015

 本隊のいる場所にたどり着くと、中央には大きな緑色のウルフが横たわっていた。

 通常のウルフが体高1mほどしか無いのに比べ、この緑色のウルフは体高3mくらいはありそうだ。腹をつけて横たわっている今ですら私の身長より大分高い。


「おお、これほど大きいエメラルドウルフは久しぶりに見ました。」


「ご苦労だったなギーヴ。こんなにでかいのは私は初めて見たぞ。」


「ビルザーク様が領地をいただいた時に、此処ここらを開拓するために倒したぬしがこの位の大きさのエメラルドウルフだったのです。もう40年くらい前ですかな。」


 「良い金になったそうです。」という祖父と、「売るか飾るか悩むな。」というベガルーニ様の声を尻目に私はエメラルドウルフを見学する。

 背中の方へ回ると、ゲルターク様が自慢げに何やら話をしている所に出くわした。


「おおユミル、やっと来たのか。どうだった?俺はウインドウルフ3匹とウルフを10匹倒したぞ!」


 そう言って指を指した先にはウインドウルフ3体が並べられていた。


「ウインドウルフ1匹とウルフは数えてないので分かりません。」


 多分30くらいかな?と答えると、自分の戦果を数えていない事を怒られた。自分の戦果を正しく報告するのは兵士の大事な仕事らしい。


「俺はウインドウルフ6匹とウルフ50匹だ、凄いだろう?」


 という父の声が横から聞こえて来て、さらに後ろから祖父が対抗してきた。


わしはウインドウルフ8匹とウルフ40匹だ、わしの勝ちだな。」


「数は俺の勝ちだろうが!」


「ふん、一般兵でも倒せるウルフなんぞ数に入るか。等価な訳があるまい。」


 ウインドウルフはウルフ5匹分か10匹分かで争っているが、父の勝ち目は薄そうだ。


「エメラルドウルフは何匹分だ?ゲルタークよくやったな、指示通り私にウインドウルフを近付けぬ様によく倒してくれた。」


「ウインドウルフなど物の数ではございませんでした。父上も流石の盾さばきでしたね。」


 突然参戦してきたベガルーニ様の盾には、深い爪痕が幾本も残されている。ゲルターク様も褒められて満更でも無さそうだ。


「そろそろこいつの解体をせねばならん、手伝え。」


「「はっ」」


 血抜きは終わっているらしいけど、木にぶら下げることは出来ないので重たい脚を持ち上げながら解体するらしい。

 私はゲルターク様が牙を抜く手伝いをする様に言われたので、大きな口を開いたまま固定する係だ。

 私を丸呑まるのみに出来そうな大きな口に、手のひらより大きい犬歯が生えている。ナイフで根元に切れ込みを入れてこれを全部引っこ抜くらしい。


「ユミル、この歯を揺らして引っこ抜けるか?」


「ちょっと待ってくださいね。あ、いけそうです。」


 揺れるのに抜ける様子のない牙にごうを煮やしたのか、私に抜くように言ってくる。

 私はあごに足をかけて力をかける。ブチっと神経が切れる音がして犬歯が抜けた。


「よし、俺が切り込みを入れるからユミルが引き抜け。そろそろ魔力が限界なんだ。」


「分かりました。」


 牙に傷をつけない様に歯茎に切れ込みを入れていくが、これにも魔力を使う。

 ここまで大物の魔物だと、刃物に魔力をまとわせないと傷一つ付けられないのだそうだ。

 皮をぐ方も同じだ、父と祖父が脚を持ち上げ、魔力持ち数人がかりで皮から肉をいでいる。

 新鮮な肉を食べるのにも魔力が必要で、魔力が残っている方が美味しく感じるため、魔力の無い人は細かく刻んでスープに入れてもらい、味を楽しんで噛まずに飲み込むらしい。

 なんでも腹の中で溶け出す魔力が健康に良いとか、妊娠していると子供が魔力を持って産まれやすくなる、という噂話があって高値で取引されているのだそうだ。

 もっとも毛や牙、爪と違って肉はくさりやすいせいか魔力が抜けやすく1週間も持たないため、辺境では売る手間をはぶかれて捨てられているらしい。

 魔力が抜ければただのウルフ肉なので、今回もある程度の量を取ったら放置だ。


 解体が終わったらすべての死体を集めて、ベガルーニ様の炎魔法で焼き払う。

 肉を残しておくと肉食の魔物がまた集まってくるらしい。

 一瞬で太い炎の柱が立ち昇り、渦を巻いてウルフの死体を焼き尽くし。炎が消え去ると黒い塊が残り、焦げ臭い匂いがただよって来る。

 もしかしたら真ん中の方は良い感じに焼けているかも知れないが、わざわざこれを掘り返して食べる魔物は少ないだろう。

 私は戦斧と大きな肉塊を担いで家まで帰ることになった。空の袋はいつも持ち歩く様にしようと思う。

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