第3章:ルネサンスの輝き - オランプ・ド・グージュ

# ルネサンスの輝き - オランプ・ド・グージュ


秋の日差しが窓から差し込む週末の午後、永遠と花凛はリビングで勉強をしていました。テーブルの上には参考書や問題集が広がり、二人は真剣な表情で問題に取り組んでいました。


そこへお姉ちゃんが、革の装丁が剥げかかった古びた本を手に現れました。本の背表紙には「フランス革命期の思想家たち」という文字が、かすかに読み取れます。


「おや、二人とも勉強熱心ね。でも、ちょっと休憩しない? 面白い人物を見つけたの。歴史の教科書にはあまり載っていないけど、とても重要な人物よ」


永遠が数学の問題から顔を上げます。


「面白い人物って?」


「オランプ・ド・グージュっていう18世紀フランスの女性よ。彼女の生き方、なかなかドラマチックなの。実は、私も大学の西洋史の授業で初めて知ったのよ」


花凛が興味を示し、鉛筆を置きます。


「へえ、どんな人なの?」


お姉ちゃんは二人の前の椅子に座りながら、古びた本のページを優しくめくります。


「オランプは1748年、フランスの南部にある地方都市モンタバンで生まれたの。本名はマリー・グーズ。父親は肉屋で、母親は貴族の血を引いていたと言われているわ。でも、彼女は正式な教育は受けられなかったの。当時は、女性が高等教育を受けることはほとんど不可能だったから」


永遠が驚いた表情を見せます。


「大変だったんだね。でも、どうやって作家になれたの?」


「そこが面白いところなの。オランプは16歳で結婚したんだけど、わずか2年で夫を亡くしてしまったの。その後、幼い息子を抱えてパリに出て、独学で文学を学び始めたのよ。彼女は昼間は家庭教師のアルバイトをしながら、夜は猛勉強したって言われているわ」


花凛が思い出したように言います。


「あ、アスパシアも独学だったよね。前に教えてくれた古代ギリシャの女性思想家」


「よく覚えていたわ。オランプとアスパシア、時代は全然違うけど、似ているところがあるのよ。二人とも、女性が教育を受けることが難しかった時代に、自分の力で知識を得て、それを社会に還元しようとしたの」


永遠が興味深そうに聞きます。


「オランプはどんな作品を書いたの?」


「最初は演劇作品を中心に書いていたわ。特に印象的なのは、『奴隷制の黒人、あるいは不幸な家族』という作品よ。これは、奴隷制度を批判した劇で、当時としては極めて革新的な内容だったの」


お姉ちゃんは本の一節を指さします。


「ここに面白いエピソードが書かれているわ。この劇が上演された時、観客の中から『女が政治的な主張をするなんて!』という野次が飛んだんだって。でも、オランプは動じなかった。むしろ、そういった反応こそが、彼女の主張が必要とされている証拠だと考えたのよ」


花凛が驚いた様子で言います。


「劇作家から政治活動家に変わっていったんだね。でも、どうしてそんな変化が起きたの?」


「きっかけは1789年のフランス革命だったわ。革命が始まると、パリは政治的な議論で沸き立ったの。カフェや街角で、人々は自由や平等について熱く語り合った。オランプもそういった場所に足繁く通い、多くの知識人と交流を持ったのよ」


お姉ちゃんは続けます。


「特に興味深いのは、オランプがコンドルセという数学者で哲学者の影響を強く受けていたことね。コンドルセは、教育の機会均等を主張していて、女性の権利にも理解を示していたの」


永遠が少し考え込みます。


「でも、その時代って、女性が政治的な発言をするのは危険だったんじゃないの?」


お姉ちゃんは頷きます。


「鋭い指摘ね。実際、オランプは多くの脅迫を受けたわ。特に印象的なのは、彼女が『女性と女性市民の権利宣言』を発表した直後のこと。何者かが彼女の家の壁に『売国奴』という落書きをしたんだって。でも、オランプはこう言ったそうよ。『私の言葉が人々を怒らせるのなら、それは私の言葉に真実があるからです』」


花凛が興味深そうに聞きます。


「その『女性と女性市民の権利宣言』って、具体的にどんなことが書かれているの?」


「とても画期的な内容なの。例えば、こんな条文があるわ」


お姉ちゃんは本を開き、声に出して読みます。


「『第1条 女性は自由に生まれ、権利において男性と平等である』

『第10条 女性は、公の場で自分の意見を表明する権利を持つ』

『第13条 女性は、納税の義務を負うのであれば、その使途を決定する権利も持つべきである』」


永遠が感心した様子で言います。


「今では当たり前のことだけど、その時代に言うのは勇気がいったんだろうね」


「その通りよ。特に興味深いのは、オランプが単に権利を主張するだけでなく、具体的な社会制度の提案もしていたことよ。例えば、彼女は離婚の権利、女性の財産権、職業選択の自由なども訴えていたの」


