第3章:ルネサンスの輝き - オランプ・ド・グージュ

 週末の午後、永遠と花凛はリビングで勉強をしていました。

 そこへお姉ちゃんが、古びた本を手に現れました。


「おや、二人とも勉強熱心ね。でも、ちょっと休憩しない? 面白い人物を見つけたの」


 永遠が顔を上げます。


「面白い人物って?」


「オランプ・ド・グージュっていう18世紀フランスの女性よ。彼女の生き方、なかなかドラマチックなのよ」


 花凛が興味を示します。


「へえ、どんな人なの?」


 お姉ちゃんは椅子に座りながら話し始めます。


「オランプは1748年、フランスの地方都市モンタバンで生まれたの。本名はマリー・グーズ。裕福な家庭で育ったんだけど、若くして結婚して、すぐに寡婦になってしまったの」


 永遠が驚いた表情を見せます。


「大変だったんだね」


「そうね。でも、オランプはそこで諦めなかったの。パリに出て、独学で文学を学び、劇作家として活動を始めたのよ」


 花凛が思い出したように言います。


「あ、アスパシアも独学だったよね」


「よく覚えていたわ。オランプとアスパシア、時代は全然違うけど、似てるところがあるのよ。二人とも、女性が教育を受けることが難しかった時代に、自分の力で知識を得て、それを社会に還元しようとしたの」


 永遠が興味深そうに聞きます。


「オランプはどんな作品を書いたの?」


「最初は演劇作品を中心に書いていたわ。でも、フランス革命が始まると、彼女の関心は政治や社会問題へと向かっていったの」


 花凛が驚いた様子で言います。


「劇作家から政治活動家に? 大きな変化だね」


「そうね。でも、オランプにとっては自然な流れだったのよ。彼女は常に社会の不正義に敏感だったから。特に、女性や奴隷の権利に強い関心を持っていたの」


 永遠が少し考え込みます。


「でも、その時代って、女性が政治的な発言をするのは難しかったんじゃないの?」


 お姉ちゃんは頷きます。


「鋭い指摘ね。実際、オランプは多くの批判や中傷を受けたわ。でも、彼女はめげなかった。むしろ、そういった反発が彼女の信念をより強固にしたのよ」


 花凛が興味深そうに聞きます。


「具体的に、どんなことを主張したの?」


「オランプの最も有名な著作は『女性と女性市民の権利宣言』というものよ。これは、フランス革命で発表された『人権宣言』を女性の視点から書き直したものなの」


 永遠が驚いた表情を見せます。


「へえ、大胆だね」


「そうね。例えば、こんな条文があるの。『第1条 女性は自由に生まれ、権利において男性と平等である』。当時としては、革命的な考え方だったわ」


 花凛が感動した様子で言います。


「すごい! 今では当たり前のことだけど、その時代に言うのは勇気がいったんだろうね」


「その通りよ。オランプは、女性の参政権や教育を受ける権利、離婚の権利など、今では基本的人権とされていることの多くを主張したの。さらに、奴隷制の廃止も強く訴えていたわ」


 永遠が感心した様子で言います。


「先見の明があったんだね」


「そうね。でも、オランプの人生には苦難も多かったの。彼女は結婚生活でも不幸だったし、息子との関係も複雑だったわ。それでも、彼女は自分の信念を貫き通したの」


 花凛が不思議そうに尋ねます。


「息子との関係が複雑? どういうこと?」


 お姉ちゃんは少し表情を曇らせます。


「オランプの息子は、母親の思想に反発していたの。彼は王党派で、革命に反対していたのよ。親子の政治的対立は、オランプにとって大きな心の痛みだったと言われているわ」


 永遠が驚いた様子で言います。


「家族まで敵に回しちゃうなんて、大変だったんだね」


「そうね。でも、オランプはそれでも自分の信念を曲げなかった。彼女にとって、社会正義のために戦うことは、自分の存在意義だったのよ」


 花凛が真剣な表情で聞きます。


「オランプは、他の哲学者とも交流があったの?」


「良い質問ね。オランプは、当時のパリの知識人サロンに頻繁に出入りしていたわ。ヴォルテールやルソーの思想に影響を受けたと言われているけど、直接の交流があったかどうかは分からないの。でも、彼女の思想は、同時代の他の啓蒙思想家たちと共鳴する部分が多かったわ」


