合格通知

 さて、無事に試験も終わり。

 なんだかんだ一週間も経ってしまったある日。

 ユリスの下に、一通の手紙が届いた───


「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっくッッッ!!!」


 昼下がりの陽気が広がる伯爵家の屋敷にて、少年の声が響き渡った。

 屋敷で働いていた人間は少し驚いたものの、すぐさま業務に戻っていく。

 そして、同じ部屋にいてユリスを模した人形を手作業で作っているアイリスもまた、さして気にした様子もなく手を動かしていった。


「大胆なお誘いですね、ご主人様。これじゃあ、秘密で愛の関係性も屋敷の人に筒抜けですよ」

「筒抜けになるようなやましい関係性はないが!?」

「でも、今日はダメです。渾身の勝負下着ひもパンを洗濯してるので」

「いや、だから十三歳の背伸びおぱんちゅに興味は───」


 スパァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!


「………………」

「………………」

「……興味が、なんですって?」

「ひ、ひもパンはとりあえずやめた方がよろしいかと……」


 どうやら、お子様扱いは嫌なお歳頃のようで。

 首の心配をしてしまいそうになる絵面になったユリスは、そっと叩かれて腫れた頬を押さえた。


「それで、夜のお誘いじゃなかったら、なんなんです? そんな過激な脅迫文でも届きましたか?」

「あぁ、新手の脅迫文が届いた」


 これを見ろ、と。

 真剣で鬼気迫った顔をするユリスはアイリスへ手紙を渡した。

 そして、そこに書かれてあるのは───採用通知書、と大きく書かれた騎士団からのものであった。


「いいじゃないですかおめでとうございます。夕日に向かって汗水流した努力が報われたじゃないですか……もっと喜んでもいいと思いますけど。ちなみに、私のところにも届きました♪」

「そうだな、よかったと思う。これで俺は学園に通わずに済む」


 だったら、何故そんなにも嫌そうにするのだろう?

 そんな疑問を覚えていると、ユリスが紙の途中部分を指差し───


なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」


 王都は学園に近い。

 外を出歩いただけでヒロイン達との接触もあるかもしれないし、何よりお偉いさんと顔を合わせる機会だって多い。

 だからこそ、田舎の配属を望んでいたのだが……蓋を開けると、誰もが憧れる王都である。


「俺は田舎でモフモフなケモ耳っ子とスローなライフを送るつもりだったの! それが何故お金と名誉と命の危機が詰まった過激な職場になるわけ!?」

「そりゃ、試験開始数秒で皆さんをノックダウンしたからでは?」

「……ちなみに、アイリスはどこ配属?」

「王都ですね」


 わぁっ、一緒だー。

 ユリスの瞳に涙が浮かんだ。


「……こうなれば、美少女アイリスと同じ環境になれたってポジティブな考えをしよう。もしかすると、田舎は野郎の裸瞳のウイルスで溢れ返っているかもしれないし」

「しょ、正面から美少女って言われると照れるんですけど……そこまで言ってくれるのに異性として見られないって、私達の間の障害が気になるところです……ッ!」


 恐らく、立場かヒロイン的な問題なのだろうが、それをアイリスが知る由もなく。

 頬を赤らめながら、言葉通りの美少女は小さく首を傾げるのであった。


「んでさ、一個気になったことがあるんだけど……」


 ユリスがさらに下の部分を指差す。


「『入団日までに各自任務を与える』ってなに? しかもさ、ご丁寧に遂行できなかったら取り消しとか悲しい文言がある」

「本当ですね? 綺麗に手紙一枚で上げて下げるっていう高等テクニック使ってますよ」

「そういうのは恋愛面で使ってくんねぇかなぁ……俺の好感度上げようとするのはいいけど、差出人絶対に男だろ」

「上げて下げたんだったら、きっちりフラれてますけどね」


 先程まで「やった、合格した!」と喜んでいたのに、二人の顔にはげんなりとしたものだ。

 きっと、他の人間も同じような顔をしているか、罵詈雑言を吐いていることだろう。


「……まぁ、流石に無理難題を与えるわけはないよな」

「一応、試験を合格にさせた人間が本当に騎士になれるかの最終チェックみたいなものだと思います。過激なイベントを開けばそれこそ騎士団にバッシングの嵐が届きますよ」

「この時点で色々各種方面からバッシングが届きそうなものなんだが」


 ユリス達は知らなかったが、これはおおよそアイリスの見解が正しいものである。

 実力は分かった、最低限の教養があるのは分かった。

 ただ、騎士団の業務は大抵が実践。必ずしも集団で動くわけではないので、これをこなせなければそもそも騎士としての土俵にすら立てない。

 だからこそ、お目付け役を一人つけて宿題のような形で最終試験を行うのだ。


「けど、ご主人様なら大抵は大丈夫じゃないですか? ほら、魔物を討伐したり色々経験積んでますし」

「ふふふ……お嬢さん、そういう発言はすぐフラグが立つんだよふふふ」

「フラグかどうかは、もう一枚の紙を見て判断にしましょう!」


 ユリスはアイリスと一緒にもう一枚同封してあった紙を捲る。

 すると、そこには───



『王都近郊で多発している行商人襲撃の鎮圧』


・同行者 

 王都第一部隊騎士団長───グラム・カラン


・対象者

 王都第一部隊団員───ユリス・ブランシュ

 王都第一部隊団員───リーゼロッテ・カラン

 王都第一部隊団員───アイリス

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