騎士団試験
騎士団の試験は、それぞれ各地で行われる。
王都や公爵領といった主要の街に駐屯している騎士団が、応募してきた面々の筆記や実技の対応をする。
基本、騎士団は治安の維持のための国内各地に駐屯しているものの、恐らく騎士になりたい若者は主要の街での勤務を望むだろう。
何せ、主要な街ほど実力者が集い───出世していると言われるからだ。
実際に主要都市で勤務していると給金が上がったり、本来手の届かない相手との縁が作れるため、誰もが憧れて目指す場所。
とはいえ、ユリスとしては逆に地方のどこかにでも飛ばしてほしい気持ちであった。
出世街道を進めば、皆が関係値を作りたいお偉いさん……ヒロイン達に接触してしまう恐れがある。
せっかく学園から離れ、高卒で社会人みたいな形で騎士団に入ろうとしているのだ。下手に関わりなんて持ちたくはない。
しかしながら、いい成績を残して出世街道に進まないよう試験で手抜きをするわけにもいかない。入団できないと元も子もないのだ。
だから、ユリスは入団試験をとりあえず全力で臨むことにした───
「なんだかんだ、カンニングする必要ないぐらい簡単だった」
「ですね、アイリスちゃんなんて途中から欠伸が止まらなかったですもん」
───そして、試験当日。
割り当てられた王都に駐屯している騎士団の施設へと足を運び、筆記試験を終えたユリス達は近くのベンチでそんなことを口にしていた。
「運動でお金を稼ぐ職業って、やっぱり頭の中身は二の次なんだな。ワンチャン、頭がすっかすかでも大胸筋ヒクヒクさせとけば合格できるんじゃね?」
「すっかすかだと、ロクな会話ができそうにないと思いますけど……これで同期との交流の会話が知能指数の低いピンクな話ばっかりだったら、私は暴れる自信があります」
「まぁ、アイリスは可愛らしいから同年代からしたらピンクなお話の的になるかもなぁ」
「ご主人様以外の人からのピンクい視線とか鳥肌ものなんですけど」
なんて、失礼なことを口にする主従二人。
それほど筆記試験の内容が簡単すぎて拍子抜けしたのだろう。
「んで、次は実技試験だったか? さっきの筆記がお遊戯だったとして、次は一発本番のコンクール?」
「騎士に必要なのは最低限の礼節に治安を守るための腕っ節ですもんね。ここが本番です」
「……なんだろう、そう言われると一気に緊張感が」
「緊張をほぐすのもメイドの務め……膝枕しましょうかしたいですっ!」
「ふふふ……お嬢さん、ここは公衆の面前なんだよふふふ」
この試験場にいるのはユリスだけではない。
試験を受けに来た、平民貴族問わないユリス達同年代の子供達、働いている甲冑を纏っている騎士達。
今も、視線を上げれば何人もひっきりなしに目の前を通り過ぎている。そんな中で群を抜くほどの美少女が膝枕でもすれば、間違いなく注目を集めることになるだろう。
ただでさえ───
『ねぇ、あそこにいるのって……もしかして、ユリス・ブランシュじゃない?』
『うわっ、なんで貴族の恥さらしが騎士団の試験を受けてんだよ』
『どうせ遊びにでも来てんだろ。自分だったら騎士になれるとでもいつもみたいに思ってんじゃね?』
『っていうか、なんか痩せてね……?』
通り過ぎる人間からのヒソヒソとした声が向けられる。
それは主にユリスのことをよく知っている貴族の子供達から向けられたもの。
聞こえてくる会話を纏めると、どうやら「恥さらしのくせに自分が騎士になれるとでも思っている」、「無理に決まっている」といった相変わらずの評判通りのもの。
(最近、屋敷で聞かなくなったから忘れてたけど……やっぱり、
社交界に顔を出さないユリスは、その蔑んだ視線と声に不思議と懐かしさを覚えてしまっていた。
一方で───
「はぁ? なんなんですかあいつらは!? ご主人様の魅力に気づかず馬鹿にするとか「ピー(※自主規制)」ですかね!? もういっそのこと「ピー(※自主規制)」して「ピー(※自主規制)」したあとに「ピー(※自主規制)」、「ピー(※自主規制)」してやりましょうかゴラァッッッ!!!???」
「こらこらこら」
ご主人様Loveな女の子は、大変憤っていた。
それこそ、可愛い女の子の口から出てくる言葉の節々が筆舌するのを憚られるほどに。
「落ち着け、過激少女。もう淑女とは思えないほど発言がアウトなラインを踏んでいる。俺達が考えるべきは、実技試験だけ……分かったな?」
「……分かりました」
アイリスは大きく深呼吸を挟み、しっかりと力強く頷いた。
「実技試験で処すればいいんですね?」
「分かってくれなかったか」
可愛らしく頬を膨らませ、不満だとアピールするアイリス。
そんな女の子を見て小さくため息をつくと、ユリスはヒソヒソと話している人間をボーッと眺めながら───
「別に、俺は誰になんと言われても気にしちゃいないよ」
「……ほんとです?」
「しょ、正直に話をすれば心にくるものはある……!」
ただ、と。
ジト目を向けるアイリスを他所に、ユリスはさり気なく口にする。
「傍にいてくれる誰かが認めてくれれば、それだけで救われてるよ。だから、アイリスには感謝してる」
ヒロインに対しての真っ直ぐな気持ち。
嘘偽りないというのは、声音と表情でよく分かった。
だからからか、ユリスの想いを一身に受けたアイリスは思わず顔を真っ赤にさせてしまう。
「そ、そうでしゅか……」
「……そんなに変なこと言ったか?」
「い、言いましたけどっ!? ご主人様はたまに
もう、撫でてください! と。
お詫びを求めるように頭を差し出してくる。
(……まぁ、膝枕よりかはいいか)
そんな隠しヒロインの姿を見て、ユリスは苦笑いを浮かべながらも要望通り優しく頭を撫でるのであった。
『ねぇ、今日の実技試験に王女様来るんでしょ?』
『顔覚えてもらいたいよね! そしたらさ、出世街道まっしぐらじゃない!?』
『ばかっ、俺達みたいな騎士志望に興味なんて持ってもらえるわけねぇだろ』
『ねぇー……でも、お話一回はしてみたいなぁ』
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