第6話 真相の解明

夕暮れが近づき、ヘンリー館に陰が落ち始めていた。館の大広間には、薄暗い光の中で静かに重い空気が漂っていた。ポアロは、いつも通りの落ち着いた足取りで部屋の中央に立ち、家族全員を集めていた。サー・ヘンリー、レディ・イザベル、そしてメアリーが並んで座り、それぞれの顔には異なる表情が浮かんでいた。サー・ヘンリーは重苦しい沈黙の中で腕を組み、レディ・イザベルは冷静な態度を保ちながらも、その瞳に隠しきれない不安を宿していた。メアリーは何かを告白する準備ができているかのように、震える手を膝に置いていた。


「皆さん、ついに真実が明らかになる時が来ました。」ポアロは静かに、しかし確信を持って言った。彼の声が広い大広間に響き、家族全員の注意が彼に集中した。


「まず、この事件は一見複雑に見えますが、全てはある一つの事実に結びついています。それは、家族の秘密、そして肖像画の消失がこの秘密と深く関わっていることです。さらに、ジョージさんが襲われた理由も、この家族に隠された過去にあるのです。」


ポアロは、ゆっくりと部屋を歩きながら話し続けた。「ジョージさんは、ある日古い文書を見つけました。それは、家系図とともに、家族の過去に関する重要な情報が記されていたものでした。サー・ヘンリー、あなたもその存在を知っていたのではないですか?」


サー・ヘンリーは微かに動揺した様子を見せたが、すぐにその表情を抑えた。「そうだ、ポアロ。その文書は、私の祖父が残したものであり、我が家の過去にまつわる記録だ。しかし、それが今、何の関係があるというのか?」


「それが、この事件の核心なのです。」ポアロは軽く頷きながら、続けた。「その文書には、ある重大な事実が記されていました。それは、ジョージさんが実は、この家の直系の血筋ではなかったということです。」


部屋全体に冷たい沈黙が走った。メアリーの顔は真っ青になり、サー・ヘンリーも言葉を失ったように目を見開いた。


「ジョージが……直系の血筋ではない……?」サー・ヘンリーがかすれた声でつぶやいた。


「そうです。ジョージさんは、あなたの兄弟の子供として育てられましたが、実は彼の父親は本当のヘンリー家の血を引いていなかったのです。」ポアロは厳しい声で言い放った。「この事実を知ったジョージさんは、家族に告げるべきか悩んでいた。しかし、彼がそのことを知っていると気づいた者がいました。そして、その人物はこの秘密が明らかになることを恐れ、彼を襲撃し、口を封じようとしたのです。」


ポアロはその瞬間、メアリーの方をまっすぐに見つめた。「メアリーさん、あなたが何を隠しているのか、私にはわかっています。あなたがその夜、ジョージさんの部屋に入ったのは、彼を傷つけるためではなく、彼がその文書を見つけたことを知ってしまったからです。そして、それを利用しようと考えた。」


メアリーは顔を背け、必死に冷静を装おうとしたが、ポアロの鋭い目から逃れることはできなかった。「あなたは、ジョージさんが襲われた夜、部屋にいた。そして、その後に肖像画が消えたのも、あなたがその夜の混乱を利用して、過去を隠そうとしたからです。」


ポアロはその場に立ち尽くしている家族全員を見回し、続けた。「消えた肖像画こそ、この家の秘密を象徴するものでした。肖像画に描かれているのは、ジョージさんの祖父、そして実際には彼の本当の父親ではない人物だったのです。つまり、その肖像画が消えたことによって、家族の過去の真実が隠されるはずでした。」


レディ・イザベルが初めて口を開いた。「では、メアリーが……それを?」


「いいえ、レディ・イザベル。」ポアロは彼女の方に向き直った。「メアリーさんは、家族のためにその事実を隠そうとしましたが、彼女自身が襲撃の計画を立てたわけではありません。彼女はその夜、ジョージさんが危険にさらされていることを知り、止めようとしたのです。しかし、彼女は犯人を知っていた……そしてその犯人とは、館に非常に近しい存在です。」


ポアロはゆっくりとジェイコブ執事の方を向いた。彼の顔には、かすかな汗が浮かび、目を逸らすことができないようにポアロの視線に捕らえられていた。


「ジェイコブ、あなたはこの家に長く仕え、この家族のすべてを知っています。しかし、あなたが一族のために守ろうとしたのは、この家族の名誉そのものだった。過去の秘密が明るみに出ることを恐れ、あなたはジョージさんを襲い、そして肖像画を消したのです。」


ジェイコブの顔色が次第に蒼白になり、彼は震える手で額を押さえた。「私は……私はただ……この家のために……」


「あなたは、家族の名誉を守ろうとした。しかし、その行動が裏目に出たのです。ジョージさんは命を奪われる寸前まで追い詰められました。そして、あなたの行動は、家族の絆を崩壊させかねないものでした。」


部屋の中は、重苦しい沈黙に包まれた。誰もが言葉を失い、ジェイコブの告白を聞いていた。彼は膝をつき、ポアロの前で頭を垂れた。「すべては……私の過ちです……」


ポアロはゆっくりと彼の前に膝をつき、優しく語りかけた。「真実は時に苦しいものですが、嘘を隠し続けることは、より大きな悲劇を招くものです。あなたは家族のために尽くしましたが、その忠誠心が間違った方向に導かれてしまったのです。」


その言葉に、ジェイコブは声を詰まらせ、涙を流した。


「ポアロさん、ありがとう……」メアリーが震える声で言った。「これで、全てが……」


ポアロは静かに頷き、「事件は解決しました。しかし、これからは家族全員が真実に向き合い、新たな絆を築く必要があります。」と言った。

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