双子と青年

 ハクという男が双子の少女と出会ったのは、今から五年前ほどになる。


「ねぇねぇ、何すればいいの!? 戦えばいいの!?」

「……やらなきゃいけないことだけ、教えて」


 裏を生きるギルドに実力以外の序列はない。

 先に入ったから、年齢が上だから、というものは一切なく、ただただ依頼をこなせるかこなせないかの腕っぷしで判断される。

 だが、何も知らない人間を適当に野へ放り投げ、捕まって情報でも吐かれたら困る。

 そのため、ある程度は新人に誰かが教育するという習慣が設けられていた。


 ハクがその習慣に初めて担当したのが、闇ギルドに入ってから二ヶ月後。

 相手は、捨て子で闇ギルドで育てられた双子の少女だった。


(まったく……俺は子守役には向いてないってのに)


 この時のハクは、ギルド内でも若い十三歳。

 しかし、双子の少女はそれぞれが五歳———ハクよりも一回り若く、ようやく物心がついた頃だった。

 それなのに、もうギルドの人間として手を染めようとしている。

 ハクも、初めて彼女達に会った時は驚いたものだ。

 だが―――


(……まぁ、俺が面倒を見るのは教育までだ)


 可哀想だとは思うが、こいつらが死のうが死ぬまいがどうでもいい。

 他人のことにかまけていると、この世界では自分が淘汰されてしまう。

 だから、あくまで面倒だけ。面倒だけを見よう。


「ねぇねぇ、何をすればいいの!? できれば、過激で素敵な場所だといいなぁ~」

「……楽な方でよろ」

「君達ねぇ……すでに方向性が違う注文をしてくるんじゃない」


 そう思いながら、ハクは双子の少女と共に行動をし続けた。

 ただ、わざわざ捨て子を拾ってきて育てた子供だからか、五歳という若さでも他の団員と引けを取らないほど優秀だった。

 何度も何度も依頼をこなし、自分の手からようやく離れる頃合いになってもまだ生き延びていて。

 入れ替わりの激しい業界で、同じ場所を管轄しているからか、二年経っても、三年経っても、彼女達と変わらず顔を合わせていた。


「ハクくんってさ、中々死なないよね!」

「それ、明らかにこっちのセリフなんだけどガキンチョ二名?」

「……あ、幹部昇格おめでとう。お祝いに、私はパンケーキなるものを食べてみたい」

「私も私もっ!」

「しれっと俺が驕る流れになるのか……おめでとうって言われた立場なのに」


 本当に気が付けば。

 自分がようやく幹部に上がって、追ってくるように少女達も幹部になって。

 同じような立場になったからか、余計にも一緒にいる時間が多くなって。


「ハクくん、これ見て! お姉ちゃんにピッタリなぬいぐるみ見つけてきたの! お姉ちゃん喜ぶかな!?」

「……ハク、見て。この前、街でロニエにピッタリなぬいぐるみ見つけた。いきなりあげたらサプライズ的な感じで喜んでくれると思う?」


 妹はどこかしっかりとネジが飛んでいる。

 捨て子だからか、生きている実感を痛みとスリルの中でしか見出せない。

 姉はしっかりしているようで冷徹だ。

 必要なことであれば容赦なく事を遂行しようとしてみせる。

 それでも、どこか子供らしい部分はしっかりとあって―――


(……俺もどうかしている)


 自分が一番。

 他者のことなど、自身のことに対してであれば二の次。

 変わらない。その部分は、この先も変わることはない。


 だけれど、二人と一緒に過ごしてしまうと……どうしても、抱いてしまうのだ。


「……ハクって、お兄ちゃんみたいだね」

「あー、確かにっ! ハクくん、お兄ちゃんだ! そんな感じするっ!」


 こればっかりは、もうどうしようもない。



 ♦♦♦



(あぁ……ほんと)


 こんなことを思ってしまうなんて、自分らしくもない。

 けれど───


「あの中じゃ、俺はお兄ちゃんだからね……」


 のだから、本当に仕方ない。

 故に、ハクはユリスが近づいてくる前に───視線を向けた。


(逃げられる可能性はある)


 みっともなく、手段を選ばず回れ右をすれば恐らく。

 可能性は低いけれども、少しでも可能性があるのであれば逃げる方に賭けるべきだ。

 しかし、もしも。

 もしも、自分以外の二人がこの状況で生き残っているのであれば。

 きっと、ギルドに帰ったところで、幹部として依頼を達成できなかった責任を問われて殺されてしまうだろう。


(だから、最後ぐらい)


 どうしようもない、この抱いてしまった感情に従って行動してみよう。


「最後の悪足掻き……精々、一緒に地獄に堕ちてみようかッ!」


 そして、自身の喉元へ持っているナイフを突き立───


「悪足掻きって思ってんだったら、控えろ三下」


 ───ハクの魔法の対象は、あくまで目視で捉えた人間のみに該当する。

 何せ、対象を選択しなければ移し先が宙に浮いて行き場を失うから。


 だからこそ―――、意味をなくしてしまう。


「……クソッタレ」


 ハクは聳え立つ氷の壁を見て苦笑いを浮かべ、ナイフをそっと下ろした。


「君のこと、一気に嫌いになったよ」

「安心しろ」


 そして、次の瞬間。

 ゴッッッッッッッッッッ、と

 鈍い音を立て、ハクの頭に大槌が叩き込まれた。


「俺は初めから、お前のことが嫌いだよ」


 ハクの体が、力なくその場に崩れ落ちる。


 ―――ゲームに出てくる、出てこない関係のないギルドの幹部達が集った最終局面クライマックス

 こうして、シナリオ外のイベントは悪役ヒールの手によってすべて幕を下ろした。

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