007

 先程さきほど怒声どせいは恐らく祖父のものだろう。祖父は憮然ぶぜんとした顔で腕を組み、こちらを見下ろしているが父親2人はニヤニヤとこちらを見ている。


「さてゲルターク様。私は訓練以外で剣を人に向けてはいけないと教えたつもりでしたが、覚えていらっしゃいますか。」


 祖父の淡々とした低い声が私達に降り注ぐ。怖い。


「いや棒だし、身体強化をすれば怪我などしないと思ったのだ!それに回復魔法も覚えたから怪我をしても治せる!」


「なるほど。ですが魔力が尽きれば大怪我をするかもしれんし、魔力が無ければ治療する事も出来ません。棒とはいえ使ったのは剣術です、罰を受ける事は覚悟してください。

 さて、どういたしますかベガルーニ様。」


「ゲルタークはそんなに訓練がしたいのなら訓練を増やしてやれば良い、魔力が切れてもできる訓練などいくらでもあるのだ。

 だが問題はユミル嬢の方だな。ダニエルからは大人しい素直な子供だと聞いていたのだが、随分とお転婆てんばな様だ。」


 祖父から話を向けられたゲルタークの父親が、面白そうな物を見つけた様な顔でこちらを見てくる。


「はい、家では動く事は好きな様ですが、暴れる事もわめき散らすことも無く、散歩に出ても走っているところを見たことが無いと妻には聞いていて、このまま魔法治療師として育てるつもりでした。」


「私もそう聞いていたが、随分とさいあふれる子供だった様だな。」


「その様です。しかし剣など教えた事も無いのですが、構えは出来ていましたね。」


 両親の中では、私は姉達と同じ様に大人しい子供というくくりだったらしい。自分では結構動き回っていたつもりだったのだが、やはり親の手を振り払って駆け回る様な子供と比べれば大人しいのだろう。


「だがおかしな振り方をしていたぞ?握りは槍なのに、使い方は両手剣の様だった。」


 ゲルタークの父親が私の戦い方に疑問を投げる。


「あれは戦斧や戦槌を持つ重装歩兵の戦い方でしょう。昔り合ったことがあります。」


 祖父が疑問に答えると父が小さな声で「重装歩兵か金がかかるな…」と呟いた。


「なに、きちんと教えれば戦い方も変わるかもしれん。受けが得意なようだったし、盾でも持たせてみればよいのではないか?」


「そういたします。」


「よし、では2人は明日から魔法の勉強の後は兵士に混じり訓練をせよ。さらにユミルは従士の教育も始めるように。」


「「はっ」」


 ゲルタークの父親が沙汰さたを言い渡すと、父と祖父が敬礼けいれいして返す。

 私達がぼーっと見ていると、父が近づいて来て私の頭をでる。


「しかしそんな棒何処から持ってきたんだ?」


 聞かれた私は物置の奥にあった折れた棒を持ってきたと返すと、苦い顔をして「昔ベガルーニ様に折られた槍か!」と声をあげた。


「ああ、あったな。丁度良い所に差し出すからつい踏み付けてしまったのだ。」


 あの後散々さんざんしかられて大変だったのだと話す父を見て、思い出したのか祖父もうなずいていた。

 子供2人は置いてけぼりだが、下手に話しかけてやぶをつついても困るので大人しくしていよう。

 明日から始まる訓練は楽しみだけど、姉妹達と遊ぶ時間が減るのはちょっと寂しいな。

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