027

 戻る途中に祖父と出会ったので、報告をして一緒に戻る。


「おじいちゃん、高そうな御土産おみやげを頂いたので一度帰って立て直しましょう!」


「いや、わしはユミルを迎えに来たんじゃがな。何者だ其奴そやつ?」


 そう言って呆れた顔をされたが、私にも分からない。気絶させてからすっかり大人しくなって、痩せてはいるが筋肉質でもないし、武器は実用性の無さそうな装飾だらけの品物だ。


「誰なんでしょう?鎧を着た馬に乗っていたので、えらい人の息子だと思うんですが。」


「なんじゃそりゃ、一体どうしたらそんな物を拾うことになるんじゃ…」


 森の外に出ると未だに戦闘が続いているようで、喧騒けんそうが戻ってくる。うちの領地の周辺では戦闘は終わっていて、血を流したベガルーニ様や父が後始末の指示を出していた。


「お父さん怪我は大丈夫ですか?」


 父が頭から血を流しているので心配して声を掛ける。


「この大馬鹿者!一人で突出しすぎだ!深追いまでして何を考えている!」


 そう言って私の頭に拳骨げんこつを振り下ろしてきたが、生憎あいにくまだ兜を脱いでいない。痛そうに腕を抱えた父に回復魔法を飛ばして、人質をどうしたらいいか聞いてみる。


「それはベガルーニ様が決めることだ、装備をがして待っていろ、手枷てかせを貰ってきてやる。間違ってもしばらないで貴族様に近づくなよ、あばれたら暗殺の共犯だと思われるぞ。」


「え?分かった気をつける。」


 危なかった、父が怪我をしていなかったらそのまま持って行っていたかも知れない。一緒にいると思っていた祖父は一足先にベガルーニ様の下へ行っているみたいだし危なかった。

 剣帯をはずし隠し、暗器あんきが無いか見ていくが。結局分からないので鎧を脱がしていくことにした。


「ユミル、この様な真っ昼間から男の服を脱がしていくとは大胆だいたんだな。」


「ゲルターク様お待ちを、まだかせが付けられておりません。」


 笑いながら近づいてくるゲルターク様をタムルが止める。


「戦場で身体強化を忘れる様な男は趣味ではありませんね。装備を確認したいならこいつを持って離れますが?」


「頼む、剣の紋章を確認したいのだ。」


 私は若者を引きずって離し、一応関節を決めて見守る。


「マントを見た時にまさか、とは思ったがこれは大手柄おおてがらかも知れないぞ、ユミル。」


「どうであったゲルターク。」


 ゲルターク様の確認が終わり、弾んだ声で声をかけてくるのと同時、祖父と父を連れてベガルーニ様がやって来た。


「はい、当たりだと思います。影武者でもなければこの紋章は使えません。」


 ゲルターク様はそう言って剣のつかをベガルーニ様の方へと差し出した。


「確かに当たりだな。革袋の中も探してみよ指輪があれば確定だ。ゲルタークとギーヴはここの指揮を任せる。ダニエルとユミル、他5名はその男と鎧を持って着いてこい。間違っても落とすなよ。」


 剣帯に着いていた革袋の中に紋章の彫られた指輪が見つかって、本陣へ連れて行く事になり、私は再び男を担いだ。

 本陣に建てられた巨大なテント到着して、面会希望を中へと伝えてもらう。

 少しして中に入る許可が降り、従者は2名までとの指示が入った。


「ダニエル、剣と剣帯を受け取れ。ユミルはそのまま担いで付いて来い。」


「はい!」


 中に入れば大きな地図の周りに騎士達が集まり、タバコの煙が充満する中、かすかに酒の匂いがただよっている気がする。


「ユミル、そこでいい。下ろして顔が見えるように支えろ。」


 命令された私は男を膝立ちにして、髪を掴んで正面を向かせる。男はまだ寝ている、ずいぶんと神経が図太い奴だ。


「それで捕虜を取ったと聞いたがその男は誰だ?」


「おそらく敵国の王族につらなる者だと思われます。剣のつかと指輪に王族の紋章がられており、服にも刺繍ししゅうされていることを確認しました。」


「なに!?おい抑えている騎士。その男の顔を綺麗にしてやれ。この場で魔法を使うことを許可する。」


 突然声をかけられた私は返事もせず、魔法を使って男をキレイにする。


「確かに第二王子の覚書おぼえがきに似ている気がするな。剣と指輪を見せてみよ。」


 父が持っている物を近くの騎士に渡し、おそらく辺境伯様だと思われるこの場で一番偉そうな人に届けてもらう。

 ちらりと見ただけですぐに横の者に渡して、とても良い笑顔になって笑い始める。


「まだ影武者の確認は必要だが、証拠がそろいすぎているしほぼ確定だろう。それでこの大手柄おおてがらを立てたのはお前自身か?ベガルーニ。」


「いえ、この紫の鎧を着た者にございます。我が領の兵士なのですが森に潜んでいた王子の陣地を単身で強襲きょうしゅうさらって来ました。」


「確かに奇襲があったな。あの襲撃しゅうげき態々わざわざ出向いていたのか?手柄を狙い過ぎだな。

 紫の騎士よ顔を見せて名を名乗れ、覚えておいてやろう。」


 紫?と疑問を覚えたが捕まえたのは私だし、父の鎧は銀色だ、私の事で間違っていないだろう。


「はい、ユミルと申します。」


 掴んでいた男を寝かせ、ベルトを外して兜を脱ぎ。前を向いて名前を名乗る。視界に入った兜や手甲は、確かに黄色から紫色のまだらになっていた。


「なんと女であったか、その様な重装備をする女など初めて見たわ。本物であれば騎士爵を受けるのは間違いないであろう、期待しておけ。」


「いえ、この者はすでに奇襲部隊にいた多数の騎士と伯爵を切り捨てておりますから、騎士爵は確定かと。」


 辺境伯の発言をベガルーニ様が訂正する。爵位のやり取りを勝手に決めていいのかと私は慌てるが、ベガルーニ様は自信満々だ。


「ほう?ならば私の裁量さいりょうで先に騎士爵をくれてやろう。そうすれば確定した時には準男爵だ。追い越されてしまうなベガルーニ。

 いや、奇襲を察知し撃退したのだからお前も準男爵となって同格か?」


 そう言って二人は笑っているけど私はガクブルだ、騎士ならばどこかの上位貴族のもとで下っ端として働けるが、準男爵となり下手に領地など貰っても運営なんて出来っこない。王都で文官などもっと無理だ。


「報告は以上だな?その男は砦の牢に入れておこう。まだ前線で戦っている者達もいるからな。お前達は一度自陣へ戻れ、今日の戦いが終わったら報告会にそのユミルも連れて来い。」


「はっ、この者が着ていた鎧は外の兵に預けておきます。」


「うむ、一緒に運ばせておこう。」


 失礼いたします、と言ったベガルーニ様に習って頭を下げてからテントを出ると、脱いでいた兜を被り直す。

 テントから離れたら兜越しに父に頭をでられ、何が気に入らなかったのかグリグリと頭を回された後に笑われた。

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