先輩

 王都の騎士団は基本的に多忙だ。

 任務で各地を転々とすることが多く、拠点である王都にまで戻ってくることは少ない。

 そのため、皆で仲良く汗水流して特訓をしたり、和気あいあいと食事を取ることも滅多にないのだ───


「団長は帰ったよ」

「帰ったの!?」


 初めての任務が人助けになり、頑張って長い距離を歩け歩けしたあと。

 前に一度に訪れた騎士団の拠点へ戻ると、いきなりそのようなことを言われた。


「あいつ、やることまだ残ってるのに帰りやがった……ッ! 特に部下への労いとか部下からの文句とか全部捨てたぞ!? 俺達は地味にリサイクル可能なおしぼりか!?」

「まぁまぁ、落ち着きたまえ。帰ったというよりかは、そのまま別の任務に向かったという形だよ。元より、団長は多忙なスケジュールを無理に開けて君達の担当になったからね」


 そう言って、目の前に立つ女性。

 ライトブルーの長髪をと長い剣を携え、一際大人びた印象を与える。

 騎士団へ戻ってくると、真っ先に出迎えてくれた。

 彼女は―――


「セリア・アルスタだ。これから直属の上司及び人生で初めての教育係になるわけだが……まぁ、よろしくお願いするよ」


 ―――ヒロインではない。

 こんなキャラクター見たことはない。

 だからからか、ユリスの瞳から薄っすらと涙が浮かんでしまった。


「よろしく、お願いします……ッ!」

「……彼、今回の試験で辛いことでもあったのかい?」

「気にしないでください」

「ご主人様は涙腺が主婦のお財布ぐらい緩いので」


 最近、女性と言えばヒロインみたいなところがあった。

 久しぶりにそういうことがなく嬉しく思ってしまったのだが、三人にはどうやら通じなかったようで。

 不思議に思ったセリアは首を傾げたが、とりあえず背中を向けて歩き出した。


「まぁ、君達も疲れているだろう。まずは宿舎まで歩きながら色々説明していこうか」


 セリアが先導する後ろを、ユリス達はついて歩く。


「基本、騎士団はいつでも駆けつけられるようにするために宿舎で暮らす。といっても、世帯を持ち出したり特別な理由があれば宿舎の外でも暮らせるようになる」

「特別な理由というのは?」

「ここにいるのは大半が貴族だからね。その務めを果たさなければならない場合も多くある。たとえば団長とかは、伯爵家の当主だ。そちらの責務の残っているため、宿舎を離れることが容認されているのだよ」


 といっても、大半が任務で残らないのだがねと。

 セリアは苦笑いを見せる。


「……ということは、ご主人様の子供を生めばよく分からない鳥かごから二人で逃げ出すことが可能」

「せんせー! なんか横で少し恐ろしいことを呟く美少女がいます!」

「ちなみに、この騎士団内で結婚した騎士は何人かいるよ」

「本当ですか!?」

「待って、なんで後押しした!?」


 やはり女の子の味方は女の子なのか。

 いきなり物騒な可能性をさらに高めてくれたセリアに、ユリスは驚いてしまう。


「あとで案内はするが、団長や副団長から直々に招集がなければ鍛錬はほとんど自主的に行う」

「そうなのですか? 私が聞いた話は、常に決まった時間に皆が鍛錬を行うものだと……」

「ふふっ、団長の娘さんはよく調べているね。リーゼロッテちゃんの言う通り、他の騎士団では統率力を高める意味合いも込めて皆で訓練するが……そもそも、王都の騎士は多忙で集まることが難しいんだ。そのため、その制度は実行ができない」


 王都はエリートの集まり。

 どの騎士よりも実力が認められた者が集まるため、与えられる任務も集中しやすい。

 毎日一緒にいられるわけもないのに、一緒に訓練など難しいのだ。


「君達も、すぐに任務が与えられるようになるさ。初めは三人で一緒に行動することも多いとは思うよ。あと、お目付け役のボクもね」


 ブラックな企業に入ってしまったなぁ。

 なんて、セリアの話を聞きながら遠い目を浮かべるユリス。

 すると―――


『……おい、あいつ』

『あぁ、団長の言っていたユリス・ブランシュだ』

『栄誉ある王都の騎士団にどうしてあんなやつが……団長は一体何を考えているんだ?」


 歩いていると、どこかからか聞こえてくる声。

 チラリと視線を向けると、騎士の何人かが鋭い嫌悪するような視線でユリスを見ていた。


「ふふっ、やはり君は有名人だね」

「あの視線が熱狂的な黄色い視線だったら、俺も喜んだんでしょうけど……」


 突き刺さっているのは、ファンからの熱い視線ではなく悪評通りの反応。

 命の危険があるものではないからまだ大丈夫だが、どこに行っても反応が変わらないことは辟易としてしまう。

 一方で―――


「ご主人様、処して来てもいいでしょうか!?」

「ダメだぞぅー? 餌はあとでちゃんとあげるから、大人しくするんだハウス」

「ユリスの魅力に気づかないなんて、王都の騎士団も落ちぶれたわね」

「待て、主語を大きくするんじゃない! 誰かに聞かれたらどうするの委員長枠でしょあなた!?」


 大好きな人を馬鹿にされた乙女二人は許せなかったようで。

 誰に聞かれても怒られそうなことを発言しやがった。


「……そういえば、セリアさんはあちら側に回らなくていいんですか? 俺のこと、知ってるんじゃないですか流れ的に?」

「君の話はよく聞いてるよ、これでも貴族の端くれだからね。けれど、なんだ。だから、あちら側に回るかどうかはこれからの君次第だね」


 そう言って、柔和な笑みを浮かべるセリア。

 赤の他人の第一印象。今まで否定的だった分、ユリスの胸に込み上げてくるものがあった。

 だからこそ、嬉しく思ったのだが―――


「そういえば、部屋は余っているし男女別々ということも可能なのだけど……どうする? 三人部屋なのだが、必要かい?」

「「一緒でいいです」」

「分けろよ男女で! なんで一般的な常識とモラルをここで持ち出さない!?」

「言い忘れていたが……ボクは少々、いたずらが好きなんだ」

「チェンジ! 一瞬「この人が上司でよかった」とか思ったけどチェンジで! 冷たい視線でもいいから、せめて倫理観と常識を兼ね備えた人をお願いしますッ!」


 とはいえ、一度決まったものは中々覆せないもので。

 ユリスの主張は虚しくも無視され、寮に向かうため楽しそうな表情を浮かべるセリアは先を歩くのであった。




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