 永遠が少し考え込んでから言います。


「ねえ、お姉ちゃん。オランプの考え方って、ヒルデガルトとは全然違うよね」


 お姉ちゃんは嬉しそうに頷きます。


「よく気づいたわ。ヒルデガルトが神秘主義的な世界観を持っていたのに対して、オランプは徹底的に理性と平等を重視したの。時代による違いもあるけど、二人のアプローチの違いは興味深いわ」


 花凛が真剣な表情で言います。


「オランプの人生の最後はどうだったの?」


 お姉ちゃんは少し悲しげな表情を見せます。


「残念ながら、オランプの最期は悲劇的だったわ。彼女は『反革命分子』のレッテルを貼られ、1793年に断頭台で処刑されてしまったの」


 永遠と花凛は驚きの表情を見せます。


「えっ、処刑されたの!?」


 花凛が悲鳴を上げます。


「そう。オランプの最期は悲劇的だったわ。でも、彼女の思想は後の女性解放運動に大きな影響を与えることになったの」


 永遠が真剣な表情で聞きます。


「結局、オランプの思想はどう評価されているの?」


「オランプの思想は、長い間忘れられていたの。でも、20世紀になって再評価されるようになったわ。今では、フェミニズムの先駆者として高く評価されているのよ」


 花凛が感心した様子で言います。


「時代を超えて影響を与え続けているんだね」


「そうよ。オランプの生涯は、思想の力と、それを貫く勇気の大切さを教えてくれているわ。彼女は、不当だと感じたことに対して声を上げ続けた。たとえそれが自分の命を危険にさらすことになっても」


 永遠が少し考え込んでから言います。


「でも、声を上げることって、今でも難しいことがあるよね」


 お姉ちゃんは優しく微笑みます。


「その通りよ。だからこそ、オランプの生き方から学ぶことがあるの。不公平だと感じたことに対して声を上げる勇気。それは、学校や日常生活の中でも実践できることよ」


 花凛が決意を込めた表情で言います。


「私も、おかしいと思ったことには声を上げてみる」


 永遠も頷きます。


「うん、僕も。でも、どうやって?」


 お姉ちゃんは嬉しそうに答えます。


「まずは、身近なところから始めればいいの。例えば、学校で男女の扱いに違いを感じたら、それについて先生や友達と話し合ってみるのもいいわ。オランプのように大きな宣言を書く必要はないけど、小さな不公平にも気づき、それを指摘する勇気を持つことが大切よ」


 永遠と花凛は、真剣な表情でお姉ちゃんの言葉に聞き入ります。


「さあ、今日の最後に、ちょっとしたワークをしてみましょう。現代社会の中で、あなたたちが不平等だと感じることを3つ挙げてみて。そして、それをどうすれば改善できるか、具体的なアイデアを考えてみましょう。オランプのように、批判するだけでなく、具体的な提案をすることが大切よ」


 永遠と花凛は、真剣な表情でノートを取り出し、考え始めます。オランプ・ド・グージュの物語は、二人の心に新たな思索の種を蒔いたようでした。


### さらに調べてみよう


1. フランス革命について詳しく調べ、当時の社会状況を理解しよう。

2. オランプ・ド・グージュの『女性と女性市民の権利宣言』の全文を読んでみよう。

3. 現代の女性の権利に関する国際条約(例:女子差別撤廃条約)について調べ、オランプの主張と比較してみよう。

4. 他の18世紀の女性思想家(例:メアリー・ウルストンクラフト)の著作を読み、オランプの思想と比較してみよう。

5. 現代の社会運動や市民活動について調べ、どのような方法で社会変革を目指しているか考察してみよう。

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