第2章 戦争~

021

 14歳になった頃、何やら隣国りんごくがきな臭くなってきたらしい。

 王位継承争おういけいしょうあらそいが激しくなり、此方こちらにも影響えいきょうがあるかも知れないそうだ。

 前回の継承争けいしょうあらそいも激化げきかしたげ句、此方こちらの国に攻め込んで来て、活躍かつやくした王子が王の座についたらしく、今回もあり得るだろうというのが王都の見解けんかいらしい。

 その争いでビルザーク様が騎士爵と領地を頂き。祖父もその隣で活躍したため従士長となり、私は辺境の平民としては割と良い生活をさせて貰っている訳だ。

 そしてその国との国境線の近くにあるのが、私の住む村と寄親よりおやの辺境伯様の領地だ。

 最初の衝突で負けなければ戦場になる事は無さそうな位置だけど、辺境伯様が出陣するなら兵を出さないと行けない。

 普通なら成人した兵士と、訓練を受けた村人を連れて行くのだけど、私は鎧さえあれば怪我けがもしない様なので、完成したら付いて行くつもりでいる。

 どうせ父や祖父、いつも一緒に訓練している兵士達と、ついでにタムルは行く事になるのだ。ウルフの群れ討伐の時の様に人数は多い方が良いに決まっている。

 人を殺した事どころか、重症じゅうしょうを負わせた事すらないけれど、都合良つごうよく経験させてくれる相手が居る訳も無い。何せ盗賊のとの字すら聞かないド辺境である。

 社交シーズンに王都へ行くゲルターク様達について行けても、貴族を襲うバカなど早々そうそう現れないので、覚悟してぶっつけ本番で行くしか無いだろう。


 1体1よりも複数対複数の陣形の練習、騎乗の相手との戦い方など、訓練の内容が変更され、どんどん戦争が現実味をびて来て、兵士達の間でピリピリとした空気が高まっていく。

 麦の種植えの時期が過ぎ、夏野菜の収穫が終わり。戦争のタイミングが来るたびに、肩透かしを食らった兵達はれていたが、おかげで私の鎧が完成した!


「これで足以外の残り全部だ。革細工師からも剣帯とマントも届いたし、これで完成だな。」


「ありがとうございます!」


 胴鎧は他のパーツと調整が必要ということで、結局今まで足だけ金属鎧姿でやって来て、ようやくこの変な格好がやめられる。

 順番にパーツを付けていくと、ベルトでめるために圧迫感あっぱくかんはあるが、同時に安心もする。

 全て着終わってから動きを確認して、素振りをしてみるけど違和感は無い、完成するたびに調整はしていたけど完璧な仕事だ。


「そしてこれが貞操帯ていそうたいの鍵だ、予備も作ったが無くすなよ。面倒な事になるぞ。」


貞操帯ていそうたい?」


「詳しい話はお前の母に聞け。」


 そう言って鍵を渡されて、私の頭に久しぶりに知識が湧いてくる。女性の騎士が戦場に行く時にく鉄の下着らしい。浮気を防いだり、変態のプレイにも使うらしいが今はいいだろう。

 そういえば、腰のパーツに鍵穴があった気がする。本来はズボンの上ではなく直接付けるもので、場合によっては数ヶ月履きっぱなしになると知り、私は魔力を持っている事に感謝する。

 キレイの魔法をさずけて下さったのはまさしく神で、私は生涯しょうがいに渡って感謝かんしゃささげ続ける事を胸にちかった。


「これで戦争が始まっても付いて行けます、未成年で鎧も無しでは置いて行かれると思っていたんです。ありがとうございます。」


「戦争に参加させるために間に合わせた訳では無いがな。ユミルなら村に残って守ってても十分な戦力になるだろうに。」


「守る必要があるなら残るのもいいですけど、辺境伯領で止まるにせよ、王都まで攻め入るにせよ、こんな所にまで来ないでしょう?

 来るとしても父達が負けて何ヶ月も後ならば、初戦に参加したほうがまだ村が生き残る可能性があると思います。」


「そりゃそうだ!こんな田舎にまで手を出している間に、王都で兵の再編が終わるだろうな!」


 腹をかかえてゴードンさんが大笑いする。辺境伯領の隣ならまだしも、ここは男爵領と準男爵領をへだてた本物のド田舎だ。辺境伯領の領都まででも馬車で1週間はかかる。


「よく考えて決めたなら俺に言えることは無い。村のためにも国のためにも勝って帰って来い。」


「はい。」


 しんみりとした空気になりゴードンさんが仕事に戻ったので、もう一度お礼を言って工房を出る。

 英雄になどなるつもりはないが、祖父に背中を預けられるくらいの活躍はしてやろうと決意を新たに拳を握る。

 家に戻るまでに知り合いの兵士達に囲まれて、「何者だ!」と誰何すいかされたのは当然だろう。見た事の無い全身鎧の不審者ふしんしゃが、武器を持って村の真ん中を堂々どうどうと歩いていたのだから…

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