006

 再戦をちかい、さわやかに別れたとはいえ、反省と対策は必要だと思う。

 持久力は勝ったとはいえ、力と速度、技は負けていた。先に剣術を先に習っているから技で負けるのは仕方が無いとしても、完全に力負けするのは想定外だった。

 水晶玉の光り方の事を考えると、最大出力は負けているかもしれないけど、常に全力で強化している訳では無い。

 それなら全力に近い強化をしていた私の方が勝ちそうなものなんだけど、結果は負けだ。

 考えられるとすれば基礎筋力だろうか、素振りなどで鍛えたゲルタークとは違い、私は散歩の時も走り回ることの無い大人しい子供だ。

 筋トレもせず、重いものを持ってもせいぜい数十秒では、まったく筋肉が育っていないのだろう。

 今から育てても明日に間に合うはずもなく、技も無理ならば残る対策は距離だ。武術は基本、より遠くから攻撃できる者が強いらしい。

 剣道三倍段、剣が槍に勝つには3倍の段位が必要なんだそうだ。なら槍のように長い武器を用意すれば、実力が伯仲はくちゅうする今なら勝つ事ができるに違いない。

 だけどゲルタークは剣で勝負と言っていたし、流石に槍はまずいかな?なら両手剣はどうだろう。対戦している時は左手が手持無沙汰てもちぶさたでバランスが悪かったんだ。片手では力負けしているとしても、両手で受ける事ができれば負けないと思う。


 そうと決まれば武器探しだ、長さはホウキ位あればいいと思うけど、流石にホウキを持って行ったら怒られる気がする。

 薪を置く部屋や、物置を家探しをしていい感じの棒を探す。物置の奥に途中で折れた真っ直ぐな棒を見つけて引っ張り出した。

 折れてささくれだっているのはそのままだと危なそうだけど、手の届く範囲には刃物が無い。

 土魔法を回転させている所に突っ込んだら削れるかな?と思って試してみたら意外と威力がある様で良い感じに削れた。

 まだザラつきはするけど、後は石にでもこすりつければ綺麗になるだろう。

 明日持って行くため、見つからないように家の外に隠し、準備が整った事に満足して子供部屋に行く。

 後は少しでも力をつけるためにトレーニングが必要だ。部屋で腕立てをしていると、いつもはしないおかしな事をしているせいか、興味を持った妹のホリーが背中に乗ってくる。

 背中に乗せたまま腕立てが出来るほどまだ力がないので、仕方なくお馬さんごっこをする事にした。

 身体強化を使ってなんとか歩いているが、5歳児がやることでは無い気がする。キャッキャとはしゃいでいるホリーももうすぐ2歳だ、かなり重い。これなら筋肉が付くかも知れない。


 次の日の魔法の授業が終わると、二人で走って隠した武器の場所へ向かう。私は違う場所に新しい相棒を隠しているので、一言ひとこと言ってゲルタークから離れる。


「おいユミル!何だよそれ。」


「両手剣だよいいだろ?」


「まぁいいけどな。新しい技を教えてもらったんだ!今日は負けねぇ!」


「こっちだって昨日とは違うからね!」


 お互い向かい合って構えると、ゲルタークが「いくぞ!」という掛け声をあげて斬りかかってくる。

 上段から振り下ろされた一撃を、余裕を持って受け止める。よく乾いているからかカーンといういい音が鳴り、気を良くしたのかゲルタークの攻撃の速度を増した。

 昨日より重い武器ではその速度に着いていくのが精一杯で、反撃もできず、今までは上段からの攻撃しかしなかったゲルタークが、突然してきた横振りの攻撃に対応できなくて脇腹わきばらを打たれて負けてしまった。


「どうだ俺の新技は!」


「突然横振りになったからびっくりしたよ。」


「上に意識を集めて隙を突けって教わったからな!」


 剣術のセンスもいいのだろう。受け止めた攻撃がいつもより軽いな、と思った瞬間斬り返して脇腹を打たれたのだ、本当にびっくりした。

 私の方も力負けはしなくなったが、武器の重さに振り回されて上手く動けなかった。この持ち方ではダメだ。

 再び向かい合って武器を構える時、私は棒の端を両手で持つのではなく、槍を持つ様に手と手の間を空けて持った。

 構えは両手剣のまま、中段に構えて相対あいたいする。

 再びゲルタークの掛け声で、動き出すと同じ様に受け止める。扱いやすい、力負けもせず、速度も対応出来ている。

 気を良くした私は、攻撃を受けるだけでなく弾き、一歩踏み出す。その動きに驚いたのか、慌てた様子を見せたゲルタークに思いっきり上段から叩き付ける。

 体勢を崩し、防ぐので精一杯のゲルタークを強引に押し込むと尻餅をついて転んでしまった。


 「もう一回だ!」


 勢い良く立ち上がったゲルタークが再戦を申し込んで来るが、そこに怒声が響き渡る。


「何をやっておるか!」


 驚いて声のした方に向き直り、背中に武器を隠す。歩いて来たのはゲルタークの父親と私の父と祖父だった。

 

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