014

 私の仕事に木こりが追加された。斧で攻撃した時の反動に慣れたり、狙った場所に振り下ろせるようになったり、抜けなくなった時の対応を勉強するため。とのことだが、外壁を広げるための予定地に、戦鎚で杭を打っていくのは便利に使われているだけな気がする。

 ゲルタール様なら風魔法でスパッと簡単に切れそうだなと思いながらも、切り倒した木の枝を打ち払って予定地まで運んで積んでおく。直径20cm前後の細い木とはいえ、壁にするには長さが必要なため重さは何百kgにもなる、何人もの人間で運ぶとはいえ大変だ。

 枝も乾かせば重要な燃料になるため集めておかないといけないし、地味に数が多くてでかいので面倒臭い。帰りに外壁の外で砂鉄を集められるのだけが救いだ。

 壁の内側は流石に取り尽くしたし、畑で取ると生育が悪くなるかも知れなくて手を出していない。毎日門から外に出て採りに来ているのだ、最初から外にいるなら手間がはぶけるんだ。


 訓練、狩り、木こりを1日ずつこなしていく日々を送っていると、森に異変が起き始めたらしい。

 木の伐採量を増やしたので予想はされていたのだけど、ウルフの大きな群れを呼び寄せてしまったそうで、森の浅いところでも単体で移動するウルフが目撃されているらしい。

 このまま放置すると狩りの危険度が上がり。ボアが食い尽くされてしまうという事で、討伐隊を出す事になった。ウルフも食べられるけどボアの方が美味しいしね。

 門を守る最低限の兵士以外は、実力が足りていれば見習いでも連れて行き、ベガルーニ騎士爵様とゲルターク様まで参加する100人近い大部隊だ。


 3つの部隊に別れ、右翼部隊と左翼部隊が先行して数を減らし、中央の本隊が群れのぬしを倒すために突撃する作戦らしい。

 私は祖父の指揮する左翼部隊に所属し、父は右翼部隊の指揮を、本隊はベガルーニ様が直々に指揮を取り、ゲルターク様もここに配属されている。

 ウルフ自体は狩りで倒したことがあってボアよりも戦いやすい。突進して通り過ぎる事もあるのだけれど、基本的にすきうかがって噛み付いて来る事が多いので、顔面を叩いて斬りつければ倒せる。

 間合いを測る所は対人戦に似ているが、攻撃範囲はこちらの方が広いので戦いやすいんだ。


「おじいちゃん本当にこんなにたくさん人が必要なの?」


「分からん。が、分からんなら多い方が良い。群れのぬし十中八九じゅっちゅうはっく魔法を使ってくるだろうから魔力持ちが必要だ。

 その魔力持ちを消耗させず、安全にぬしの前まで送り届けるためなら、多くて困る事は無い。」


 心配しなくてもお前も何匹も倒すことになる。って最後に言われたけど群れって一体何匹いるの!?

