010

 砂鉄を集め始めて2年が経った。魔法の授業にはゲルタークの妹と兵士の子供が増え、私に勝てなくなったゲルタークが槍を使うようになった。

 才能があった様でかなり戦いにくい、被弾を覚悟すれば勝てるのだが、模擬戦のルールでは被弾すると負けになる。

 地道に槍をさばいて接近して、手数で上回って押しつぶすしか勝ち筋が見つからない。最近は負け越しているのでなんとかしたい。


 2年の間に集めた鉄の量は50kgくらいだろうか?麻袋5つに少しづつ入っている砂鉄だが、これがすべて鉄では無いらしい。

 鉄鉱石でも物が悪いと半分以下、砂鉄はそれ以下だそうだから、15kgくらいにしかならないだろう。鎧を作るには足りないけど、武器を作るには十分足りる。

 ということで、今日はこれを持って父と一緒に鍛冶屋に向かっている。


「ゴードン起きてるかー!前に言った砂鉄を持ってきたぞ!」


「おう!作業場まで来てくれー!」


 大声でやり取りをする父に付いていくと、濃い茶色の髪をした男が包丁を研いでいた。


「丁度ぎ終わるところだ、釜の前に置いてくれ。」


 手に持っていた麻袋を地面に置き、手元を見ていると何度か砥石に滑らせた後、砥石を片付け始める。

 棚に道具を片付けると、麻袋を開けて匂いを嗅ぐ。


「確かに鉄みたいだな、不純物も多そうだがなんとかなるか。話には聞いたことがあるが、使ったことはねぇからとりあえずかしてみるしかないな。」


 そう言うとゴードンさんは麻袋を持って階段を登り、背の高い溶鉱炉の中に砂鉄を流し込んだ。そこで私はようやく砂鉄を使うには溶鉱炉が必要だったことに気がついて、こんな田舎にもあったことに驚く。


「この溶鉱炉はな、魔導溶鉱炉って言って、魔石の魔力を使って金属をかす優れものなんだぜ。土の魔石で炉を強化し、風の魔石で風を送り、火の魔石と炭で温度を上げて溶かすんだ。あの白金プラチナだって融かせるんだぜ!やったことねぇけど。」


「知ってるよ、もう何度も聞いた。」


「お前には言ってねぇよ、俺はそこの新しいお客様に言ってんだよ!」


 父と仲良さそうにやり取りをしながらも、ついていた火に炭を足し、魔石に触れて操作していく。


「さて、作るのは鉄の棒でいいんだっけ?後からアックスヘッドを付けるんだよな。」


「そうだ、鉄の棒を戦斧にしてその後で全身鎧だな。金が足りるか分からんが。」


「見た感じ大丈夫そうだけどね、あれよりひどい鉄鉱石だって売られてるんだ。俺の腕ならどうにでもなるさ。

 金が心配なら砂鉄をもっと持ってきてくれればお代は勉強するぜ?10倍くらい持ってきてくれたらお小遣いをあげてもいいくらいだ。」


「そいつは助かる。もっと集める時間を取れるように言っておこう、成人までもう8年もないし10倍は無理かもしれないがな。」


 2年で約50kg集めたが、最近は家の近所では集めにくくなっている。土を掘れば取れるけど、それはそれで重労働だ。

 時間をもらって村の外れの方まで行ったり、磁力の魔法をもっと強くする必要があると思う。一番いいのはそういう地層がある所に行ければいいんだけどね。


「いや、8年じゃねぇぞ7年だ。あー名前はなんて言ったかな?」


「ユミルといいます。」


「そうだユミルだ。もう知ってるかも知れないが俺はゴードン、よろしくな。」


「はい、よろしくお願いします。」


 今更ながらに挨拶を交わす、収穫祭の時に毎年顔を見ているのに初めてゴードンさんと挨拶した。

 まぁ会話したことがあっても名前を教え合うことは意外と少ない。少なくとも私は砂鉄集めをしてる時も「あらダニエルさんの所のお子さんじゃない。何してるの?」「砂鉄集めです。」「へぇ~変わったことしてるのね。あらこの黒い砂が鉄なの?不思議ねぇ」ってなくらいで会話が終わる。

 変な子供と思われてはいるかも知れないけど、「お名前なんて言うの?」なんて聞かれたことが無いのは田舎だからだろうか?


「それで、なんで7年なんだ?ユミルは今7つだぞ。」


「いやいや、鉄の棒じゃねぇんだ数日でなんて出来ねぇぞ。かかりっきりでも半年は欲しい。

 成長期だから早めに作る訳にもいかないし、調整も考えたら1年はもらわねぇと他の仕事が出来ねぇよ。」


「そういうことか…胸当てなら1週間もかからんかったのになぁ。」


 そう言って父は自分の防具をコツコツと叩いて顔をしかめる。

 7年で10倍ということは、今の3倍のペースで砂鉄を探す必要がある。今のやり方では無理なので改善が必要だろう。全部は無理だとしても半分は超えたいし、妹達の事を考えると少額でもお小遣いは魅力的だ。


「そんな叩いて曲げただけの鉄板じゃなくて、背中も守れる本物の鎧だぜ?篭手こてだけで何日かかることやら。」


「分かった、できるだけ早く鉄と金を用意する。幸いユミルは体力は十分にあるし、訓練を早めに帰らせても問題ないだろう。」


 父はそう安請やすうけ合いしたけど、砂鉄を探すのは私だ。それに訓練後では魔力が回復していないので、出力任せに集めることが出来ない。本当に何か考えないといけないね。

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