2 高入組

 ウチの高校は、中学から内部進学する「内進」と、高校受験を経て外部から入ってくる「高入」に分かれる。

 俺と千木良兄弟以外に、一年生は高入が三人いるらしい。

 俺は運よく持っていた体操着に、双子は練習着に着替え、部室からグラウンドへ向かう。

 そこでは、三人の人影がキャッチボールをして戯れていた。

「俺、軽く打ちたい!」

 元気な、よく通る声が空に響く。打ちたいと宣言した男子はバットを持って構えた。その後ろで捕手役の男子がグローブを構えてしゃがむ。

「いっくよ〜!」

 少し距離をとった位置から、投手役の一番小柄な男子が、振りかぶって投げた。わずかに球が曲がり、打者は空振り。

「あ〜! クッソ〜!」

 悔しがるバッターに、俺は近づいた。

「もっと軸足を前に出すといいよ」

「え? あ? そうなの?」

 俺の助言を素直に聞く彼。捕手が投手に球を返して、小さな彼がもう一度振りかぶった。

 カキン!

「うわ! ほんとだ!」

 投手の後ろに球を逸らすわけにいかないので、軽いゴロが地面を弾む。

 当てやすくなった実感を味わってもらえたようで何よりだ。

「すげーな、お前! てか、誰? 俺は三浦! ファースト!」

「い、五十嵐……」

 バットを持ったまま、三浦はニパッと笑った。笑顔が眩しいやつだ。

「五十嵐? 何組? いつから野球やってんの?」

「え、えと……」

 矢継ぎ早の質問に戸惑っていると、投手と捕手をやっていたやつも集まってきた。

「誰だれ〜? 新入部員? 僕、一ノ瀬、よろしくね」

 友好的な笑顔で挨拶をしてくる投手。

 俺は勢いに押されてドギマギしてしまう。

「まだ入部すると決まったわけじゃ……」

「え〜、違うの〜? じゃあ、先輩たち来るまで僕と勝負しようよ、三本対決! 僕、ピッチャーだからさ」

 背の低い一ノ瀬が、上目遣いで可愛くないお願いをしてくる。体験入部で早々に勝負なんてごめんだ。

「だめだよ、一ノ瀬くん」

 断りを入れる前に、六雅が間に入ってきた。

「五十嵐くんが強すぎて勝負にならないから」

「……へぇ、尚更勝負したいね」

 六雅の制止に一ノ瀬が怪しく笑みを浮かべる。

 ……でも、俺はそんな期待されるような人間じゃない。

「……そんなすごい人間じゃないよ。俺なんてほんと……、大したことないから……」

「……ふぅん」

 俺のトーンの低さに、一ノ瀬はそれ以上の追求の手を下ろした。察しが良くて助かる。

「い、五十嵐くん……」

 名前を呼ばれて振り返ると、捕手役をやっていた男子が、後ろに立っていた。

「僕は、すごいと思いますよ。三浦くんを一目見て、的確にアドバイスするなんて、なかなかできないです」

「……ありがとう」

 控えめに褒めてくれた彼は九瀬というらしい。

「僕は、部活を決め悩んでいたところを、同じクラスの三浦くんに誘われて、そのまま入部しました」

 なんだか、千木良兄弟に連れてこられた自分と、重ね合わせてしまう。

「野球は、中学からやっていて、中学の時も似たような流れで、野球部に入部したんですよ」

 えへへ、と控えめに笑う九瀬。

「……俺も、千木良兄弟に連れられて見学来たんだ」

「なんだか似てますね、僕たち」

「そうだな」

 九瀬と二人で笑い合う。

 一ノ瀬が、振り返った。

「あ、先輩たち来た」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る