 そんなに肉食の魔物が集まって食べ物は足りているんだろうか?と考えたけど、足りていないから移動してきたんだよね。


 たまに現れるウルフは斥候せっこうの人達に倒され、部隊が追いついた時に魔石だけ抜かれて放置していく。

 いつもの狩りよりも森の深いところへ入り、ウルフが数匹で現れるようになっても変わらず進んでいく。

 どうやらあちらも此方こちらの動きに気付いていたようで、群れで固まり視線を向けてきている。

 森の中なので全体の数は分からないけど、見えるだけでも此方こちらと同じ位はいるだろう。

 立ち上がって唸り声を上げるウルフ達の少し左側に部隊を移動しながら間合いを測る。


「続けっ!」


 号令ごうれいを出した祖父を追いかけて部隊が走り出す。動き出したウルフ達とはすぐにぶつかり、祖父が振った両手剣の一振りで2匹のウルフが吹っ飛んだのが見えた。

 見習いがいるのは部隊の真ん中辺りなので、私の元までは来ないが包み込む様に部隊が変形し始めた。


「左手から追加部隊!ウインドウルフ一匹確認!」


「ユミル、ウインドウルフを倒しに行け!ウルフには構うな!」


「はいっ!」


 予定に無かった指示が来たが、あれが魔法を使う魔物なのだろう。

 急いで人垣ひとがきを通り抜け、追加のウルフ達のど真ん中を通り過ぎて、ウインドウルフに斬りかかる。

 避けた風魔法の球が近くを通り過ぎ、風でらされる様な感触があったけど気にせずにウルフを思いっきり斧でぶん殴る。

 変な風のせいで刃筋はすじがズレて斬ることは出来なかったけど、吹き飛んだウインドウルフを転ばせることは出来た。


「せいっ!」


 急いで近寄り、今度はちゃんと刃筋はすじが立つように斬りつける。

 思ったよりダメージがあったのか、ヨロヨロと立ち上がろうとしていたウインドウルフの首筋を斧で斬りつける。

 首から血を流し倒れていくのを確認していると、いつの間に近付いてきたのか左腕をウルフに噛まれた。


「痛っ!くない?」


 私の左腕に噛みつき、首を振って引き倒そうとしている様だけど、痛みも無いし力も弱い。

 噛み付いているウルフごと左腕を持ち上げ、勢い良くウルフを地面に叩きつけて斧で止めを刺す。

 腕を確認するが痛みどころか傷もない、どうやらウルフでは私の身体強化を貫けないらしい。

 うれいが無くなった私は、駆け出してウルフを倒しに行く。とりあえず祖父に報告をしに行こう。


「おじいちゃん!ウインドウルフ倒したよ!」


「よくやった!どうだ強かったか?」


「変な風のせいで攻撃らされた!あと普通のウルフに噛まれたけど痛くなかった!」


 お互い、一撃ごとにウルフをほふりながら簡単に伝えていく。


「そらそうだ、訓練とはいえゲルターク様の本気の突きを受けて平気な顔をしとるんだ、ウルフごときじゃ怪我などせん。

 わしでも赤くれるくらいはするぞ。」


「そうなの!?手加減されてるのかと思ってた。」


「本人の前では絶対に言うんではないぞ。

 さて、本隊同士がぶつかり合った。ウルフなんぞどれだけ流しても構わんが、一般兵の所にウインドウルフが行くと面倒な事になる。絶対に漏らしてはいかんぞ。」


「分かった!」


 そう言って祖父はウルフを倒しながらどんどん前へ進んで行く。後ろの部隊と離れていってるけど大丈夫かな?


「一般兵の仕事は陣形を維持する事!戦っていなくても怪我人と交代するために手を開けておくのも仕事よ!

 魔力持ちの仕事は敵の陣形を崩し、敵将をる事よ!後ろなんぞ気にするな!進め!倒せ!」


 それはどうなんだ?と思ったものの、魔力量に限界がある以上早めに片付けた方が良いのも確かだ。祖父も楽しそうだしこのままついて行こう。

 視界に入ったウルフを手当たり次第に倒していき、祖父はウインドウルフを見つけると他には目もくれずに首をりに行く。

 私は祖父が後ろから攻撃されない様について行きながら、出来るだけウルフを倒す。

 何度か同じ事を繰り返していると、本隊のいる方から歓声が上がった。


殲滅戦せんめつせんだ!出来るだけ多くのウルフを討ち取れ!」


 大声でベガルーニ様の指示が飛んでくると、陣形を守っていた兵達がバラけてウルフを追いかけ始める。

 私と祖父もさらに速度を上げて倒して行き。かなりの数が逃げて行ってるけど深追いしすぎても危ない。

 ある程度の所で祖父の「ここまで!本隊に集合!」という号令で追撃を止める。

 祖父は倒したウルフをまとめながら向かっていたので、真似をして見やすい所にまとめておく。

 辺りには血の匂いがただよっているが、見ている範囲には大きな怪我をしている兵士はいなそうだ。

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