戦闘が始まって
戦いが始まってから約三分。
激しい衝撃音が空間に響き渡る中で、リーゼロッテは一人驚いていた。
(ほんと、なんなのよこの主従……)
八メートルほどの猛威が、柱を砕きながら襲う。
延長線上にいた野盗達から悲鳴と血飛沫が上がり、空間が一気に
「はっはァーッ! さぁさぁ、頑張って逃げないとこの美少女メイドちゃんが斬り潰しちゃいますよ!? ゴキブリはゴキブリらしくしぶとく生き残ってみてください!」
もちろん、この
華奢な体に華奢な腕。にもかかわらず、鋭利な刃がついた蛇腹の剣を軽々と振り回している。
振り回せるだけでも充分恐ろしいのだが、一番の問題は軌道だ。
鞭のようにしなるため、まず軌道が読みずらい。遠心力が加わっているからこそ、防いだとしても吹き飛ばされる。しかし、避けられなければ胴体と下半身が真っ二つに斬られてしまう。
(普通、リーチが長ければ長いほど、死角が増えやすいものなのだけれど……)
アイリスは、まず近づかせない。自分も動かない。
その代わり、懐に突っ込んでくる敵を的確に遅れて現れる
素晴らしい視力と戦闘経験値だ。もう、そうなれば遠距離から放たれる矢も魔法も関係ない。
進路や攻撃先が読まれているのであれば、ただ剣を振るうだけで敵を潰せる。
(私はこの子の死角を守るだけで精一杯だっていうのに……!)
実力差と才能を痛感させられる。
自分はアイリスの届き難い死角に周り、隙を作らせないよう襲ってくる敵を斬り伏せるだけ。
難易度は言わずもがな。右も左も後ろも気にせず、ただ追い込まれやって来る正面の敵にしか注力していればいいのだから、かなり楽である。
(はぁ……ユリスのサポートができるって息巻いていたけれど、この子がいる限りまだ精進しなくちゃいけないみたいね)
リーゼロッテは剣を握り締める。
『死ねや、ガキがァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』
そして、アイリスのサポートをするような形で剣を振るう。
───一方で、アイリスもまた右側面にいるリーゼロッテに対して少し驚いていた。
(ぐぬぬ……やるじゃないですか)
自分の武器は、一般的に誰もが使うようなものではない。
小回りが利かず、威力が大きい分死角も生まれやすい。
己が愛用する武器だ。どう振ればどこに死角ができるかは知っているつもりでいるし、そこを潰しながら立ち回っている。
しかしながら、どうしても腕を振る右側面は埋めようのない死角ではあった。
そこを、リーゼロッテはカバーしている。
飛んでくる矢も、魔法も、突っ込んでくる敵も、しっかりとアイリスへと届かせないよう立ち回っていた。
(初めて見る武器で、初めましての相手なのに……よくもまぁ、完璧にサポートできるものです。戦い方が、お母さんみたいな熟練さなんですけど)
ケッ、と。
アイリスは吐き捨てるようにボソッと───
「……
「おいこらクソチビ! 聞こえてるんだからね同い歳ッ!」
個人の実力で言えば、正直アイリスやユリスには届いていない。
だが、それ以上の洞察力、戦況や味方の把握能力。
流石は、エリートしか集まらない王都の騎士団に選ばれるだけのことはある。
(こういうサポートの仕方もありましたか……ッ! どうしてご主人様は私の気持ちを無視して、優秀な伏兵を引っ掛けてくるんですかね!)
けれど、だからといって。
立場も経歴も違うけれど───
((
───この女には負けない。
そんな乙女の対抗心が、今ここで芽生えてしまった。
♦️♦️♦️
そして、二人の女の子に想いを寄せられている男はというと───
『な、なんじゃこりゃ!?』
『足元が固まって……ッ!?』
『魔法だ! もう魔法でいいから撃ちまくれ!』
長い廊下を抜けた先。広々とした空間。
そこで、上にいた野盗達以上の人数に囲まれていた。
ただ、その大半はすでに綺麗な氷のオブジェと化していたが。
(今思ったけどさ、これ入りたてのバイトにやらせる任務じゃねぇだろ……)
飛んでくる火の玉。そこへ剣身を伸ばした剣を振るい、氷漬けにする。
(もうゴキブリよゴキブリ! もしくは蜂! 紙一枚しか用意できなくて書けなかったとしても、もうちょっとしっかり内容記載しとけクソ
駆け寄ってきた男の頭蓋を掴む、地面に叩きつける。
剣を振るう。届かない距離にいたはずの魔法士を氷漬けにする。
「クソ共、歯を食いしばれ……誰かを不幸にしたツケを払う時なんだからな!」
そんなやり取りを、もう何度繰り返したことか? 目に見えて数は減ったものの、労働具合いはかなりいいところまでいっていた。
(……ここで引き下がるわけにはいかない)
ここで失敗でもすれば、再び舞台に立たされる恐れがある。
だからこそ、拳を握れ。
「俺は、こんな
ユリスは、白い息を吐きながら引き続き氷の猛威を振るっていく───
───それから、ようやく。
数分……いや、十数分ぐらい経っただろうか?
周囲は所々綺麗な氷が張られており、大量の氷のオブジェが地面に転がる。
魔法を使い続けたせいか、ユリスが吐く息はすべて白く、辺りに静けさが広がった今でも、まだ口から出る空気が透明にはならない。
(ほんと、ちゃんと任務の内容ぐらい記載しとけよな……)
ザクッ、と。
ユリスは氷の上を進む。
そして───
「……こんな
───ユリスの足を進めた先。
そこには、銀世界によく似合う髪をした女の子が、意識を失ったまま寝かされていた。
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