011

「さて、そろそろいいかな。」


 そう言って雑談を切り上げると、ゴードンさんは熔鉱炉から出ている溝の下に型を用意する。


「え?早すぎませんか?」


「そう!早いでしょう!?君達が来る前から炉を温めていたとはいえ、通常の炉じゃこんなに早くけないんだ!

 秘密はこの火の魔石!鉱石の中からも温めるから、通常の炉の10倍もの速度で鉄を溶かすことができるんだよ!」


 普通の熔鉱炉よりも少し温度を上がる程度の魔道具だと思っていたら、随分と危険な代物だったらしい。

 その魔法を人に向けたら、簡単に血液を沸騰させて人を殺せる気がする。普通に攻撃魔法を撃っても殺せるんだから今更だけどね。


「爆発とかしませんよね?」


「大丈夫さ!もう調整済みだからね。前は炉のレンガが耐えられなくて爆発した事もあるけど、ここ最近はしてないから安心していいよ!」


 するらしい、というかしたらしい。ここ最近がいつからか分からないけど、爆発音なんて聞いた覚えが無い。

 金槌を打つ音も家まで聞こえて来ないし、防音用の魔道具もあるのかもしれないね。あと、自作だったのかこれ。


 そうこうしているうちに炉の下部にある排出口が開けられ、溝を伝って熔けた金属が流れて来る。


「さあここからが腕の見せ所だよ。

 まずは熔けた金属に魔力を流して、土や石を操作する要領で不純物を抜いていくんだ。

 金属を動かすにはより多くの魔力が必要だからね。少量で動くものは土や石の溶けた物だから型の外に捨てちゃおうね。

 そして覚えのある魔力量で動かせる物を順番に小さな型に移動させて、冷やせば完成だ。」


 さらりと軽い感じでとんでもない物を見せられた。

 私も魔力操作には自信があるが、泥水の中から水だけ抜き出すなんて事はできる自信がない。


「やっぱり容量が結構減っちゃったね。それにこっちの金属は鉄より動かしにくい金属なのに、こんなに比率が多いのは初めてだ。」


「多分チタンだと思います。鉄より硬くて重さも鉄の6割位だったかな?砂鉄の5%以上がチタンらしいです。」


「へぇチタンという名前は初めて聞いたけど…それならこれでアックスヘッドと鎧を作れば重量問題は解決するね。」


「えっ?」


「持ち手は柔らかい方が良いから鉄の合金がいいけど、他は硬くて軽い方が使いやすいもんね。今日の分量で考えると、6回分か7回分くらいで集まるかな、頑張ってね!」


「あ、はい…。」


「研究に使いたいから多めに取ってきてくれていいよ、色もつけるからさ。」


 やる事は変わらないのだけれど、より少ないものを集めろと言われると難しくなった気がするから不思議だ。

 私としても頑丈になって、さらに重量が軽くなるならとても嬉しい。

 鉄との合金で使うにしても10kg近く軽くなるのだ、持久力には相当な違いが出るだろう。


「そんなにいいなら俺の剣も作って欲しいな。普通の鉄鉱石を買って来るんじゃ駄目なのか?」


「余り記憶に無いってことは、この辺で買える鉱石には殆ど入っていないのかも知れないな。

 後は鉄よりづらいということは、通常の炉だと溶けずに炉に残っているクズ石の中にあるのかもしれん。

 後考えられるのは、金槌で叩いた時に飛ぶ鉄を集めて剣を作ると丈夫な物が出来ると聞いたことがある。軽いからインゴットを作る時に鉄の表面に浮くだろうし、それがチタンを多く含んだ鉄なのかもな。」


「なるほどな、よく分からんがユミルの真似をしないと手に入りにくいという事は分かった。」


「そういうことだ。鉄の棒は明後日までには作っておくから、今日はもう帰っていいぞ。」


 そういうとゴードンさんは私達に背を向け、固まりきっていない鉄のインゴットを金床かなどこに乗せて金槌で叩き始めた。

 父と私は顔を見合わせて大きな音が鳴る作業場を出てお屋敷へと向かう。

 作業場を出て少し歩くと、あれだけうるさかった金槌の音がほとんど聞こえなくなった。便利だな、魔道具。

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