたベガルーニ様がしばらく悩む様子を見せた後で解決策を教えてくれた。


「私とてゲルタークとノルニーナと妻の服を新調しなければならんので金など無い。

 取り敢えず、お前が用意しなくてはいけないのは王都までの旅路で着る、金持ちの商人の娘が着るような服と、報奨授与式ほうしょうじゅよしきで着る騎士爵用のドレス、社交界で着る準男爵に相応しいドレス、婚約者としてオーキンドラフ殿の隣に立っても見劣りしないドレスだな。

 最後のはオーキンドラフ殿から送られる可能性もあるから、早めに相談に行くのが良いだろう。まずは辺境伯領で服とドレスを買え、似合わなくても派手なら流行から外れていてもかまわんので安い物を探せ。

 それからその斧を持ち込むことが出来ない時用の武器だな、ショートソードで良いから見栄えのする物を用意しろ。」


 私とて女である以上、ドレスに少しは夢があったのだけど世知辛せちがらい。背に腹は代えられないとは言うけどがっかりだよ。

 倒した貴族から奪った金貨や銀貨が多少あるので、それでなんとかするしか無いだろう。父や祖父だって家族に土産を買っていかないといけないし、そもそも貴族に支払われる報奨ほうしょうと、従士とはいえ平民に支払われる報奨ほうしょうでは額が違う。

 貴族が受け取った報奨ほうしょうを配下の兵士達に配るのだ。なんなら兵士を連れて来ていない分減らされているとしても、私は配布したベガルーニ様より貰っているかも知れないのだ。

 こんな事なら最後の太った貴族の、服も鎧も全部引っがして来るべきであった。あれがあれば買い叩かれたとしても金貨数枚にはなっただろうに…


 私から見れば大都会である辺境伯領とはいえ、中古のドレスを扱っているのは1件しか無いらしい。当然在庫数も限られる。

 それもそうだろう、売るような連中は王都に行けるし王都で売った方が高く売れるのだ、売るほど金に困っているのならそちらに行く。さらに田舎者は金が無いから手直しして長く着るのだ、売る事など殆ど無い。

 せめてサイズがなんとかなる物がある事を神に祈ることにしよう。キレイの魔法の神では管轄外かんかつがいかも知れないけど。

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