022

 かぶとを脱いで知り合いの兵士達にあやまって、武器を下ろしてもらった後。大いに鎧を自慢してたら、力自慢ちからじまんの兵士が鎧ごと私を持ち上げようとして腰を痛めた。

 そりゃ無理だろう。今の私は武器を合わせて80kgを超えるはずだ、変な持ち方をしたら腰も悲鳴を上げるだろう。

 予定より軽いからと装甲を厚くされ、重心を下げるために足元をさらに盛った結果鉄で作った時と変わらない重さになってしまったのだ。


 家に帰り夕食後に雑談をしていると、貞操帯ていそうたいの鍵は母が管理することになった。つまり村に帰って来るまでこわさなければ外せないという事だ。


「そういや、貞操帯ていそうたいの笑い話が一つあったな。」


 そう父が言い出したので詳しく聞いてみる。


「いやな、昔。貞操帯ていそうたいを付ける女性の間で、腹の中でスライムを飼う事が流行はやったんだそうだ。

 魔力で支配した子供のスライムを、小さく切ってコアをケツに入れるんだが、何を思ったのかそいつは大人のスライムを入れたらしい。

 しばらくそのまま腹の中で飼っていたら、なんとビッグスライムに進化して大変な事になったらしいぞ。」


 父は笑いながら酒を飲んでいるが何とも下品げひんな話だ、現に母が顔をしかめている。

 まぁそれでトイレに行かずにすむのなら試す者もいるだろう、下着を付けたままの排泄はいせつなど、赤ん坊の頃以来だが感触なんて思い出したくは無い。


 翌日、昼食の後に一人で鎧を着るが意外と時間がかかる、貴族ならば従者が手伝ってくれるのだけど、生憎あいにく私は平民だ。

 それでも訓練に遅れないように急いで着て、ガシャガシャと音を立てながら訓練場へと走る。もちろん兜は影の部屋の中だ。

 訓練場に着くと兵士達に指を刺されて笑われたが仕方が無い、知り合いに誰何すいかするなど私でも笑うだろう。

 訓練が始まったら前に言われた通り、すべての攻撃を無視して戦鎚せんついを押し付けて相手を倒す。笑われた腹いせをする様に無双していたら、対策を練習するから走っていろと言われてしまった。

 どのくらい魔力が持つのか調べるためだと言われ、納得して走り続ける。


 かなりの時間走り続け、それでも魔力の消費が思ったよりは少ないことが確認できた。呼ばれて中央に向かえば、30人ほどの兵士が陣形じんけいを組んで待っていた。


「今から小奴等こやつらと戦ってもらう、先ほどと同じ様に戦ってみせよ。怪我はさせぬようにな。」


「はい!」


 30人の中に魔力持ちがいない事を不思議に思いつつも、開始の号令に合わせて走り出す。

 1人2人と転ばして、トドメを刺すわけには行かないので、そのまま次の獲物に向かう。

 バシバシと全身を叩かれるが、この程度では私に痛みはまったく無い。そのまま10人を超す人数を倒していくと、突然、私の視界は真っ暗になった。


 水をかけられ飛び起きると、祖父が私を見下ろしていた。


「どうだ身体に不調はあるか?」


「一体何がありました?」


 祖父に声をかけられ、気絶したことは覚えているが、何故気絶したのかは覚えていない。


「ユミルよ、お前は本当に素直だの。すべての攻撃を無視せよとは言ったが、本当にすべて無視するのはお前だけだろう。」


 あきれた顔をしたビルザーク様にため息をつかれる。


「ユミルお前はな、何度も頭に攻撃を受け、脳をらされて気絶したのだ。」


 そう祖父に言われて気がついた、確かに頭を殴られた時は痛みはないが衝撃で頭は動く。


「次は首をきたえねばいかんな、まぁ頭部への攻撃など普通はけるものだが。」


 とは言われても、首を鍛える方法など知らないんだけどどうしたらいいんだろう。湧き出す知識も今回はお手上げの様で沈黙ちんもくしている。

 その日から、訓練で転ばせられる事の他に、気絶させられる事が増えた。あと30人に酒を1杯づつおごらされた。訓練で魔力持ちが一般兵に負けたら酒をおごる騎士の仕来しきたりがあるんだそうだ。

 砂鉄を売ってかせいでる事を知っている彼奴等あいつらは全く容赦ようしゃがない、酒場に行くとこぼれるギリギリまで酒をいでもらい、こぼさないように口を付けながら礼を言って、空いている席へ向かって行く。


 私は騎士じゃないのになんでだ!




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リトルスライム~スライム


 ビッグスライムなどの他、多くの種類に進化する事が確認されており、人間に有益ゆうえきな種も多いため、人間と共存している魔物の一種。

 見た目は半透明で丸く、弾力がありそうに見えるがヌルヌルとした液体で出来ており、核を破壊されるか、核のみになると死亡する。

 体内に取り込んだ物を酸で溶かし、吸収して生きており。その副産物が人間に有益ゆうえきで有る場合がある。


 魔力を持っていれば簡単に手懐ける事が可能で、掃除夫として飼われることが多い。魔力を込めた命令には従順で、命じてさえいれば安全なため。人の手の届かない場所や、行きたくない場所の掃除には重宝する。

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