002

 その日、私は初めて家の外にというか部屋の外に初めて出る事が出来た。

 私があまり泣かないからだろうか、寝かせるために色々な場所に抱いて行くことも無く。私自身も勝手に運動して勝手に寝るので外が気になってはいたが泣いて催促さいそくすることもなかった。

 母に抱かれて2つ扉をくぐると眩しい程の陽の光が目に入り思わず目をつむる。

 明るさに慣れた目を開き辺りを見回すと、石の積まれた壁に木の屋根の家がいくつも並び。緑の草が生い茂るド田舎の景色が見える。

 家の窓から見たことがあるので知ってはいたが間違いなくここは田舎だ。

 踏みならして草の生えなくなった土むき出しの道を母が歩いていくがよく見ると私の家は周囲の家より一回り大きく見える。

 実は田舎でも権力のある家なのかも知れない。まぁ一番権力があるのは間違いなく今は母が向かっている家だろう。

 一回りどころか2倍も3倍もあるでかいお屋敷だ、2階もあり玄関も2枚扉で石の塀と門まであるのだ明らかに権力者の家だと思う。

 今日は何かの集まりなのだろうか、玄関前には10人くらいの人が集まり私と同い年くらいの子供を抱いた母親が2人いる。

 集まっている人の中心付近にいた父が私と母を見つけると大きな声で何やら言い出し、子どもを抱いた親が中心に近付いていく。

 見ていると青い布の上に丸い水晶を持った老人の元で子供に水晶玉を触らせているらしい。

 特に何が起こるわけでもなく、老人が首を横に振ると子供を抱いた母親が残念そうに離れて行く。

 2組の親子が終わると次は私の番だ。母が私の右手を持ち水晶に触れさせるとランプに火をともすかの様に水晶玉が光り出した。

 それを見た父が騒ぎ出し、私の頭をガシガシと撫でながら声をかけてくる。多分よかったとかおめでとうとかそんな感じの言葉だろうが痛い、乱暴すぎる。

 魔力検査、スキル確認、加護。などの知識が湧いてくるが多分あっていると思う。水晶玉に魔力が吸われる感覚があり、その後から体の外に魔力が出せる様になったのだ。今までどれだけ頑張っても外に出せなかったのに水晶玉に触るだけで解決するとは思わなかった。

 私は父に笑い返し、光る水晶玉から手を離して母に抱きつくと両親は老人から離れて屋敷の玄関の方を向いた。

 いつの間にか開かれていた扉の所には私より少しだけ年上くらいの子供と夫婦が立っていた。

 水晶玉を持った老人が夫婦に近づいて水晶玉を差し出すと子供を抱いた母親が手を取り水晶玉を触らせる。

 その瞬間、私の時よりも明らかに強い光を水晶玉が放ち、放たれた光が一瞬私の目を焼く。

 光が収まると老人が何やら夫婦に告げ、母親が水晶玉から手を離させる。抱き直した子供を父親の方へ差し出すと、受け取った父親は子供を高く掲げて大きな声で何やら発言したのだが、びっくりしたのか子どもが泣き出してしまい慌てて子供を母親に返してチラチラと子供を気にしながら演説をし、この場は解散となった様だ。

 お屋敷に残るらしい父に手を振り、母に抱かれて家路につく。

 私は魔力の操作や圧縮を頑張っていたつもりだがどうやら権力者の子供に負けてしまったらしい。

 一抹の悔しさを胸にしまいながらも体の外に出せる様になった魔力で何が出来るのか考え、暇つぶしが増えた事を喜んだ。


 ところで、私はまだ1歳になっていないと思うのだが最近母の腹が大きくなってきた気がする。

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