005

 次の日から我が家には、定期的に子供の泣き声が鳴り響く様になった。母と祖母は交代で睡眠を取り、うたた寝をしては泣き声で起こされている。

 私はといえば都合の良い耳をしている様で、一度寝てしまえば泣こうがわめこうが朝までぐっすりである。

 今まで使っていた部屋を追い出され、姉と一緒の部屋になり、ベッドが変わっても快眠なのだから薄情なものである。

 せめてもの手伝いとしてオムツをキレイにしているが、大変だなぁと他人事のように見ている。

 姉は何が楽しいのか、赤ん坊が起きている間は指を掴ませて、ずっと話しかけているので母親より先に姉の顔を覚えるんじゃないかと思っている。


 妹の首が座り、ハイハイを始めれば、姉のおままごとの相手は完全に妹のものになった。

 そう、妹だ。名前はミーニャ。ママだかマンマだか分からない発言で母親を喜ばせたのを見た姉は、今はコーリアという自分の名前を呼ばせようと頑張っている。

 たまにハイハイで私のもとに来ても、すぐに母や姉のもとに帰って行く。私なりに可愛がっているつもりなのだがお気に召さないらしい。解せぬ。

 まあいい、私自身も新しい魔法の呪文を覚えたのだ。知らない物を指さして「これなぁに?」と聞くと新しい単語を教えてもらえるんだ。これでようやく言葉の学習が進められる。

 最近の私は祖母と散歩に行き、単語を聞き、言葉を覚える事が生業なりわいなって来た。


 おそらく3歳になる頃。権力者の家に行き、権力者の子供と一緒に水晶玉の老人から魔法を習う様になった。

 こんな小さな子供に早すぎないか?とは思ったものの、やることは魔力を動かし、濃度を上げて外に出す。いつも私がやってるアレだったので、特に目新しい事は教えてもらえなかった。

 魔力の正しい呼び方が分かったのが唯一の成果だろうか。


 さらにしばらくするとまた妹が生まれた。名前をホリーと言い、レベルアップした私とコーリアの可愛がりを一身に受けすくすくと育っている。

 身体を動かすのが好きなようで、呼ばれてはハイハイで猛ダッシュし、疲れては寝るような生活をしている。


 もうすぐ5歳なろうかという頃。一緒に魔法を習っている権力者の息子こと、ゲルタークが授業の後に「おい、剣の練習しようぜ!」と言い出した。

 聞けば自慢げに、父親に剣術の稽古をつけてもらっていると話してくれた。

 身体強化があれば木の棒で殴られたところで怪我などしないし、2つ返事で了承し、お互いにかっこいい木の枝を持って剣術ごっこを始める。

 ゲルタークの方が数ヶ月早く生まれ、剣術を習っているとはいえ身体強化には一日の長があり、私には湧いてきた剣術の基礎知識があった。負けるつもりなど無く、お互いに不敵の笑みを浮かべて武器を振るう。


 お互いの武器に向けて振るった一合目で、思っていた展開と違う事に気が付いた。

 正面からぶつけても、ガードしてもわずかに力負けしているのだ。

 力で負け、速度で負け、徐々に防戦一方になった結果。武器を弾き飛ばされて1戦目は私の負けとなった。

 納得のいかない私は、すぐに棒を拾いに行き再戦を申し込む。


「もう一回勝負しよう!次は負けない!」


「いいぜ、次も俺が勝つけどな!」


 走った勢いを乗せた必殺の袈裟斬けさぎりをあっさりと受け止められ、連撃が終わった隙を付け入られて再び防戦一方となる。

 先程よりは長く受けることが出来たが、最後は同じ様に武器を弾かれて負けてしまった。

 2戦3戦と続けていくとゲルタークの動きが段々と悪くなり、ついに防御しそこねた攻撃が腕に当ってしまった。


「痛っ!」


「大丈夫か?治療するよ。」


「たのむ、魔力が切れちまったみたいだ。」


 抑えている腕に魔法を使い、赤く腫れた打撲跡を治療していく。結構威力があった様で、治しきるのに少し時間がかかったがちゃんと治せた様だ。


「あーあ、楽勝だと思ったのになぁ。お前強いな。」


「まあね、魔力には自信があるんだ。でも次からは魔力が切れる前に止めないと大怪我しそうだな。」


「そうだな、3戦いや2戦でやめとくか。」


「魔力が増えたら増やせばいいしね、それがいいと思う。」


 お互いのかっこいい棒を塀のかげに隠し、解散して家に帰る。

 今までは魔法の授業の時に雑談する程度だったが、これからは強敵ともとして仲良くする事になりそうだ。

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