008

 翌朝から私は、父達と同じ時間に起きて、お屋敷に行って仕事を手伝う様になった。

 馬小屋や兵舎の掃除、水汲み、訓練場の石拾い。余程ひどい汚れ以外は魔法でキレイにする事を禁止され、ホウキや雑巾を使わせられた。

 武器の整備の仕方も見せられたがまだやらせてはくれない。自分の武器を手に入れたらやらせてくれるそうだ。

 午前中の最後に魔法の授業があり、昼食を食べたら剣術訓練だ。

 私はまだ武器が決まっていないので、様々な武器の素振りをやらされる。最後に受けの練習をして、魔力が切れたら昼寝の時間だ。兵士達が訓練を続けている横で、他の見習い達と一緒に大の字になって訓練場のすみで寝る。

 起きたら今度はひたすら走らされる。本来は魔力が無くなっているはずなので、身体強化をせずに走るのだが、私はまだ余っているので強化して走る事になった。

 大人の兵士達は鎧を着て武器を持ち、背嚢はいのうかついで早足で行軍訓練だが、見習いは身一つで出来るだけ早く走らされる。

 身体強化をしている私は余裕そうに見えたのだろう、土を入れた背嚢はいのうを背負わされた。大人用の背嚢はいのう一杯に入った土は重かったが、まだ走る事は出来た。

 それを見ていた祖父はまだ余裕があると思ったのだろう、背嚢はいのうを追加されて、私は歩くことしかできなくなった。行軍訓練の早足にすら抜かれ、なんとか訓練場を一周する頃には魔力も切れて私は倒れ込む。

 倒れて息を整えている私に、祖父は背嚢はいのうを捨てて強化をせずに走るように言ってきた。

 私は言われるがままにフラフラと立ち上がり、ゆっくりと走り出す。初めは早足の兵士達になんとか着いていくので精一杯だったが、魔力が回復し始めると徐々に楽になってくる。

 魔力操作には自信があるので、魔力を体外には出していないし、身体強化もしていないはずなのに。乱れた呼吸は戻り、重かった足は徐々に軽くなり、背嚢はいのうが食い込んで痛かった肩の痛みも引いていった。

 なんだか分からないがイカサマをしている様な気分になった私は、祖父に聞きに行った。


「おじいちゃん、質問していい?」


「どうしたユミル、限界でリタイアにしては元気そうだが?」


「身体強化はして無いのに魔力が回復してきたらどんどん体が楽になっていくんだけどなんで?」


「ん?あーおそらく自己治癒が原因だろうが、そんな体感できるほどの勢いで変化があるものじゃないはずだが。

 魔力持ちには魔力による自己治癒能力があってな、魔力がある限り自分を魔力で治す力があるのだ。お前は風邪で熱を出して寝込んだことも無いだろう?あれもその能力のおかげだ。」


 確かに私は病気になったことが無い。正確には体調が悪くなったらすぐに魔法で回復していたのだが、それが出来るようになったのは一歳頃からで、それ以前も熱を出した覚えは無い。


「それにしてももう魔力が回復しだすとはな、その自己治癒能力に勝手に魔力を使われるせいで、使い切ると一定以上になるまでなかなか魔力が回復せんものなのだが。」


「それじゃあこのまま走っちゃだめって事?」


「駄目って事はないが、走りながら疲れが取れる様ではあまり訓練にはならんな、呼吸が整ったらまた重りを持つといい。1個で十分だろう。」


「分かった!」


 理由が分かった私は、再び走り出して落としたまま放置していた背嚢はいのうを1個背負う。話している間に大分回復してしまったが、重りがあればすぐに魔力切れになるだろう。

 なにせこれ10kgくらいあるのだ、妹よりも重い。2個持てば私の体重を超えるんじゃないか?

 身体強化して走っては重りを捨て、息を整えては重りを拾って、走り続ける私を限界を迎えて座り込んでいるゲルターク達見習いに奇異きいの目で見られたけど、大人達は未だに歩き続けているのだから頑張って欲しい。

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