018.5 閑話父の試作品の剣

 ユミルに頼まれて鍛冶屋へ木版を届けることになった。

 鎧を作るために必要な測定をしたらしいが思えばユミルも大きくなったものだ、最近では母親のソニアの身長を超えるほど大きくなっている。

 静かで大人しい頭のいい子だと思っていたら、突然ゲルターク様と意気投合いきとうごうして剣術ごっこを始めたりと、時々突拍子とっぴょうしもない事を始める子だった。

 そういえば、あのキレイになる魔法を使ったのも突然だったな。俺が今まで使っていた水魔法の洗浄とは違い、突然キレイになるから驚いたもんだ。

 あの時俺の顔をキレイにした理由をユミルに聞きたいが、流石に小さい頃過ぎて覚えていないだろうな…ハァ。


「ゴードンいるかー?ユミルに頼まれて木版を持ってきたんだが。」


 たどり着いた鍛冶屋に入るが返事は帰って来ない、いつものことだが不用心過ぎるだろ。弟子でも取ればいいのにかたくなに魔力持ち以外の弟子はいらないと断るからなぁあいつ。

 せめて店番をする女でもと紹介するがそれもいらないという。食いっぱぐれない職だし結構人気があるんだけどな。

 思えばあいつも変なやつだ、領地の予算に余裕ができたからとベガルーニ様が鍛冶師を村に招致しょうちしたのが出会いだった。

 丁度、独り立ちするか親方の娘を貰って店を次ぐかを悩んでいたらしい。他にも似たような腕の弟子がいたし、親方も娘も魔力を持っていなかったので、魔力を使って新しいことがしたいと応募したらしい。

 戦力に困窮こんきゅうする騎士領にとって、魔力持ちなんて何人いてもいいとベガルーニ様は即決で決めて支度金したくきんを渡していた。

 まさかその支度金で魔道具の教本と魔石を買ってくるとは思わなかったが…

 炉は自分で作ると言ったので職人を雇う費用を他に回せば、何故か完成したはずの炉を爆発させて修理費をせびって来る始末しまつ

 壊れたままでも道具の修理は出来たからまだ良かったが、あの時のベガルーニ様の顔は忘れられない。

 いっその事ゾーラを嫁にやって自分の子供を弟子にさせるか?とも思ったが流石に歳が離れすぎているか。正確な歳は知らないが20は離れているだろう。


 奥の工房へと入って中を見ると新しい剣の柄に皮を巻いていた。だがうちの兵の量産品の見た目とは違う。さらに安っぽくした感じだ。


「珍しいな量産品じゃない剣を作ってるなんて、誰の依頼品だ?」


「依頼品ではなく試作品だ、ユミルが持ってきたチタンを量が少ないから刃の部分にだけ使ってみた。」


「試作品ってそんなもん作って誰が使うんだよ?」


「お前だダニエル。長さは今使っている長剣とほとんど同じにしたから多分使えるだろ。」


「いやいや、そんな危なっかしい物で魔物と戦えってのか?勘弁してくれ。」


「剣と鎧の違いはあるが娘の鎧に使う素材だぞ、調べておかなくていいのか?それに試し切りはこれからだ、それを見てから判断してもいいだろう。」


 そう言って俺に剣を渡し、外へ出て試し切り用の案山子かかしに水を掛ける。


「さあ思いっきり切ってくれ、曲がったり折れなければ成功だ。」


 木の棒にわらを巻き付けた案山子かかしの前に立った俺は、剣を構えて真横に案山子かかしを斬り飛ばす。


「もう2、3回斬ってくれるか。」


 指示通り合計4回斬りつけるが、感触は悪くない。


「よく斬れるいい剣だと思うが斬れ過ぎる剣は欠けやすいだろ、どうなんだ?」


 試し切りした剣をゴードンに手渡して確認してもらう。


「今のところ欠けは無いな、歪みも無い普通の剣と変わらないように見える。」


「ならいい剣だな普通の剣で木なんて何度も斬ったら1箇所くらい欠けるだろ?」


「そうだな、だがやはり実戦で使ってみて欲しい。革袋だが鞘も作っておいたからそのまま持っていけ。」


 そういって所々に染みのある革袋を渡してきた、キレイの魔法を使ったら多少はマシになったが、全体的にみすぼらしいのは変わらない。間に合せとはいえもう少し見た目には気を使って欲しいものだ、これではまるで山賊の様ではないか。

 試し切りということだしウインドウルフでは物足りない、丁度良くブラウンベアでも現れてくれればいいんだが。



 後日、見事にブラウンベアを倒し、骨まで斬ったが刃が欠けることはなかった。ゴードンに持っていけば多少の歪みは出ていたそうだが、直して見た目もきちんとした物に変えてから試し切りの駄賃として貰えることになった。

 何でも剣に使った鉄はユミルが鍛えたらしく、その事を家族に自慢する時に言ったら危うく親父に剣を奪われそうになった。ゴードンにユミルが打った鉄で、ナイフでも作ってくれるように頼むことになってしまったが、せっかく貰った業物の剣を奪われてたまるかこれは俺の剣だ。

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