019

 突然だけど姉のコーリアが婚約した。相手は初めての狩りの時に指揮をしていたタムルで、姉は14才、タムルは18歳の4歳差のカップルだ。

 昔は姉にカエルやイモムシを投げてきていたのにもう気にしていないのか、姉も満更では無い様子。

 思えばタムルが10歳を過ぎた頃から祖父に直々にしごかれだし、すっかり礼儀正しくなって魔力持ちとはいえ部隊指揮の練習までさせられていたのは、実はもっと前から決まっていたからなのかも知れない。

 姉との二人部屋からは追い出され、私はホリーと一緒の部屋になり。子供部屋は片付けられてミーニャとゾーラの部屋となった。

 少しの寂しさを感じながらも、私の結婚相手はもう見繕みつくろってあるのだろうかと疑問に思う。

 他人の色恋には全く興味が無かったし、結婚話など収穫祭で数組が一緒に式を上げているのを見ていたくらいにしか記憶に無い。

 魔力持ちを多く生むことを考えたら魔力持ちと結婚するのが1番だけど、平民の魔力持ちで残っているのは2つ以上年下の子しか残っていない。まさか領地外に出されることは無いと思うけど一体どうなることやら。


 姉の結婚式がある収穫祭の少し前に、ベガルーニ様のお父上であるビルザーク様が村に帰って来た。

 早くに奥様を亡くされ、普段は一人で王都に住んで王族に槍の指南をしている、槍の名手だと聞いていたのだが何かあったのだろうか?

 今までも社交界の時期に2ヶ月ほどゲルターク様とタムルが連れて行かれ、帰って来ると一段強くなってくる事があったので、その訓練にはかなり興味がある。

 訓練の内容を聞いても、ひたすら転ばされるだけだと言って口をつぐんで話してくれないんだ。


 それからビルザーク様は、一月毎に村と他の領地を行ったり来たりする様になった。

 村に居る時は魔力持ちに訓練を付けてくれるのだが、その練習法は本当にゲルターク様の言った通りだった。


「ほれ自分の足元ばかり気にしてないで前へ進んで来い。」


「はい!」


 まだ間合いの外だったのに、近付くために右足を上げると左足が払われて転ぶ。

 ならばと前方に飛び込めば何故か腹に槍が刺さっている。

 転ばないように腰を落としてすり足で進めば、下から尻や太ももを叩かれて痛みに腰を浮かせたら足を払われる。

 攻撃も早いが移動がとにかく早い。いつの間にか間合いの中に入って来るので、対応が出来ずに転ばされてしまっている。

 ゲルターク様は2撃は防いでいるし足を払われても転ばずに着地しているので、何かしらコツがあるはずだ。

 見て盗めるものが無いかよく見ているが、いつもと変わらない様にしか見えない。まぁ少なくと私みたいにジャンプして飛び掛かったりはしていないけど。


「ユミル、お前さんは受けるのは得意なようだが、攻める時に反撃される事を考えておらん。

 例え1対1だとしても攻撃と防御が交互に行われるとは限らん、儂の様に後の先を狙う者に会えば簡単に倒されるぞ。」


 隙を見つけて攻撃しているつもりなのに、毎回腹や胸を打たれて倒される。

 私としては最速の攻撃を仕掛けているのに、振り下ろす前に攻撃を受けてしまっているのだ、誘われているにしても相手の攻撃が早すぎる。


 「一瞬の隙を突くのに、振り上げて振り降ろすのでは遅すぎる。

 振り上げずに押し付けてから斬るなり押して体勢を崩すなりすればよいのだ。押し付けるだけで切れるのが斧の利点だろう。」


 確かにウインドウルフ程度なら斧を構えて、体当たりするだけで皮を切り裂く事はできるが、人間の魔力持ちにその程度の威力で通用するのだろうか?


「転ばせてしまえば手足を潰すなり、止めを刺すなり此方こちらのものよ。最初から一撃で重傷を負わせようとするから隙だらけになるのだ。」


 確かにゲルターク様に負ける時も小技で体勢を崩されて負ける気がする。

 「お前の馬鹿力なら押し倒せぬ者などおらんだろう。」と言われたがその言い方では違う意味にも聞こえてしまうんじゃないだろうか。


「転ばせられない方法は無いのですか?」


「そもそもお前の体重が軽すぎる。重い靴でも履くしか無いのではないか?

 それ以上腰を落としても動きづらくなるだろうし、重量の配分など一朝一夕いっちょういっせきで身に付く物ではない。

 脚甲きゃっこう腿当ももあてを鉄で作るのが早そうだ、武器のせいで今は上半身が重すぎるからな。」


「なるほど、それなら何とかなります。」


 鎧を下から順番に作ってもらえばいいのだ、後でゴードンさんに頼んでおこう。

 その後も私達は順番にビルザーク様にいどんで行くが、最後まで転ばせるどころか当てることすら出来なかった。

 近付く程に早くなる攻撃に、先に此方こちらがバテて、付いていけなくなり追い払われる。ビルザーク様元気すぎるよ…

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