023

 今日は村の収穫祭しゅうかくさいだ、町の真ん中で火を焚いて、肉を焼きながら酒を飲んで踊る狂気の宴で、ついでに結婚式もある。

 魔法の先生でもある水晶玉の老人が、婚姻こんいんを希望している者達を紹介し、領主であるベガルーニ様が、婚姻こんいんに許可を出て晴れて2人が結ばれる。今回も3組の夫婦がめでたく誕生したらしい。

 子供達は丸焼きにされてるボアや鹿の周りに集まり、大人達は相手を見つけてはおどりに誘っている。中には2人で抜け出す不貞ふていやからもいるけど、大体はそのまま結婚するので問題は少ない。

 子供達が腹一杯になって眠くなれば、大人の時間が始まるらしい。私はいつもここで帰るので内容は知らないが、今日は何故なぜかそろそろ危機感ききかんを持ったほうがいい、と近所の女の子に言われた。

 確かに婚約者はいないし、年下の魔力持ちの子はさらに下の魔力持ちの子と仲が良い。探せと言われても良さそうな相手もいないし、今はそんな事より戦争だ。面倒な事は父に任せておけば何とかなるだろう!


 そんな日常を壊す様にある日の午後、早馬がやって来たことで皆の顔に影が差す。

 早馬の兵士と共に屋敷へ入っていったビルザーク様と祖父が訓練場に戻って来ると、やはり出兵要請しゅっぺいようせいがあったようだ。


「今日の訓練は終了とし、明後日の朝出立する。連れて行く人員は明日の朝発表し、明日は食料などの積み込みを行うものとする。

 未成年者の希望者はこの後伝えに来るように、志願しがんしても若すぎる者は連れて行かんからそのつもりでな。」


「はい!志願いたします!」


 そう言って勢いよく手を上げ、戦争への同行を希望する。


「ユミルは連れて行くから安心せよ。あんな鎧、戦争以外のどこで使うつもりだ。」


「ありがとうございます!」


 志願しがんを無事に受け入れて貰えたことに安堵あんどする。もしかしたら父に反対されるかもと思っていたが、前領主様のお言葉ならくつがえす事は出来ないだろう。

 解散となり暗い顔をする者、手柄を立てると気負う者、様々な人達がいるが志願者はいない様だ。まぁ私の様な理不尽りふじんが鎧を着て襲って来たら、簡単に死ぬのが一般兵だ。態々わざわざ死にに行く者はいないだろう。

 もしかしたら走って帰った者の中には、親に許可を取りに行った者もいるかも知れないが。許す親など普通はいないだろうし、許可が必要な者など連れて行く事は無いだろう。

 特に会話もなく祖父と共に家に帰り、母に報告する。


「そう…覚悟はしていたけど、お父さん達とはぐれない様にくれぐれも気をつけるのよ。はぐれたら見つけるのが大変なんだからね。」


 まるで初めてのお使いに行く子供の様な心配をされ、複雑ふくざつ心境しんきょうになるが。優しく抱きしめられ、茶化ちゃかす場面でも無いので必ず帰って来ると真面目に返す。

 祖父から必要な物を聞いて、着替えと金、保存食。そして水袋も必ず持って行けと教えられた。

 基本、食料は騎士爵様が出してくれるが、はぐれたり魔力が無くなる様な事態の時に、役に立つかも知れないからだそうだ。

 後は自分の名前と出身を書いた板を入れておけば、遺品だけでも帰って来る可能性があるらしい。

 姉妹達に抱きついてお別れを言い、今日だけはゾーラも素直に抱かせてくれた事が嬉しかったが、鎧を脱いでからしたら良かったと後悔こうかいした。あと、明日もこの家で寝ることを忘れていた。その場のノリに流されて先走りすぎたかも知れない…

 夜遅くに帰って来た父にも知らせると、仕方無いとため息をつかれ、頭を撫でられた。背中を任せると言われてしまったので、突出しないように気をつけなければいけないね。




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リトルスカベンジャースライム


 スカベンジャースライムは魔力を含む魔物の死体などを食べて進化したスライムの進化個体である。

 食事後に肥料となる土や液体を残すことから、農村等で古くから大地母神だいちぼしん様の眷属けんぞくとしてしたわれていたが、近年は街などで下水道が整備され、地下で大繁殖だいはんしょくすることがあり、街では討伐対象となっている。


 自然下では進化個体ゆえに子供の個体が存在せず、魔力による命令によって、成長に悪影響あくえいきょうを受けたのではないかと推測すいそくされる。

 リトルとはいえ進化個体のため、リトルスライムよりは一回り大きく、酸はより強力になっているため油断は出来ない。

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