赤髪のヒロイン
次回以降は毎朝9時のみの更新です!( ̄^ ̄ゞ
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「ふぅ……なんか最近、自分の服が血で汚れることに抵抗を覚えなくなってきたな」
狼のような魔物を斬り伏せ、ユリスは額に浮かんだ汗を拭う。
騎士団というからには、治安維持のために魔物を狩ることだってあるはず。
そのため、ユリスは実戦経験を積むために何度も魔物が出そうな場所に足を運んでは、こうして討伐していた。
貴族の子供がこうして実践できているのは、当主が基本的放任主義だからか、はたまたお目付け役のアイリスの実力を信頼しているからか。
いずれにせよ、こうして伸び伸び経験を積ませてもらっているのはありがたい話だ。
少し前までは生き物を殺すだけでも抵抗があったのに、おかげで今では気にせず首ちょんぱができるようになった。
(とは言いつつ、実際に騎士団に入るような人間だったらこれぐらい当たり前のようにしてるだろうし……裏口入学とか、なんか分かりやすいサンタさんからのプレゼントとかないかね?)
ユリスは血を布巾で拭い、足を進める。
「弱い弱い、まだまだ俺は弱い。クソッタレなシナリオに巻き込まれないためにも頑張りますかー」
実際に、本作では基礎ステータスを上げるための近道が存在しない。
筋力もコツコツ筋トレをして磨かなければならいし、剣術の腕も鍛錬あるのみ。
魔法に関しては近道はあったのだが、それ以外はゲームの知識があろうがなかろうが、地道な努力しか報われない。
だからこそ、この世界に染まるという意味合いも含めてこうして経験を積まなければならないのだ。
(これも自分の命のため……破滅フラグ旺盛な学園に入らないよう騎士団に入るんだ)
まぁ、離れてほしい
思い出して辟易とするユリス。
その時───
「ん?」
ドスドスッッッ!!! と。
視線の先にある木々が薙ぎ倒されている光景が視界に入った。
気になり、目を細めて思わず見入るように眺めてしまったユリス。
そして、ようやく木々が倒されている理由が開示される。
「ふざけ、るんじゃないわよ……ッ!」
甲冑を纏った一人の少女。
燃えるような真っ赤な赤髪を必死に靡かせ、こちらに向かって走っている。
加えて、その背後には高い木々と同じくらいはありそうな巨体を揺らす魔物が追いかけていた。
恐らく、赤髪の女の子が魔物から逃げているのだろう。その証拠に、纏っている甲冑はボロボロで、頬には明らかに魔物ではない血が付着している。
間違いなく、異常事態。進行方向的に、早く逃げないと合流することになるだろう。
ただ、ユリスは足を動かすことなく固まってしまった───
「なんで、ここにヒロインが……?」
ゲームに登場するヒロインの一人に、リーゼロッテ・カランという少女がいる。
代々、国を守る中心として活躍してきた騎士の家系のご令嬢であり、剣術を最も得意とする女の子。
しかし、伯爵家という貴族の娘が故に、騎士団に入ることなく嫁ぐための教養を学ぶ目的で学園へ入る。
誰よりも正義感に溢れ、貴族としての誇りを持ち、シナリオでも主人公と一緒に剣を交わしてきた少女である。
しかし、学園前に彼女のルートでこのようなシーンがあった覚えがなく、ユリスは思わず疑問を抱いてしまう。
「ちょ、なんでここに人がいるのよ……ッ!?」
見入ってしまっていると、ようやくリーゼロッテの方もユリスに気がつく。
「って、あなたはユリス・ブランシュ!?」
「ユリスくん本当に有名人で涙が出そう……!」
まだ舞台である学園で出会ってもいないのに、すでにヒロインに認知されている。
それが悲しくて、ユリスは思わず涙を浮かべて口元を覆ってしまった。
(なんでこんなところにこいつが!? いや、それよりもこのままだと私のせいで誰かを巻き込んじゃう……ッ!)
一方で、リーゼロッテは唇を噛み締めながら進めていた足を止めて魔物に剣を向ける。
「早く逃げて! こいつ、護衛の騎士団を倒すほど強い魔物なのよ!」
足を止めたことで、魔物も速度を落としてリーゼロッテ達の前へと立ちはだかった。
恐らく、様子見でもしているのだろう。唸り声を上げて、観察するようにこちらを見ている。
「私がなんとか時間を稼ぐから、その隙に……ッ!」
自分が巻き込んでしまった責任からか、それとも噂で聞くクズ息子が足手まといとでも思っているのか。
リーゼロッテは必死に、後ろにいるユリスへと向かって叫ぶ。
一方で───
(……あれ、サンドバッグで遊ぶにしてはシチュエーションがおかしいような? 当初の目的がすでに色んなオプションがついて原型なくなってるんだけど)
自分は剣で倒せるような魔物を探しに森を彷徨っていたはず。
なのに、目の前には明らかにサンドバッグにしてはサイズの大きい魔物の姿。
加えて、まだ会う予定のないヒロインが目の前にいる。
学園に通わなければ出会うことなんてないと思っていたはずなのに。
だからこそ、いきなりの登場のせいでユリスの頭の中に疑問が浮かび上がった。
(いや、それよりもまずはここからどうするかなんだが……)
ヒロインと関わりたくない。それは間違いない。
であれば、ここは素直に回れ右して立ち去れば、学園に通う予定のリーゼロッテとは今後も関わりを持つことも再会することもないだろう。
「……………………」
ただ、ここでヒロインが死んでしまったら?
もしも今ここに自分がいるからこのようなイベントが起こってしまったとしたら?
できることなら、騎士団に入るまではシナリオを変えたくはない。何せ、変えてしまったことで余計な相違が起こるとマイナスな方向へ事が進んでしまう恐れがあるから。
それに、そもそも目の前のボロボロになっている女の子の姿を見てしまった時点で―――
(はぁ……サンドバッグにしてはサイズ違いもいいところだけど、ここで見捨てるのもおかしな話だよな)
―――剣を握り、口から白く冷えた息を吐いた。
「……明らか発注ミスだけど、サンドバッグには変わりない、か」
そして、やることをやるべく真っ直ぐに魔物を見据えたのであった。
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