012

 その日から私は、持久走でゲルターク様がリタイアしたら上がりということになった。

 そう、ゲルタークだ。見習いとはいえ従士になったからには言葉遣いを直された、もう魔法の授業の時でさえタメ口は許されないのだ。

 訓練を早く上がれるとはいえ、やる事は麻袋を持って魔法を使いながら村一周だ。「ズルいぞ!」と言ったゲルターク様でさえ、訓練と変わらないじゃないかと言っていた。

 重りは無いし、走らないのだからだいぶ違うと思うけどね。

 魔法を使いながら走れば早く砂鉄を集める事は出来るが、麻袋の目は粗い。走って揺らせばポロポロと砂鉄が落ちてしまうだろう。

 結局、従来のやり方で広範囲を歩くしか無く、せめて川原にでも行ければ多く手に入るかも知れないのに、と歯がゆい思いをしながら集めている。


 10歳にもなれば身長も伸び、歩く速さも増し、魔法の威力も上がって、麻袋を持って集めるのでは無く、こぼれづらい木箱を持って砂鉄を走って集めて、家で麻袋に移す知恵を得た。

 自分の武器も手に入り、さらに訓練用の鉄製の戦槌までもらった。

 訓練で火球の魔法を武器で殴ったら、斧が変色してあせった事がある。すぐにチタンはそういう物と知識が湧いて来たがかなり驚いた。

 訓練を繰り返し、今では紫や黄色のグラデーションになっていてちょっと綺麗なので気に入っている。


 10歳になって一番大きな変化は、村の外に行けるようになった事だ。

 訓練では狩りで森へ入るために魔物との戦い方を習っている。今習っているのもその一つだ。

 盾を持って身体を完全に盾の影に隠し、隊列を組んだ見習い達に突進する。

 この突進を避けて棒で叩かないといけないのだが、これがなかなか難しい。

 避けるのは簡単なんだけど、殴ろうとするとすでに走り去っているのだ。どうしても体重を乗せた一撃にならずに、手だけで振ってしまい怒られる。

 しかも突っ込んでくるのは身体強化を使った私かゲルターク様だ。その速度はかなり速い。

 方向転換もお手の物で、毎回避けそこねて怪我をする奴が現れるくらいにはきつい訓練になっている。

 もっとも私とゲルターク様は何人倒せたかで競って遊んでいるけどね。


「ちょっと待て!ボアはそんな攻撃してこないだろ!?」


 私が今思いついた急ブレーキ後の方向転換ジャンプタックルで、次々とダウン者が出て苦情が入る。


「先生に止められないんだから問題無い。」


 盾越しで前が見えなくても、多少は気配が察知さっちできるようになった私は、音をよく聞きながら次々と獲物えものとらえていく。

 最後に残ったのは当然の様にゲルターク様で、お互い一度もボア側が勝った事は無い。

 突進を避けられて刺し出してくる槍を横っ飛びでかわす。再び突進し、目の前で急停止して、避けた方向に方向転換ジャンプで追撃ついげきする。しかしこれは盾の上に片手をついて飛び越えられてしまった。

 その後も数回の突進をするが勝負は付かず、「そこまで!」の声で引き分けになった。


「全員聞け、ああいう動きをする魔物もいない訳じゃないから覚えておくように。ウルフ系はあれに近いかもしれん。避けても何度も噛みついてくるんだ。

 だが今回はボアへの攻撃訓練なので、突進後の横っ飛びは禁止とする。突進中の方向転換はよくあるからそのままだ。」


「「「はい!」」」


 ボア役を交代して攻撃側に回る。ゲルターク様のボアは何というか上手い。2人並んでいる場所を見つけるのが上手く、ギリギリまでどちらに行くのかを悟らせない。

 出来るだけ離れて対応しようと思っても隊列を崩すな、護衛任務ごえいにんむの時はどうするつもりだと、先生に言われて近過ぎず離れ過ぎずで対峙する。十メートル単位で離れてたら訓練にならないもんね。

 私の様に変則的へんそくてきな動きは無く、反撃も食らっているが確実に一人ずつ脱落させていく。今回もボア側は勝利できなかったが段々上手くなってきている、戦場で使うかは分からない技術だけど。

 休憩時間の間に怪我人を魔法で治療し、また重りを持って走る。

 私はもう4つの背嚢はいのうを背負ってもかなりの距離を走れるようになり、これ以上は持つことが難しいので、魔力を使い切るのに時間がかかるようになってしまった。この調子なら全身鎧を着て動き回るのも余裕になるだろう。

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