お姉ちゃんは続けます。


「さらに、オランプには面白いエピソードがたくさんあるの。例えば、彼女は『市民劇場』というものを提案していたのよ。これは、演劇を通じて市民の政治教育を行おうという画期的なアイデアだったわ。残念ながら実現はしなかったけれど、芸術と政治教育を結びつけようとした先駆的な試みとして評価されているの」


花凛が不思議そうに尋ねます。


「息子との関係が複雑だったって本当?」


お姉ちゃんは少し表情を曇らせます。


「ええ、これは特に悲しいエピソードね。オランプの息子ピエールは、母親とは全く違う政治的立場を取ったの。彼は王党派で、革命に反対していた。実は、オランプが処刑される直前、息子に宛てて長い手紙を書いているの」


お姉ちゃんは本のページをめくり、手紙の一節を読み上げます。


『愛する息子よ。私たちの意見は違えども、あなたは私の最愛の子です。私が信じる正義のために死ぬことになっても、それはあなたへの愛情を否定するものではありません。ただ、未来の世代のために、今、声を上げなければならないのです』


永遠が驚いた様子で言います。


「家族まで敵に回しちゃうなんて、大変だったんだね。でも、そこまでして主張を貫いたのはなぜ?」


「オランプには強い信念があったのよ。彼女はこう書き残しているわ。『私たちの世代で変革を成し遂げられなくても、種を蒔かなければ花は咲かない。たとえその花を見ることができなくても』」


花凛が真剣な表情で聞きます。


「オランプの最期はどうだったの?」


お姉ちゃんは静かに答えます。


「1793年11月3日、オランプは断頭台で処刑されたの。最期まで毅然とした態度だったって言われているわ。処刑台に向かう途中、こう言ったそうよ。『私の死が、自由のための種となることを願います』」


永遠と花凛は深い感動を覚えた様子です。お姉ちゃんは続けます。


「でも、オランプの物語はここで終わらないの。彼女の思想は、19世紀の女性参政権運動に大きな影響を与えたわ。特に印象的なのは、1848年にアメリカのセネカフォールズで開かれた女性の権利を求める集会で、オランプの『権利宣言』が参考にされたことよ」


花凛が決意を込めた表情で言います。


「私も、おかしいと思ったことには声を上げてみる」


永遠も頷きます。


「うん、僕も。でも、どうやって?」


お姉ちゃんは優しく微笑みます。


「まずは、身近なところから始めればいいの。例えば、学校で男女の扱いに違いを感じたら、それについて先生や友達と話し合ってみるのもいいわ。オランプのように大きな宣言を書く必要はないけど、小さな不公平にも気づき、それを指摘する勇気を持つことが大切よ」


永遠と花凛は、真剣な表情でお姉ちゃんの言葉に聞き入ります。


「さあ、今日はちょっとしたワークをしてみましょう。現代社会の中で、あなたたちが不平等だと感じることを3つ挙げてみて。そして、それをどうすれば改善できるか、具体的なアイデアを考えてみましょう。オランプのように、批判するだけでなく、具体的な提案をすることが大切よ」


永遠と花凛は、真剣な表情でノートを取り出し、考え始めます。オランプ・ド・グージュの物語は、二人の心に新たな思索の種を蒔いたようでした。


### さらに調べてみよう

1. フランス革命について詳しく調べ、当時の社会状況を理解しよう。特に、「人権宣言」の内容とその意義について考察してみよう。

2. オランプ・ド・グージュの『女性と女性市民の権利宣言』の全文を読んでみよう。現代の人権概念との共通点と相違点を探してみよう。

3. 現代の女性の権利に関する国際条約(例:女子差別撤廃条約)について調べ、オランプの主張と比較してみよう。特に、教育や参政権に関する条項に注目してみよう。

4. 他の18世紀の女性思想家(例:メアリー・ウルストンクラフト)の著作を読み、オランプの思想と比較してみよう。どのような共通点や相違点があるだろうか。

5. 現代の社会運動や市民活動について調べ、どのような方法で社会変革を目指しているか考察してみよう。SNSなど、新しい表現手段の可能性についても考えてみよう。


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