016

 門からお屋敷までエメラルドウルフの皮と頭部を広げて凱旋がいせんパレードをした。

 あまりの大きさに大人でも驚き、子供は泣くか大興奮で暴れていた。

 お屋敷に着くと魔力持ちの人が馬に乗って駆けて行った。肉を売りに行くんだそうだ、疲れているだろうに大変だな。

 家に帰って来ると、ウルフ肉を細かく切り刻んで周囲の家に配ってもらい、うちでもスープを作ってもらった。

 普通のウルフ肉もちゃんと持ち帰ったので、今日は肉だけで腹一杯になるまで食べられる。

 ただしエメラルドウルフのステーキだけは魔力持ちの特権だ。味は普通のウルフと同じなのに、一噛ひとかみ事に身体に魔力が満ちて行き高揚感こうようかんを感じる。

 無理矢理幸福感を感じさせられて、中毒が心配になるが確かにこれは一味違う。肉汁も脂の甘味も関係無い、噛んだだけで身体が喜び、興奮する。変な噂が飛び交うのも納得出来ると言うものだ。

 母達もいつもとは違う感覚に身を震わせた後、美味しい美味しいと勢い良く食べていたが、消化出来ないかもしれないのでスープのお替りは具無しだそうだ。


 食事が終わると父の武勇伝語ぶゆうでんがたりが始まった。父が話し終わると、次は私から見た祖父の格好良い姿を語っていく。


「私が後ろとの距離を気にしていると、お祖父ちゃんが魔力持ちの仕事は敵の陣形を崩し敵将をることだ!って言って倒しながらどんどん前に進んで行くの。

 30人くらいいる左翼部隊がおじいちゃん一人が倒すペースに付いて来れずに離されていくんだよ。凄かったんだから。」


 聞きオーディエンスが女性ばかりだからそこまで反応は良くないが楽しんではもらえたと思う。父の話を聞いても同じ様に部隊から突出とっしゅつして斬りまくってたらしいので、あんな戦い方で本当にいいようだ。

 祖母が「また無茶をして。」と呟いて、酒を飲んでいる祖父の顔が、珍しく赤くなっていた。


「ねぇ緑色のウルフすごく大きかったけど、ユミルもあんなのと戦ったの?」


「いや、あんなに大きいのはあいつだけだったから、ベガルーニ様しか戦っていないんじゃないかな?私の相手は精々せいぜい胸くらいの高さのやつだよ。」


 姉が心配そうに聞いてきたけど、エメラルドウルフがどれくらい強かったのか見ていないから分からないんだよね。魔力で強化した盾に傷をつけていたから戦っていたら怪我はしたかも知れないけれど、ウインドウルフの強さから考えるとそこまで強くないんじゃないか?とも思ってしまう。


「十分大きいわよ、怪我はしなかったの?」


「一回噛まれたけど怪我はしてないよ、痛くなかったし。ホリーみたいに腕にぶら下がってきたから、持ち上げて地面に叩きつけてやったんだ。」


「大丈夫よ、魔力持ちが魔力の無い魔物と戦って怪我する事なんてそうそう無いから安心しなさい。ユミルは魔力も多いらしいから大丈夫よ。」


 まだ心配している姉に母が安心させるように話をし、「ダニエルなんて全身血塗ちまみれで帰ってきたと思ったら、全部返り血だった事があったんだから。見た目が綺麗なら大丈夫だよ。」っと祖母が続ける。


「あの時は魔力が切れてたから仕方がなかったんだ。他の奴らも面白がって使ってくれなかったし…」


 「もうあんな無様ぶざまな戦い方はしない。」と父が言う。そういえばあれだけ暴れて父も祖父もあまり汚れてなかったな。戦い方にコツがあるんだろう、私はかなり血だらけになったし。


「ユミル遊ぼう。」


 今日は帰って来るのも早かったし、魔力を逃さないために夕食も早かったのでたっぷり時間がある。存分に遊ぶとしよう、妹の1人や2人簡単に持ち上げられる様になったんだ。

 ウルフの様に襲いかかって来るミーニャとホリーを持ち上げて優しく床に転がす。

 ミーニャは腰に抱き着いてくるだけだけど、ホリーは腕に抱き着いたり、首に抱き着いたり本当にウルフの様だ。

 ゾーラは姉のコーリアと遊んでいてやはり近づいて来ない。

 隙を見て抱き上げたら「はなせっ!」っと言って蹴りを入れられ、積んでいた物が崩れたらしく姉に怒られた。

 ゾーラの警戒度がまた上がった気がする、悲しい。

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