018

 そろそろ砂鉄が溜まってきたので納品しに行こうと思う。ある程度集まったら鍛冶屋に持って行っていたので正確な重量は分からないけれど、麻袋の数的に鎧作りに十分な量が集まったと思う。

 置いてあった麻袋を影の部屋に仕舞い、便利さに少し感動しながら鍛冶屋へ向かう。

 砂鉄の集め方は結局、力技になった。父に聞いたらこの辺は川もなければ山もなく、お屋敷が立っている場所が一番高い丘の上だったなんて思わなかった。

 建国から200年以上経っても入植していなかった場所なんてそんなもんだ。と父は言っていたが、魔法無しで井戸だけの生活だったらと思うとゾッとする。

 そんな理由で魔法を強化し、数十cmくらいなら土を掘り返さなくても砂鉄が取れるほどの、指向性の超強力な磁力魔法を作り出し。ひたすら村の周辺を歩き回って集めたのがこの大量の砂鉄である。ちょっと土が柔らかくなってしまったが許して欲しい。


「ゴードンさんいますかー?」


 もう何度も訪れて、勝手知ったる他人の家ということで奥へと入っていく。まぁ玄関が開きっぱなしになっているので中に居るのだろう、魔道具を使っていると返事が届かないから勝手に入って来いと以前に言われている。

 作業場に入るとやはり何かを作っていた様で、ガンガンと大きな金槌の音が聞こえだした。


「ゴードンさん追加の砂鉄持ってきました。」


「おう、そこに置いておいてくれ。暇なら相槌あいづち手伝え。」


 夕食までは時間があるし、面白そうなので手伝ってみよう。壁に立てかけられてる大きなハンマーを持ち、金床かなどこの近くに立つ。


「手伝うのはいいですけど何作るんです?」


「作るのは剣だが手伝ってもらうのは折り返しだ、成形せいけいをそんなデカブツでやることは無い。

 炭をかけて折り返し、炭をかけて折り返しと何度もやると丈夫になるんだよ。」


「へぇーどこ叩けばいいですか?」


「俺が2回叩いて金槌を引いたら、同じ所を一回叩けばいい。」


「分かりました!」


 私はいつもの様にハンマーを半身で構え、振り上げた状態で待機する。今か今かと待っていると、折り曲げた鉄の真ん中をカンカンと2回叩いて「打て!」と言われた。


「せい!」


 勢いよく振り下ろしたハンマーが赤く焼けた鉄にぶつかり、大きな音と共に大量の火花が辺りに飛び散った。


「馬鹿野郎強すぎだ!その半分でいい!」


 怒られてしまった。身体強化を弱めて次も打つが「まだ強いぞ馬鹿力が!」とまた怒られる。

 何度か調整し直して打っていくと、段々リズムが合ってきてカンカンガン、カンカンガンと速度が加速していく。

 その後も何度も折り返していくと「ここまででいい。」と言われて手を止める。少し楽しくなって来たのにもう終わりらしい。

 少し整えた後金槌を置き、立ち上がるとゴードンさんは影からコップを取り出し、水を入れて飲み始める。


「鎧を作る分にはもう足りているはずだ。お前のおかげで鉄が安く手に入って、村の農具をほぼ鉄製に作り変える事が出来た。ありがとうな。」


 そう言って炭だらけの革手袋のまま頭をでた後に、コップを差し出して「いるか?」と聞いてくる。私が断ると適当に机において、棚から木版を何枚か出してきた。


「ここに書いてある数値を全部測って来てくれ。ベルトや詰め物である程度はなんとか出来るように作るつもりだが、成人前にもう一度測らないといけないかも知れん。」


 受け取った木版には人形と手や足が書かれていて、ざっと見ただけでも手だけで数十か所は場所が書かれていて頬が引きる。


「こんなに細かく必要なんですね…」


「ドレス一式作る時も同じ様なものだ。貴族令嬢じゃなくてよかったな、あちらは数年ごとに何度も測らないといけないぞ。」


「分かりました、出来るだけ早く持ってきますね。」


「頼む、早く仕事に取り掛かれるほうが安心できるからな。」


 受け取った木版を抱えて走って家に帰る。ついに自分の鎧が作ってもらえるんだ。

 借りている革鎧はサイズの問題もあって2代目だし、返り血をよく浴びるので何度も魔法でキレイにして汚れは無くなってしまっているとはいえ、完全に自分専用の物でさらに新品で値段は家が建つ超高級品だ!これでテンションが上がらない理由が無い!

 はたから見てスキップをして鼻歌を歌っている私はとても微笑ましく見られていることだろう。理由は全く想像がつかないだろうけどね。

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